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第9話 魔法の宿題

「今日は何の依頼を受けようかな」


「これなんてどうでしょうか師匠?」


 俺とクレハは冒険者ギルドにあるクエストボードの前に来ている。


 クレハが見せてきたのは伯爵家の領地の魔物討伐のクエストだ。


「だけどこれ、A級冒険者じゃないと受けられないやつじゃないか?」


 依頼内容はトレントという魔物の討伐だ。


 この魔物はA級以上の冒険者じゃないと受けられない。


 ちなみに俺はまだCランク冒険者だ。


 なので受ける事はできないが……。


「大丈夫です、私はS級冒険者ですので問題はありません!」


「え、S級だったのか、凄いな……」


 流石はクレハ、将来王国最強の剣士になるだけある。


「それじゃあこの依頼を受けようか」


「じゃあ依頼書を受理してきます!」


 そう言ってクレハは急いで依頼の紙を受付嬢の元に持っていく。


 しかし少し心配だな。


 俺はまだ冒険者になったばかりだし、魔法は使えてもA級レベルの魔物とは戦闘経験皆無だ。


 俺は少し不安になりながらも、依頼を受理して戻ってくるのを待つ。


 そして数分後、依頼の受理が無事完了し、クレハが戻ってくる。


「大丈夫です! 師匠と一緒ならどんな魔物が来ようと倒せます!」


 クレハはやる気満々の様だ。


 まあやる気があるのはいいことだ、逆に俺は少し不安になっているけど。


 そんな気持ちを押し殺して、俺たちは伯爵領へ向かう事にした。



 馬車に揺れながら、俺はクレハに話しかける。


「そういえばクレハ、前回出した宿題はやったか?」


「はい、魔法のイメージと制御についてですよね」


 そう、俺が今回クレハに出した宿題は魔法のイメージと制御だ。


 魔法とはイメージで決まる。


 イメージをしっかりしないと、魔法は発動しないし威力も弱くなる。


 そしてコントロールが上手くいかないと暴発する事もあるのだ。


 だから俺はクレハに魔法のイメージと制御のやり方を教えて、魔法書も貸した。


「実は半分理解は出来たんですけど、もう半分は分からないんですよね」


 クレハの言う半分とは、きっと魔法のイメージだろう。


 イメージさえできれば、魔法の発動が上手くいくはずだ。


「伯爵領まで時間が掛かりそうだし、イメージのやり方を教えてやる」


「イメージですか?」


「ああ、少し手を触るぞ」


 俺はそう言うと、クレハの手を優しく握る。


「わ、わわ! 急になんですか?」


 顔を赤くするクレハを見て、俺は少しドキッとする。


 いかんいかん、今はイメージをさせないと。


 俺は心を落ち着かせて、クレハに微量の魔力を流す。


「どうだ? 少し感覚が掴めたか?」


「は、はい」


 俺は少し力を入れて魔力を流しながら、感覚を掴ませていく。


 するとクレハは少し魔力を動かす感覚を理解したようで、指に少しだが魔力を込めるようになってきた。


 イメージはできたな。


 後はこの感覚を物にすれば、完璧だ。


 俺はそっと手を離そうとすると、クレハの手に少し力が入る。


 俺は少し驚きながら、クレハの顔を見る。


 するとそこには、顔を赤くしながら俺の目を見て離さないクレハの姿があった。


「あ、あの、まだ感覚が掴めてません。抱き着いても良いですか……?」


「え」


 潤んだ目でそんな事を言われ、俺はまたもやドキッとしてしまう。


「駄目でしょうか?」


「お、俺は構わないけど、抱き着かれたらあんまり魔力が流せないぞ?」


「大丈夫です」


 俺がそう言うと、クレハはゆっくりと近づいてきて俺に抱き着いてくる。


(何だこの状況は……)


 そういえばクレハは寂しがり屋なキャラクターだった気がする。


 だからこんな風に抱き着いているんだろう。


 俺はドキドキしながら、伯爵領に着くまでクレハに抱きしめ続けられたのであった。

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