「少し休憩してから二階に向かおうか」
単に能力が高いだけじゃない。
信頼も大きい。
ミズキたちもなんだかんだと一年の仲である。
授業中だけでなく、課外活動部やそれ以外の時間でもトレーニングなど多くの時間を共に過ごしてきた。
低レベルから成長を見てきていて力も分かっているし、どんな考えでどんな動きをするのかも分かっている。
上手い連携は力を大きく引き出してくれる。
「サーシャ、盾は大丈夫か?」
「ん、予備ある」
戦いの最中にサーシャの盾が壊れてしまった。
そう考えるとギリギリのところもあったのかもしれない。
サーシャは壊れた盾をインベントリに入れて新しい盾を取り出す。
「むむ……実力不足」
盾を壊してしまったことでサーシャは少し落ち込んでいる。
装備品が壊れてしまうことはある。
どんなに良いものでも物である以上は壊れてしまうことも仕方ない。
けれども壊れる可能性というのは使う人の努力によって下げられる。
装備品の定期的なメンテナンスを始めとして戦闘中の使い方や、あるいは本人の能力にもよる。
もっと上手く攻撃を受けていたら。
もっと魔力が強くて盾を保護することができれば。
そんなことを考えてサーシャは落ち込んでいるのだ。
「そう気に病むな」
トモナリはポンとサーシャの頭に手を乗せた。
別に落ち込むことはないと微笑みかけてやる。
「最初から失敗しない人なんていない。失敗して、それを反省して次はもっと強くなるんだ。相手は格上のモンスターだった。それでもあれだけ耐えたんだからタンクとして優秀だよ」
むしろサーシャはよくやった方である。
本来ならリスクが大きくて戦うべきではないケイブマンティスの攻撃をよく止めてくれていた。
タンクとしての役割は十二分に果たしてくれていたと言っていい。
結果的に盾は壊れたが、サーシャ自身に怪我もない。
盾一つで済んだのだから良い結果だ。
「トモナリ君がそういうなら……」
サーシャ自身としては納得の結果ではない。
けれどもダメだったらダメだったとトモナリはちゃんと言ってくれるので、よかったと言ってくれるならよかったのだろうとちょっと気分は落ち着く。
「サーシャも僕のような華麗な戦いを見習うと良いぞ!」
ドヤ顔のヒカリがサーシャの頬をつっつく。
「うん、見習う」
「にょっ! はーなーすーのーだー!」
ニコッと笑ってサーシャはヒカリのことを抱きかかえた。
ヒカリはサーシャの腕から抜け出そうとするけれど、ガッチリと掴まれていて抜け出せない。
「よし、二階に行くか」
軽く水分補給も行って二階に上がっていった。
二階についてももうすでに攻略が行われていて、内部の構造も出てくるモンスターも分かっている。
洞窟の中という環境は一階と大きく変わりないのだが、一階よりも薄暗い。
より敵を見落としやすいことになるのでトモナリたちは警戒して進んだ。
「異常ナーシ」
これまでと同じくヒカリが先行して様子を確かめてくれる。
「……何もいなかったね」
「まあこういうこともあるわな」
いつ敵が現れてもいいようにとかなり警戒していたのだけど、三階への階段の前までモンスターは現れなかった。
一階のように復活していることもあれば、復活していないということも普通にあり得る話だ。
もしかしたら復活していたのに遭遇しなかったという可能性もある。
どの道、二階ではモンスターに会わなかったので運が良かったのである。
「次が問題の三階だな」
二階では戦いがなかったのですぐに三階に行く。
ミスリル鉱脈が発見されたのが三階であり、今回の目的地である。
「なんとなく雰囲気違うね」
「洞窟……鍾乳洞みたいな感じだね」
三階に上がってきて、少し環境が変わった。
一、二階はただの洞窟といった感じであったのだけど、三階は天井から氷柱のような岩が垂れ下がる鍾乳洞のようになっていた。
天井も高く、空気感もややひんやりとしている。
これまではある程度の広さの部屋と道を繰り返すダンジョンタイプの作りをしていた。
しかし三階は階段を上がってきた最初の部屋で、もうかなりの広さがある。
「ここもそれなりにモンスターの数は少ないはずだけど……地図も完璧じゃないし気をつけよう」
このゲートも攻略が目指されていないわけではない。
ただミスリル鉱脈があることとレベル制限の厳しさから三階の途中までしか攻略されていなかった。
そのために地図も中途半端な状態である。
攻略も半端ということは一、二階と違ってモンスターも倒され尽くしていないということだ。
まだまだモンスターがいる可能性が大きい。
「まずは一番近い鉱脈から行こうか」
ミスリル鉱脈も三階の中に数箇所ある。
見つかっている鉱脈の中で近くにあるものにトモナリたちは向かった。
「これがミスリル……」
ヒカリが警戒してくれたが、モンスターに遭遇することなく近くのミスリル鉱脈まで来ることができた。
青っぽい鉱石が壁から露出している。
水晶のようだけど金属だからか中が透けて見えることはない。
ふんわりと魔力の気配を感じさせ、手を近づけてみると体の魔力が引き寄せられるような不思議な感覚がある。