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第9話 友達とも言えるのではないだろうか


「この後が大変になるかもしれないね」


「大変?」



 何が大変なことになるのだろうか。千隼が不思議そうな顔をしていれば、風吹は「キミの友達のことだよ」と返す。そこではたりと思い出した、陽平と直哉のことを。


 まともな説明もなくあの場を離れてしまったのだ。明日、きっと二人に問い詰められるのは想像できた。


 これは自分にとっては大変なことになるかもしれないと思うのと同時に、風吹も何か言われるかもしれないと心配になった。


 陽平と直哉とはまだ付き合いは短いにしろ、二人とも世話を焼いてくれる。クラスメイトには保護者とまで言われているほとには。そんな彼らが心配しないわけがない。


 風吹は周囲の生徒と自分から関わらないが、それでも目立つタイプだ。大地主の家系であり、成績も優秀、さらに顔が良い。


 この学園では顔の良さも人気の一つになるので、親衛隊と呼ばれるファンも隠れているかもしれなかった。


 心配症な二人が風吹本人に何かを言わないとも限らないのだ。これはどうしたものかと頭を抱えたくなる。そんな千隼の心情を察してか、風吹は「私は問題ないよ」と答えた。



「此処がどういった学園であるのか、私はキミよりも一つ上の先輩なのだからよく知っているさ。友達を心配する気持ちも分からなくはないし、何を言われても私は気にしないからね」


「でも、嫌な事を言われたら悲しくなったり、苛立ったりしません?」


「基本的にはないかな。私についての事であればという条件ではあるけれど。両親や友人のことを悪く言われれば、怒りも感じるが自分の事であれば特には」



 私は今は人として生きているが、元お狐様だ。妖狐であった自分にとって人間が何を言おうとも気になることはない。


 人間というのはこういうものだろうと、祀られていた時に感じた祈りでよく知っているから。


だから、どうということはないのだと風吹に説明されて、それを言われると何も言葉を返せないなと千隼は黙って頷く。


 人間の良い部分、悪い部分というのは願いによく出ると聞く。神社に祀られていたことのある風吹はそれらをずっと感じ取っていただろう。


 そのどちらも理解しているならば、自分に対して何を言われても、人間というものはこういった感情を抱くものだと流すことができる。


 元お狐様である風吹だからできることなので、千隼は彼がそう言うならば大丈夫なのだろうと納得したのだ。



「風吹先輩が大丈夫ならいいですけど……。二人が何か言ってきたらすみません」


「大丈夫だよ。千隼を心配してのことなのだから」



 誰かを大切に思えるというは素晴らしいことだよ。風吹はそんな友人がいるキミが羨ましいねと笑む。



「僕がいますけど、風吹先輩」



 少しばかり悲しさが見えるその笑顔に千隼は思わず、そう返していた。きっかけはともかく、交流しているのだから友達になったようなものだと。


 先輩と後輩でもあり、彼の助手でもあるのだが友達とも言えるのではないだろうか。千隼の主張に風吹は目を瞬かせてから、なるほどと顎に手をやった。



「確かにそうかもしれない」


「そうですよ。勉強も教えてもらって、こうやって話もできているんですから。僕は友達だと思いたいですよ?」



 千隼の言葉に風吹はふむと少し考えてから頷いた、そうだねと。



「嬉しいよ、ありがとう」


「お礼を言うことじゃないですよ、風吹先輩。まぁ、陽平と直哉のことは明日にならないと分からないから、その時に考えよう!」



 問い詰められることは確定だが、どうなるかまでは当日になってみたいと分からないことだ。なので、千隼はその時になってから考えようと決める。


 遅くないかと突っ込まれるとそうかもしれないが、今の自分では事前に対策などできる気はしない。


 ならば、当日になってから考えよう。千隼の意見に風吹がふっと小さく吹きだして笑う。



「キミのそういう考えは面白いね」


「そうですか? まぁ、よく言われるんですけどね。あ、そうだ。どうして僕って見えるんだろう?」



 よくよく考えたらどうして自分は幽霊や妖怪が見えるのだろうか。千隼の疑問に風吹は「恐らくだが」と答える。



「たまにいるんだ。潜在的に霊感を持っている人間が、見える存在あるいは力のある存在と関わった時に覚醒することが」



 潜在的に霊感を持っている人間というのはきっかけさえあれば、覚醒して幽霊や妖怪が見えるようになってしまう。風吹の場合は元お狐様なので力としては強いものだ。


 きっかけとしては十分すぎるだろうというのが風吹の見解だった。自分に潜在的な霊感があったのかと信じられない気持ちはあるが、現に見えてしまっているので風吹の言う通りなのだろう。



「見えるということは人ならざるモノに狙われる可能性が高くなる。だから、千隼は気をつけなくてはいけないよ。私も守るけれどね」



 見えるからといってちょっかいをかけてはいけないからね。呪われたくはないだろうからと、注意されて千隼はぶんぶんと首を縦に振る。


 流石に呪われたくはないし、酷い目にも遭いたくはない。そんな千隼の反応に風吹は「何かあれば私に相談するといいよ」と笑む。



「ある程度のことならばすぐに解決できるからね」


「分かりました!」


「源九郎や透が見回っているから情報は入るんだ。今は静代さんも加わっているから問題はないと思うけど。良くないモノを見たらすぐに報告してほしい」



 良くないモノというのは見ただけでも分かるのだという。それだけ気配がおかしいものになっているようだ。



「今は明日の事を考えないとね」


「ぬがぁ……。明日、二人から問い詰められるぅ」



 まずは陽平と直哉のことをどうにかしないといけない。別に疚しいことをしているわけではないのだから、普通に説明すれば納得してくれるはずだ。千隼はそうだろうと一人、頷く。


 大丈夫なはずと呟く千隼を風吹は何を言うでもなく見つめていた、優しげに。


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