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第31話

「んー、かっしいなぁ。どう考えても焼き切れたと思うんだがなぁ」


 時刻は午前8時。

 おれはヌマさんのクリーニング屋に来ていた。開店前のクリーニング屋なんて初めて来たが、シャッターが閉まっているだけで特に目新しいこともない。ただ、照明が思いの外明るいのだけは気になった。


「マジですか? え、そんなに無茶な使い方してないはずですけど」


「いや、実際焼き切れてはねえんだよなぁ。動画見た時は絶対オーバーヒートしてると思ったんだが」


「動画って…情報速すぎじゃないですか?」


「当たり前だろ。この業界は狭いんだからな…まぁ、ガワさんからクレームが来たのよ。そこにあの動画も付いてたってわけだ」


「…ガワさん」


 …本当にあの人は。

 流石に他の人に送ってはいないと思うが、つい数時間前のやりとりが無意味だったことを思い知る。

 もう一度ガワさんには釘を刺しておくべきだろう。他にもキミさんも動画を見ているがデータは送ってないので、そっちは大丈夫なはずだ。


「ダメだ。明らかに問題なしだ」


「問題ないならいいんじゃないですかね…?」


「あのパフォーマンスはありえねえって話だよ。お前、最近ダンジョンに潜ってなかったとか嘘だろ? それかなんかやばいことに手を出してねえか?」


「本当に久しぶりですよ。ていうか、やばいことってなんすか?」


「そりゃお前、ドラッグだろ? 最近多いんだぜ?」


「たかだか会社員が手が出る価格でも代物でもないでしょ」


「いや、お前銀行員じゃねえか」


 あー、やだやだ。銀行員ってのが高給取りだと思われてんのが辛い。


「おれは平なんでそこらの社会人と変わんないですよ。それに、おれぐらいのなんてごろごろいるでしょ? あれが異常に見えたんならおれの魔力操作じゃなくてヌマさんのコーティングがそれだけ高性能だったってだけですよ」


「よく言うぜ。ま、素直に受け取ってやるよ」


 穴が開くほど見ていたスーツをヌマさんは丁寧な手つきで整えて返してくれた。どうやらヌマさんも納得してくれたらしい。ヌマさんらしい納得の仕方だったが、紛れもない事実である。


「シズクさんは今日はいないんですか?」


「ん? あいつはバイトだからな、昼に来る。なんか用でもあるのか?」


 用はもちろんある。

 この間の件に関して謝罪をしなければならない。…いや、謝罪は違うのか? ただキミさんからこの件は任せろ言われた事実もある。そう考えると、今会わなくて正解なのかもしれなかった。


「いや、逆におれが来たことを言わないでいただけると助かります」


「なんだ、揉めてんのか?」


「まぁ、そんなとこです」


「ああ、ゲロの件か」


 わかってんじゃねえか。

 というか、ヌマさん、やっぱり動画を編集せずそのまま送りやがってた。



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