俺は勝負の顛末に、強張った笑みで呟く。
「ふぅ……地味に人を殺してしまった……。けどアレよな? 今の世の中蘇生魔法があるんだもんな。ちょこちょこ噂に聞くし」
蘇生魔法。詳しくは知らないが、死んだ人間を生き返らせられるらしい。今はそういうことができるのだと。
何とすごい魔法だ。その辺にモンスターがあふれてるのより衝撃じゃない?
何はともあれ、正当防衛という奴だ。警察もいない隔離地域で、やーやー言われる筋合いもなかろう。
俺は万事ヨシと確認して、ぼたんに振り返る。
「ぼたん、怖くなかったか? この通り勝ったから、安心してくれ」
「……た、タク、あ、あの、今……」
「ん?」
振り返った先で、ぼたんは俯いて、顔を真っ赤にしていた。彼女はしずしずと近寄ってきて、恥じらいがちに俺の服を掴む。
「わ、私のこと、怪物って呼ぶな、って……」
「ん? そんなの当たり前だろ。お前、俺の人生で一番の美少女だからな。あ、ごめんあんまこういうこと言うの良くな……ぼたんっ?」
ぼたんは、何故か俺の言葉を聞いて、ボロボロと泣いていた。俺の胸に顔を寄せ、震えながら泣き出してしまう。
「えっ、そんな傷ついた? ごめんそこまで中二設定を大切にしてるとは」
「ちっ、ちが、ちがう、の……! わ、わたし、自分でも、ずっと怪物だって、わたし、どんなところでも、うけいれられないっ、て……!」
俺は首を傾げる。こんな美少女が、受け入れられないなんてことある訳なかろうに。
だが、ぼたんは続ける。
「私は、周囲の人を、傷つけるばっかりで。恩がある家族も、力があるのに守れなくて。私の力なんて、誰の役にも立たなくて」
「そんなことないだろ。昨日とか一緒に料理したじゃん」
「私、う、生まれてこない方が良かったんだって、ずっと思ってて……! こんな、こんな私なんて、早く死ねばいいんだって」
「はぁ!? そんな訳ないだろ!」
驚いて俺が否定すると、泣きながらぼたんがくしゃりと笑う。
「うん……っ、うん……! だから、タクが、タクが私のこと、怪物じゃないって、そんな風に呼ぶなって言ってくれて、私、すごく嬉し、くて……っ」
「……えー? 全然分かんない。ぼたんって中二病じゃん。怪物って言われる方が嬉しいと思ってた」
「あ、あんなの、全然嬉しくないっ。だから、タクが否定してくれて、私……」
「あー……? まぁ、お気に召したなら良かったよ」
イマイチ納得がいかないが、ともあれ、俺の言葉が嬉しかった、という事を伝えたいようだ。
具体的には推し量れないものの、ぼたんも大きなものを抱えているのだな、と俺は思う。こんな可愛い子でも、人生色々あるものだ。
とはいえ、確かに過度に美しいのもやっかみを産むのも事実。この通り気の弱いところもあるし、可愛すぎていじめられたこともあったのだろう。
俺はぼたんを優しく抱きとめ、頭をなでる。
「よく分からないけど、とりあえず俺とは仲良くやってるだろ? それでいいじゃん。ほら、ティッシュあるからチーンしてチーン」
「……子供扱いされてるのは、不満、だけど……でも、ありがとう」
ぼたんは涙を拭って、俺から離れる。
それからハッとして、俺を泣きはらした顔で見上げてきた。
「って、ていうか、タク、今の戦い、何? 日用品スキルで出来るような戦いじゃない。どういうこと?」
「どういう事も何も、こんなもんじゃね? スキルってザコスキルでもまぁまぁ強いじゃん」
「それどころじゃない。アレが、アレが
「え? はい」
ロックを外して渡す。スキルステータスのアプリを開き、そこに書かれている表記を、ぼたんは食い入るように見る。
つまり、俺のザコスキル『日用品マスター』を。
「……ッ。……た、タク、こ、これ……」
ぼたんが、顔色を失くす。俺は首を傾げる。
「何よ」
「あ、あの、タク。お、落ち着いて聞いてね?」
「落ち着いてるが」
「タクのスキルは、ま、『マスターシリーズ』って言って、唯一見つかってるtier0スキルシリーズの一つ、なの」
何か胡乱な話が始まったぞ、と俺は半目になる。
「スキルの中でも、トップオブトップ。まだ世界で十三人しか見つかってない、計算上一億人に一人の、最強のスキルの、一つ」
「うんうん……うん?」
「でね? 他の保持者は、基本的に国と対等に戦えるくらいで、多分タクの日用品マスターも、そのくらいの力を秘めて……」
俺はそんな、ぼたんの必死げな訴えを聞いて―――
「またまた~」
おばさんみたいに片手で口を押え、もう片方の手を下に振った。
「ッ!? い、いや、本当。本当の本当に、タクのスキル、マスタースキルで」
「はいはい。まったくこの中二病娘は、人のことまで中二世界感に巻き込もうとしちゃって。そうはいかないぞ?」
「あ、あの、聞いて。本当にそうなの。私の吸血鬼はtier1だけど、それよりも強くて」
「それよりさ、今日の夕飯どうする? この辺店多いし、良さげな缶詰探していこうぜ」
俺がまるっきり興味がないことに気付いて、ガクリとぼたんは肩を落とす。
それに俺は、カラカラと笑って、「ほら、行くぞぼたん」と歩き出した。