ヌマさんに動画のことは他の誰にも言わないように何度を釘を刺してから、クリーニング屋を出た。ああ見えてヌマさんも大人だ。おれの言葉をきちんと聞いてくれるはず…と思いたい。ガワさんにもメッセージを送ったし、今度こそ大丈夫だろう。
時刻は午前9時。
すでに1日が終わった気分だったがまだまだ休日を楽しむには十分な時間がある。一度帰宅してゆっくり過ごすのもありだろう。昨日のことを反省しつつ、DTUBEを見て過ごせば、次回の探索でうまくやれるんじゃなかろうか。
いや、それこそ引きこもりの一歩目である。
このままドライブにでも行った方がまだ真っ当に過ごせるような気がする。
荷物を後部座席に置き、そのままどこに行くかも決めずに車を出した。
「天気いいなぁ」
アクセルを踏み、法定速度の中で進む。片田舎なのですれ違う車も少ない。もう少しすれば買い物で国道も混み始めるからもしれないが、今は気楽に進むことが出来る。
道路沿いの店もまだ空いていないし、コンビニでコーヒーでも買って二時間ほど走ったら飯にしようかと考える。
こう言う過ごし方も本当に久しぶりだ。
ちょっと前までは月曜に出す稟議の内容を作ったり、日曜でも店を出すお客さんに顔出すのが当たり前だったのだ。
「…それはそれで楽しかったんだけどなぁ」
我ながら意外な一言。
これも当たり前のことだと自分に無理やり言い聞かせて働いてたつもりだった。けれど、こうして思い返せば悪いことばかりじゃない。
おれが相手にしていた顧客は経営者や個人事業主だ。商売でしっかり稼げなければ収入もなく、生活ができなくなる。それどころか、自分や家族以外の誰かも生活出来なくなる可能性がある。
だからこそ自分の商売を真剣にやっていた。それこそ命をかけて。もちろん、働かなきゃ金を稼げないのだから当たり前の話だが、やっぱりサラリーマンとして働いている人間とは行動も生活スタイルもまるで違っていた。
なにもサラリーマンが悪いわけじゃない。
ただ、おれ自身がお客さんとして関わったあの人達の生き方を尊敬していたってだけの話。
そして、今、おれはそういう人たちと同じような生き方をしようとしている。
なら、日々の過ごし方自体も変えるべきなんじゃなかろうか。
「まぁ、そうだよなぁ」
我ながら思考が単純だな、と思う。
けれど、行動は単純でいいのだ。そして、迅速に行うことが大事だ。
どんな経営者も個人事業主もスピード感がある人が成功している。どんなことも誰より早く目的のために行動した方が絶対的に有利なのだ。
それは、自分が関わった人達から学んだのだ。キミさん、ヌマさん、ガワさん。あの人達にも共通していることである。
「行きますか」
面倒くさがる自分自身を宥めるために呟く。
昨日も来たのに、また来ることになるとは思わなかった。
霞城ダンジョン。
おれはコーティングしたスーツに着替えた。
・もしも、『面白い!』、『続きが気になる!』と感じて頂けたらフォローと下の方で☆評価をよろしくお願いいたします!