「……不意打ちは無理そうだな」
二階への入り口は階段になっていた。
その階段の前にケイブマンティスが立っている。
階段を背にして守るように立っているので後ろから奇襲することはできない。
こうなれば正面から挑むことになる。
「にひっ、行く?」
ミズキは笑顔を浮かべている。
一体倒して自信がついた。
今見えているケイブマンティスも一体だけで、今なら倒せるという気がしていた。
「いける」
「僕もだ」
サーシャとコウもやる気の顔をしている。
過信はいけないが、自信は自分の力を引き出してくれる。
今の士気が高い状態は好ましいとトモナリは思っていた。
どの道、戦闘は避けられない。
ならばこのまま勢いに乗って戦った方がいい。
「戦い方は前と大きく変わらない。ただ今回は戦う場所が広い。そこは気をつけて戦うようにしよう」
先ほどの戦いは洞窟内の道でだった。
狭くてケイブマンティスの動きが制限されていた。
しかし今回は広い部屋での戦いになる。
こうした環境の変化による戦い方の変化は当然に警戒しておくべきである。
「よし、行くぞ」
「いーくのだ!」
まずはヒカリが飛び出していく。
ケイブマンティスはヒカリに気づいてカマを擦り合わせる。
「ぬおっと!」
ヒカリは間一髪カマを回避する。
最初に戦ったケイブマンティスよりもカマの速度が速い。
「気をつけろ! やはり全力を出せるようだ!」
狭い道の中ではカマを思い切り振り回すことも難しかった。
壁に当たらないようにと思うと、どうしても全力とは程遠くなってしまう。
しかし広い空間があれば周りを気にせずカマを振り回すことができる。
カマの威力も速度も道で戦った時よりも一つ上だと考えるべきだ。
ヒカリが注意を引き付けてくれている間に、トモナリたちもケイブマンティスに接近する。
「うっ!」
「サーシャ、大丈夫か!」
「う、うん。大丈夫。次は失敗しない」
サーシャがカマを受け流そうとして、力を流しきれずに大きく弾き返された。
バランスを崩しそうになったサーシャをトモナリが後ろから支える。
想像より速くて重くて受け流すのに失敗して、サーシャは悔しそうな表情を浮かべる。
タンクが崩れると後ろはあっという間にピンチに陥ってしまう。
仲間のためにもタンクは何がなんでも相手の攻撃を止めねばならないのだ。
かなりきついが止められない攻撃ではなかった。
次こそは止めてみせるとサーシャは盾を前に出す。
「ミズキ、焦るなよ!」
「わ、分かってるよ!」
コウとヒカリで牽制しつつ、サーシャとトモナリでカマを防ぐ。
ミズキはサーシャとトモナリから一歩下がる形でひたすらに時をうかがっていた。
一撃を加えるタイミングを待っているのだが、どうしても焦ったい気持ちが沸き起こってしまう。
だがこんな時こそ辛抱強く待つべきなのだ。
焦って飛び込めば危機を招いてしまう。
「やるぞ!」
焦りや苛立ちを覚えるのはモンスターも同じ。
目の前を飛び回るヒカリや攻撃をうまく防ぎ続けるトモナリに、ケイブマンティスは苛立って動きが大きくなってきていた。
サーシャが盾でカマを受け流したタイミングで、トモナリは前に出る。
ケイブマンティスはトモナリが焦って飛び出してきたのだと思った。
愚かな人間。
ケイブマンティスはトモナリを斬り裂こうとカマを振り下ろす。
「はああああっ!」
トモナリはルビウスに魔力を込める。
ルビウスから炎が噴き出し、大きな剣のようになる。
振り下ろされたカマに横からルビウスを当てた。
「ウォーターバインド!」
軌道が逸れたカマはトモナリを外れて地面に先端が突き刺さる。
コウが魔法を発動させる。
水で作られた鎖がカマに巻きついて拘束する。
「ミズキ!」
「やっとだね!」
「ミズキはやらせないよ」
一気に地面を蹴ってミズキが走り出す。
カマが一本動かなくとも、もう一本ある。
ケイブマンティスはミズキを狙ったけれど、サーシャがそうはさせない。
スキル光の加護を発動させてうっすら光るサーシャはカマを盾で受け止める。
バキンと音を立てながら盾は真っ二つに破壊されてしまう。
けれどもその役割は果たした。
「どりゃあ!」
ミズキが刀を振る。
狙いは拘束されたカマ。
カマの刃のところではなく、カマに繋がる腕の部分に刃が届く。
「ビーッ!」
カマを斬り落とされてケイブマンティスがのけぞる。
のけぞってやや見上げるケイブマンティスの目の前にヒカリがいた。
大きく開けられたヒカリの口に魔力が集まっているのを見てカマを上げようとしたけれど、遅かった。
ヒカリの口から圧縮された魔力のビームが放たれる。
「あ、良いとこ持ってかれちゃった」
ヒカリのビームブレスがケイブマンティスに直撃する。
防御力の低いケイブマンティスはヒカリのブレスに耐えることができない。
ヒカリのブレスが収まった後、ケイブマンティスの頭は消し飛んでしまっていたのであった。
そのままケイブマンティスはゆっくりと地面に倒れる。
「やったのだー!」
「上手いことやったな」
ブレスの威力や戦い方もさることながら、連携や相手の隙の見つけ方も上手くなっているなとトモナリは思った。
ヒカリは両手を上げて喜んでいる。
「そんなに危ないこともなかったな」
もうちょっと苦戦するかもと思ったが、意外と余裕を持って倒すことができてしまった。