「ああ、ヒカリ、お疲れ様」
「わ、私はみんなを手伝わなきゃいけないので!」
トモナリの気がヒカリに逸れた隙にナナもサッとみんなの手伝いに戻っていく。
「……なんだったんだ?」
「なんなのだ?」
「なんでもないよ」
ともかく、サタケとナナの関係は悪くないのだなとトモナリは思った。
職業も同じあるし、父親であるサタケのことも尊敬していると前に口にしていたこともあった。
父親と仲がいいのは羨ましいなとトモナリは思った。
『お主の父親は? そういえば聞いたことがないな』
「俺が小さい頃に亡くなったよ」
『……悪いことを聞いたな』
「いいさ。記憶にも残ってないぐらいなんだ。でも父さんも覚醒者として戦っていたって聞いてる」
トモナリには父親がいない。
今も健在で離婚したということではない。
トモナリが物心つく前に亡くなってしまったのである。
父親も覚醒者であって、モンスターとの戦闘中に亡くなったのだ。
顔も覚えていない。
そのせいか寂しさを覚えることはあっても、会いたいと思ったことはなかった。
「ヒカリ?」
「僕がいるのだ」
どことなく寂しそうな顔をしている。
そう思ったヒカリトモナリの頬に自分の頬をくっつけた。
ほんのりと温かい。
「そうだな」
トモナリは笑顔を浮かべてヒカリの頭を撫でる。
『妾もおるぞ』
『力不足かもしれないが、私もそばにはいる』
「……はははっ! みんなありがと」
いつの間にか家族がたくさんだな、とトモナリは思った。
敵としてドラゴンが現れることもあるだろうけど、今回は敵だけじゃなくて味方のドラゴンもいるのだということを周りにも知ってもらいたいという気分になった。
「素敵な友達……素敵な家族だよ」
ーーーーー
『ダンジョン階数:一階
ダンジョン難易度:F+クラス
最大入場数:77人
入場条件:レベル2以上
攻略条件:全てのコボルトを倒せ』
「森の中か」
先に入ったグループが戻ってきて、次のグループの番になった。
ゲートに入る二年生も交代となって、トモナリと一年生と一緒にゲートに入場した。
ゲートの情報としては特出するところはない。
最大入場数は多めだし、ダンジョン階数も一階とシンプル。
レベルも下限があるだけで、その下限もほぼ制限がないことに変わりがない。
FじゃなくてF+なことは少し気になるけれど、トモナリや教員たちがいれば対処は問題ないだろう。
実際にゲートの中に入ってみると、そこは森になっていた。
針葉樹系の木々が高く生えていて、カラッとした空気の気持ちのいい森である。
「ここからは二つに分かれて行動しましょう」
「サーシャ、頑張れよ」
「トモナリ君もね」
「それじゃあマコト、行こうか」
「僕も頑張るよ」
一年生を二つに分ける。
トモナリとマコトは同じ方に行き、サーシャは別の方についていくことになった。
トモナリたちがついていく一年生の引率はイオリである。
「モンスターがいましたよ! 話をやめてしっかりと警戒を。周りに他のモンスターもいるかもしれません」
先頭を歩くイオリがモンスターを見つけた。
ゲート情報にあったように出てくるモンスターはコボルトというものである。
犬のような頭と子供ぐらいの体を持ったモンスターだ。
ゴブリンとも比較されることが多いような弱いモンスターである。
ゴブリンと比較すると力や素早さは高いものの、知能の面ではゴブリンよりも劣る。
犬の頭といっても全く可愛くない顔をしているが、醜悪なゴブリンよりも戦いやすい相手だと思う。
「……一体だけですか。アイゼンさん、お手本をお願いしてもいいですか?」
「俺ですか?」
「はい、まずはどんな感じに戦うのか見せてもらえれば」
「分かりました」
初めて生で見るモンスターに緊張している子も多い。
まずはトモナリがお手本を見せることになった。
「おっ、先輩が出るんすか」
剣を抜いて前に出るトモナリとヒカリに一斉に視線が集まる。
「それではお願いします!」
一年生たちはコボルトが来ないように十分な距離をとって見守る。
トモナリはルビウスを手にコボルトに近づいていく。
ちょうどトモナリに背を向けていたコボルトは、草を踏み締める音に耳をピクリと動かした。
スッと振り向くとトモナリの姿が見えて、牙を剥き出してうなり始める。
「ヒカリ、すぐには終わらせないぞ」
倒してしまうのは簡単だ。
けれども今回はみんなの経験にもなるようにしなければならない。
コボルトはどこから持ってきたのか太い枝を持っている。
棍棒とも呼べないような粗末な棒である。
トモナリが剣を構えて待っているとしびれを切らしたコボルトの方から襲いかかってくる。
振り下ろされる棒を横にずれるようにして軽くかわす。
そのまま棒を乱雑に振り回してくるので剣で受け止めたり回避したりする。
「あのようによく見れば攻撃もなんて事はありません。回避も防御もできるはずです」
イオリはトモナリの戦いに解説を挟む。
上手くやってくれるなと思わず感心してしまう。
「おっと」
トモナリは苛立ったようなコボルトの噛みつき攻撃をかわした。
「そろそろだな。選手交代だ」
コボルトの攻撃パターンも見えてきた。
トモナリが軽くいなすのでコボルトへの恐怖も減ってきただろう。
そろそろ倒そうと、トモナリはヒカリに視線を送った。