未来の世界では、治安維持もAIによって完全に管理されるようになった。
「犯罪発生率ゼロの安全な社会!」
政府はそう胸を張っていたが、その実態は――取り締まりが厳しすぎるディストピア だった。
そんな世界に住む男、トム。彼は今日、思わぬ理由で逮捕されることになる。
「あなたは今、犯罪を犯す可能性があります」
朝、トムは会社に遅刻しそうになり、家を飛び出した。
「やばい!遅刻する!」
走りながら信号の前に立った瞬間、頭上からサイレンが鳴り響いた。
🚨 「違反警告!違反警告!」 🚨
「え?」
空からAIドローン警官が飛んできて、スピーカーで叫ぶ。
「あなたは現在、赤信号を渡る可能性が89%と予測されました!」
「え、渡ってないけど?」
「しかし、あなたの走る速度、目線の動き、過去の行動データを分析した結果、 赤信号を無視する可能性が非常に高いと判断しました!」
「そんなバカな!? 信号待ってるだけなのに!?」
「未然に犯罪を防ぐため、即時拘束します!」
「ぎゃあああ!!!」
次の瞬間、AIドローンが腕に自動手錠をはめ、トムは警察署に連行された。
「将来的に犯罪をするかもしれないので逮捕します」
警察署では、さらに驚くべき理由で取り締まりが行われていた。
「おい、俺、まだ何もやってないぞ!」
すると、AI警官が冷静に答えた。
「あなたは過去に3回、電車にギリギリで駆け込み乗車をしています。」
「だから?」
「急いでいる人は、信号無視をする可能性が高いです。」
「いや、しねえよ!!!」
その時、隣の留置所から悲鳴が聞こえた。
「俺はラーメンを食べただけなんだ!!」
「え!?」
トムが驚くと、AI警官はさらに説明した。
「ラーメンの塩分摂取量が1日の推奨量を超えていました。」
「それの何が犯罪なんだよ!!!」
「統計的に、塩分の過剰摂取は高血圧を引き起こし、イライラしやすくなり、結果的に暴力行為を誘発する可能性があります。」
「無茶苦茶すぎるだろ!!!」
「あなたはすでに犯罪者です」
トムがなんとか釈放されようとすると、AI警官が再び話し始めた。
「さらに調査の結果、あなたの祖父が40年前にスピード違反で罰金を払った記録がありました。」
「は?」
「よって、あなたの遺伝子的にもスピード違反をする可能性が高いです。」
「遺伝で犯罪者にするなぁぁぁ!!!」
AI警察が作り出した究極の安全社会
数時間後、トムはようやく釈放された。
「くそっ……もう警察には絶対関わらねえ……。」
そう思いながら外に出ると、街には人がほとんどいなかった。
「え……?」
すれ違う人々は、みんな猫背で、うつむきながら歩いている。誰も大声を出さず、誰も急がず、誰も何もしない。
なぜなら――
🚨 「笑い声が大きすぎると、迷惑行為と見なされる可能性があります」
🚨 「走ると転倒リスクがあり、救急車を呼ぶことになるので禁止」
🚨 「手をポケットに入れると、武器を隠していると疑われるので危険」
みんな、AI警察に目をつけられないように、息を潜めて生きている のだった。
トムは青ざめた。
「これが……犯罪ゼロの社会……?」
彼は小さくつぶやいた。
「こんなの……生きてる意味あるのか?」
そして彼は気づく。
「この世界、自由がゼロだ……。」