やはり剣だろうとトモナリは思った。
トモナリのメインの武器は剣である。
一流の職人に依頼をするのにメインで使っているわけじゃない武器をお願いするのも失礼かもしれない。
職人に認められる必要があるのだから、お願いする方としても相応の依頼をすることが必要だろう。
「何を頼むのか決めたのか?」
「ええ、決めました」
「何を依頼するつもりだ?」
「防具を」
職人がアカデミーに来て、トモナリと会うことになった。
課外活動部の会議室で話をすることになり、トモナリはカエデとエレベーターに乗っている。
何をお願いするのだという質問にトモナリは防具だと答えた。
剣がいい、どんな剣にしようと考えていたトモナリだったのだけど、直前になって考えを変えた。
剣ではなく防具を作ってもらおうことにしたのである。
それには理由があった。
「てっきり武器をお願いするものだと思っていたのだがな」
エレベーターが課外活動部の階に着いた。
「そのつもりだったんですけど……少し理由がありまして」
「何を依頼するかは任せているから好きにするといい」
誰もいなくてがらんとした課外活動部のレストルームはいつもよりも広く見える。
「先方はもう来ている。まあ気負わず頼むぞ」
「ええ、がんばります」
「うむ、僕がお願いすればきっとイチコロなのだ」
「頼もしくてよろしい」
胸を張るヒカリを見てカエデも微笑む。
「失礼します」
会議室をノックして入っていく。
中には年配の男性と若い男性の二人がいた。
「ご足労ありがとうございます。彼が今日ご紹介する愛染寅成さんです」
「どうも、今日はよろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
トモナリが頭を下げると若い男性の方は笑顔を浮かべて同じくお辞儀する。
一方で年配の男性の方はトモナリに険しい目を向けている。
「こちらが職人の佐武宗則(サタケムネノリ)さんとそのお弟子さんの飯尾聡(イイオサトシ)さんです」
年配の男性が条件を突きつけてきた職人のサタケであり、若い男性の方はサタケの弟子のイイオであった。
「ヒカリなのだ! むむぅ?」
ヒカリが愛嬌たっぷりに手を振るけれど、サタケは相変わらず険しい顔をしたままである。
割と誰にでもヒカリの魅力は通じるのにサタケには通じないようだ。
ニコリともしないサタケにヒカリも少し驚く。
「確かに実力はありそうだな」
サタケはトモナリのことをじっと見つめている。
全てを見透かすような目をしていて、トモナリは少し居心地の悪さを感じていた。
「……悪くはなさそうだ」
「師匠……すいませんね、素直な人じゃなくて」
無愛想なサタケにイイオは困ったような顔をする。
見た目でノーと言われる可能性があったのかとトモナリは苦笑いを浮かべる。
「それでどんなものを作ってほしいのですか?」
サタケに代わってイイオが話を進める。
「俺は防具を作ってもらいたいと思っています」
「防具ですか?」
イイオは驚いた顔をする。
作るのは当然武器だろうと思っていたのはカエデだけじゃない。
イイオの方も武器をお願いされるものだと思っていた。
「どんな防具が欲しい?」
ここでサタケが口を出す。
武器じゃなく防具ということは何かの理由があると思った。
つまりただ何となくで武器をお願いするのではなく、考えがあるのだ。
ほんの少しだけ興味を持った。
「これを使って作ってほしいんです」
トモナリはインベントリから透き通った茶色い玉を取り出して、テーブルの上に置いた。
「これは?」
「アースドラゴンの精髄です」
「アースドラゴンの精髄!?」
茶色い玉、それはギルド研修で五十嵐ギルドに行った時に手に入れたアースドラゴンの精髄であった。
かなりの貴重品にイイオは驚いている。
カエデも声こそ出さなかったが驚いた目をしていて、サタケもピクリと眉を上げた。
「こんなものでどこで……」
「たまたま手に入れる機会があったんです。それに……」
「アイゼン……トモナリ。そうか。どこかで聞いた名前だと思った。イガラシのやつから聞いた名前だったのか」
サタケはアースドラゴンの精髄を手に取った。
「あっ、話聞いていたんですね」
「いつか連絡があるかもと聞いていた。いつまで経っても連絡がないから忘れていたわ」
トモナリがサタケに防具をお願いする理由は、サタケがイガラシから紹介された職人だったからである。
アースドラゴンの精髄をもらった時に、精髄を加工できるかもしれない職人の連絡先ももらった。
その職人こそがサタケなのであった。
名前を聞いた時にトモナリも驚いた。
だが同時にチャンスかもしれないとも思った。
アースドラゴンの精髄を加工できるかもしれない職人に何かを作ってもらえる機会が、向こうのほうから転がり込んで来た。
これはもうアースドラゴンの精髄の加工をお願いするしかない。
サタケの方も実はイガラシから連絡を受けていた。
トモナリがアースドラゴンの精髄の加工をお願いしにいくかもしれないことを伝えていてくれたのだ。
ただトモナリも学生身分でお金も時間もないのですぐに連絡はしなかった。
それでサタケもトモナリの名前を忘れていたのである。