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第2話


「ちょっと本社に行ってくる」


 支店長室で呆然としていたら支店長と副支店長が戻ってきた。

 先ほどの会話の意味を咀嚼しきれてなくて、そのまま呆然としていた。仕事中に時間を無駄にしているのを怒鳴られるかと思ったが、特にそんなことはなかった。

 むしろ、


「もう定時だ。今日は片付けたらとっと帰れ」


 そんな一言だけを残して出ていってしまった。


「諦めるなよ。あとは任せろ」


「あ、副支店長…」


 どうやら二人で行くらしい。

 トップ二人がいなくなって支店をどうやって閉めるつもりなのか、とどうでもいいことが頭に浮かんだ。

 申し訳なさ…というのは正直感じなかった。

 それよりも、もっと深刻なことを考えていたからだ。

 人事の評価はあくまで支店長やその上司がつけるものである。正直、直属の上司との関係は良好じゃない。だから、今回の結果はそれが要因かとも思っていた。

 だが、どうにもそうではないらしい。

 なぜなら今回の結果に対して支店長が動いたということは、支店長はおれの昇進にはGOサインを出していたはずである。

 それで駄目だったということは本社サイドの問題である。


 支店長の言葉は正しいのかもしれない。

 もはや、黒地銀一がこの会社にいる意味がないと見限られたんだろう。


「黒地ぃ! なにしてんだ、お前!」


 営業室に戻った直後、なぜか次長がキレていた。

 普段であれば駆け足で駆けつけるくらいはするがもはやそれに意味を感じなくなっていた。視線を向けて、のそのそと向かった。


「おい! しゃっきとせんかっ!」


 おれの態度が気に食わないのか次長はさらに怒声を浴びせてきた。

 うるせえな。

 何が起きたのか知ってるくせしやがって、どうしてこうまで人の神経を逆撫でしやがる。苛立ち混じりの視線を向けるとなぜか次長まで眉間に皺を寄せた。


「なんでしょう?」


「なんでしょうじゃないっ! お前、いつまで支店長室にいる! 仕事がないのか?」


 あるに決まってんだろ。

 言い返すのも面倒になって黙って立っていた。 

 普段なら平謝りで席に戻るが、そんなくそみたいな寸劇をやる気力もないのだ。


「定期はどうした! とってきたのかっ?」


「ええ、百万とってきました」


「たったそれだけかっ! 五億はどうしたっ!?」


 うんざりした。

 数字の話をまさかここで言い出すとは。

 相手にするのも面倒で無視して席に戻る。 

 流石に周囲の視線が刺さったが、それすらもどうでもいいと思った。


「お前っ…!」


 流石に無視されたのが効いたのか次長が鬼の形相を浮かべた。


「そんなんだから昇進もできねえんだっ! お前なんかいらん! とっと帰れっ!」


 言われなくても。

 やりかけの仕事を整理する。お客さんに迷惑がかかる仕事だけは段取りをつけ、あとは全部適当に流すことにした。


 自分のことだけ考えよう。

 これから何をすべきか。何をしたいのか。


 ふと、整理した書類の中にチラシが入っていた。


【ダンジョンに潜ろう!】


 創業関連のチラシの一つ。

 おれ自身が数多くの融資を出した探索者創業者たちの顔が思い浮かんだ。


 ああ、こういうこともあるのか。


 おれはとっと書類を金庫にしまい、営業室をとっと出た。


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