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一年生を護衛して5

「いくのだぁー!」


 一年生に良いところを見せるのだとヒカリはヤル気に燃えている。


「ポゥッ!」


 ヒカリが口から炎を吐き出す。

 いつものような広がる炎でもビームのようなものでもなく、炎の玉をポンと撃ち出したのだ。


 コボルトは慌てて火の玉をかわす。


「ふっ……くらうのだ!」


 火の玉をかわされてもヒカリは冷静だ。

 なぜなら火の玉がかわされることもヒカリには折り込み済みであった。


 火の玉に意識を持っていかれたコボルトにヒカリは素早く近づいた。

 手を大きく上げ、魔力を爪に込めながら振り下ろす。


「おおー!」


「ヒカリ先輩、すごいっす!」


 ズバッと斬り裂かれてコボルトが倒れる。

 一年生の歓声にヒカリはまるでなんてこともないかのように振り向く。


 ただ尻尾は全力で振られている。


「ちゃんと戦いを見ましたね? 皆さんも努力を重ねていけばあのように戦うことができます。冷静さを忘れず、よく相手を観察して戦いましょう。今のみなさんでもコボルトはちゃんと相手にできるはずです」


 イオリが戦いを総括する。


「さすがだね、トモナリ君」


「今ならお前だって同じようにできるだろ」


 マコトも強くなった。

 トモナリという存在が横にいるので、分かりにくいかもしれない。


 けれども素早さが高く、影に潜む能力を持つマコトの一撃はトモナリだって油断ができないほどだ。

 コボルトの相手ぐらいなら、マコトが正面から戦ったとしても負けはしない。


「そうかな?」


「変な謙遜は嫌味に聞こえるぞ?」


「トモナリ君だってよくやってるじゃないか?」


「そうか?」


 そんなに謙遜しているつもりはない、というとそれもまた嫌味に聞こえるなとトモナリは思った。

 トモナリの戦いを見て自信をつけた一年生。


 ゲートの中を移動しているとまたコボルトを見つけたので、今度は一年生がコボルトに挑戦する。


「うおーっ! やるぞー!」


 やっぱりいざやるとなると緊張する。

 誰がやりますか? とイオリの問いかけにそれぞれ様子を窺う中で、ミヤマエが勢いよく手を上げた。


 流石に一人では危険だ。

 ということでミヤマエの番である七班でコボルトと戦うことになった。


「見ててください、先輩! 日頃の特訓の成果を!」


 ミヤマエはトモナリに向かって剣を持った手を振る。

 危ないから剣を持ってそういうことをするのはやめなさいと思っていたら、イオリにしっかりと怒られていた。


 ミヤマエの武器は職業である双剣魔師というように双剣である。

 ただし色々試した結果、両方同じ大きさの剣ではなく、聞き手である右手の剣は通常サイズにして、左手に持つ剣を一回り小さいものにした。


 双剣としての攻撃スピードを維持しやすいこともあるし、双剣魔師として魔法の取り回しなどを考慮したのだ。

 七班で戦うということは、ハルカとナナも同じく戦うということになる。


 他の班ならいざ知らず、この三人がいればコボルトなんて目ではない。


「それじゃあ行くっすよ!」


 七班がコボルトと距離を近づけていく。

 ハルカは魔法使いタイプなので杖を持っている。


 ナナの方は小さめの盾と剣というスタイルだ。

 ハルカはともかくナナは難しい立場にある。


 特殊な職業ではあるもののハルカは完全に魔法職である。

 つまり立ち回りや装備など魔法に寄せておけば間違いない。


 一方でナナもある意味で特殊な職業である。

 ナナの職業は鍛冶職人だ。


 あえて分類するなら戦闘職ではなく、サポート職のようなものになってしまう。

 覚醒者である以上戦えないわけではないが、戦いに向いた職業だとは言いがたい。


 裏を返せばなんでもできるとも言える。

 立ち回りを自分で決めていけるのだ。


 そのためにナナは色々と試してきた。

 基本スタイルは剣で戦う接近職として頑張っているのだけど、七班は今タンク役となる人がいない。


 トモナリの班はサーシャという明確なタンクがいたけれど、クラスの職業分布や班分けによってはそうした職業の人がいないこともある。

 そこでナナが軽くタンク役も兼任するように盾を持っているのだ。


 ただタンクがいない覚醒者チームで活動している人もいる。

 ナナも本気でタンクをやるのではなく、いわゆるサブタンク的な役割だ。


「はっ!」


 相手はコボルトが二体である。

 先制攻撃にハルカは魔法を放つ。


 複数の拳大の火の玉がコボルトに飛んでいく。


「おらっ!」


 肩に火の玉が当たって叫ぶコボルトにミヤマエが斬りかかる。

 防御しようと上げられた棒を切り裂き、素早く次の攻撃を繰り出す。


 二本の剣を操る双剣使いは次の攻撃が出るのも早い。


「チッ! 浅かったか!」


「任せて!」


 ミヤマエの剣はコボルトの胸を斬り裂く。

 しかし倒しきれずにコボルトは牙を剥き出しながら後ろに下がる。


 ミヤマエよりも早くコボルトの追撃にナナが向かった。

 逃げきれないと察したコボルトの噛みつき攻撃を盾で防いで、ナナはコボルトの首を斬り落とした。


「いい動き」


 サーシャも思わず感心してしまう。

 ハルカたち三人の動きは他の二人よりも明らかによかった。


 課外活動部や普段のトレーニングの成果が確実に現れている。

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