目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第33話


「あ、黒地くん? ごめーん! あの馬鹿が証拠見せろって言うからさ、つい動画渡しちゃって…、怒ってるよね?」


「怒ってないですよ。練習のつもりで撮ってたんで。ただこれ以上広めないでほしいってだけです」


「もちろん! いや、今度埋め合わせするからさ、お詫びってことでさ!」


「だから、気にしなくていいですって。ただ、ちょっと教えてほしいことがあって」


「なに? なんでも聞いてよ!」



「このドローンで撮った動画って狩りハントの証明になるんですよね?」



 目の前には圧倒的な大自然。

 攻略ルートの入り口におれは立っている。

 昨日は彼女達に意識を向けていたから気づかなかったが、明らかにこの階層には相応しくないモンスターの気配がそこかしこから感じられた。

 視界を呪力で強化すれば一目瞭然。薄々気づいていたがどうやらこのルートはここ数年の間、誰も踏破していないようである。


「片田舎のマイナーダンジョンだしなぁ」


 しかも、踏破までの距離が通常のダンジョンよりも遥かに短い。しかも他のダンジョンと比べ難易度も低いし、動画に最適だと思っていた。

 実際、いくつか人気DTUVERの動画として上がっているのを見たことがある。けれど、ダンジョン自体の知名度のなさのせいか、あるいは田舎にあるせいなのかいまいち伸びが甘かったように思う。


 だからこそ、初心者にはちょうどいいダンジョンなのである。


「普通なら三時間。まぁ、装備も十分だし一時間かなぁ。いや、訛りきってるから二時間あたりで設定するかな」


 ストレッチを入念に行い、コースを頭の中に描く。数年前に一度通った場所だ。未だにある程度はわかる。ただ、どうにも高レベルのモンスターが道中に居着いているようなのが気になった。

 まぁ、それも関係ない。

 やるべきことは一つなのだ。


「往復四時間。…まぁ、ぎりぎり許容範囲内か」


 うん、準備は万端。

 おれは密林へと飛び込んだ。


 駆ける。


 コーティングに呪力を流すついでに体内の循環も高めた。全身の隅々に行き渡る感覚が心地いい。仕事中も同じことをしていたが、あまり露骨にやると上司からクレームが来たこともあった。まぁ、もちろんお客さんと面談時は気づかれないようにやっていたが。


 それくらい自分にとって慣れ親しんだ作業。だから、思う存分振るえるのは本当に久しぶりだった。


「あ、いた」


 ドローンは背後にぴたりと張り付いている。

 おれが全力で走っても問題なく着いて来れるのはさすがだ。目論見通り、戦闘時でも映像を撮り逃すことはなさそうである。


 それよりも、目の前にモンスターがいる。


 たしか、オーガだったか。人間に近い造形をしているが異形の顔つきをし、身長も三メートル以上ある。筋肉の付き方も人間とは違い、明らかにおかしい。確か中層にいるべきモンスター。今が上層の上層だから、それだけで問題である。


 まぁ、


「一匹目、と」


 だからどうなんだって話だけれど。

 真正面から近づくおれと一瞬目があったが、それ以上のリクションはなかった。というか、驚く暇もなかったんだろう。のんきなもんである。


 おれは接触と同時に顔面をぶち抜き、そのままルートを進む。


 手応えから一撃で頭蓋を粉砕したことはわかった。

 動画を見れば、その瞬間をきちんと収めているはずだ。配信するには少し過激すぎるかもしれないので都合がいい。


 さ、鈍った身体を少しはいじめてやろう。おれは速度を上げた。






この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?