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第34話

「こんなもんかな?」


 懐に仕舞ったスマホを取り出す。

 アプリのタイマーは未だにゼロになっていない。まだ十数分の余裕があった。

 疲労感はない。鈍っているのは十分に理解したが、このダンジョンであればまだそれなりに出来るようである。

 ここまでの道中でいくつかのネームドらしきモンスターを仕留めることもできた。

 これなら、彼女らと探索に出たとしてもこの間みたいなことは避けられそうである。


「にしても、ここは変わってねえなぁ」


 岩肌剥き出しの洞窟。

 天井に生えた光苔からのわずかな照明だけが頼りの空間。呪力を目に集めてようやく見えるかどうかの明るさは記憶の中にある風景とほぼ変わらなかった。


 唯一違うのはかつてこの場所にいた存在がいなことだ。その気配すらないのは、流石に時間の経過を感じさせた。


 ダンジョンには必ず一体、その最奥に棲まうモンスターがいる。

 いわゆるラスボスってやつだ。

 霞城ダンジョンにもそういう存在がいて、それを倒したから攻略ルートなんてものが存在する。


 ラスボスを倒してこの世界を元に戻そうと考えた奴ら馬鹿がいたのだ。


 …本当に馬鹿な話だ。ゲームや漫画、小説みたいに都合のいいことがあるはずがない。ボスを倒したってダンジョン内のモンスターがいなくなるわけでも、力を失うわけでもない。というか、実のところボスはダンジョンの最奥にいるだけで街を襲うでもなく、モンスターを操っているわけでもなく、脅威ですらなかったのだ。


 ゲームや漫画、小説で出ているような人類を殲滅しようなんて意思を持った個体は一つたりともいなかったように思う。けれど、現実としてが起きて、おれたちの生活自体がぶち壊れた。いろんな嫌なこともあったし、嫌なことだってやった。

 だから、その捌け口としてダンジョンのラスボス達を討伐したんだろう。少しでも希望が欲しかったのだ。


「多分、この場所を映すのはおれがはじめてかもなぁ」


 貴重な時間がどんどん減っていく。

 アプリのタイマーをもう一度確認してから、ドローンを手動操作へ切り替え。ライトを最大にし、この空間を少しでも映像に残すことにした。


 といっても広い空間ではあったが、何かがあるわけでもない。

 多分、そのまま動画にしてもわけがわからないので編集することでわかりやすくする必要があるだろうなと思った。というか、編集ってどうやるんだろう? ガワさんの好意に甘える続けるのも申し訳ないし、やり方を勉強しなければ。


「…ん?」


 ドローンに映る映像が近すぎてもダメだなと思い、カメラのズームをいじっていて気づいた。ドローンの高度を上げ、ライトの角度を調節し、


「…なんだ、これ?」


 そこに梵字みたいな文字がいくつも規則的に描かれた陣があることに気付いた。円形だろうか。明らかに人工的なもの。こんなもん、前に来た時にあっただろうか。

 一通り動画に収め、その場所を後にした。


 残り二時間弱。寄り道にしては時間を食い過ぎた。

 行きよりもさらに速度を上げて、上層へ向かった。



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