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第30話


「…あー、やっぱすげー」


 DTUBEを見ながら、おれはただただ呆然としていた。

 もちろんダンジョン探索の配信だ。下層からさらに下、深層から届いた最前線で戦う探索者たちの姿があまりにも圧倒的すぎた。

 ガワさんに褒められて気を良くしたおれは、DTUBEで他の探索者を見てみたくなったのだ。


 一線級の探索者たちの姿。それを見れば、ガワさんの言葉を少しでも信じれる気がしたのだ。


 結果は惨敗。

 おれは自分の身の程を知るのだった。


「ま、所詮中年のおっさんだしなぁ」


 魔力操作は探索者にとって基礎の基礎である。現在はデバイスにより少量の魔力を流すだけでダンジョンのモンスターに通じる強力な武具を得ることが出来るからこそ最も重要な要素だ。

 だからこそ初心者と中級者の壁みたいなものだとおれは考えている。


 ある程度の資金で装備を整えたとしても一定の地点で行き詰まってしまう。事業はもちろん、スポーツだろうと学力だろうとどのジャンルでも起きうることである。


 その壁を越えるには基礎練習を積むしかない。基本的なことを幾度も積み重ねた先に初めて成長があるのだ。


 おれは、それを十年前から続けてたにすぎない。


「やっぱ天才っているんだよなぁ…。こいつまだ二十歳くらいだろ? 子供の頃からやってんのかねぇ」


 その積み重ねをいとも容易く上回る存在ってのが世の中にはごまんといるのだ。DTUBEに入ればそんな連中が嫌でも目にする。他のSNSだって同じだ。そんな世界に飛び込もうとしているのだから、たまったもんじゃない。


「ま、別におれが天才じゃないなんてのははじめからわかってたことだしな」


 独り言を言ってしまうのは自信のなさの表れだ。不安な自分を擁護するために呟いているにすぎない。休日の朝に弱気になったっていいじゃないか。そう自分自身に言い聞かせる。


 そうだ、わかってたことじゃないか。


 DTUBEを閉じて、朝飯を作る。卵を焼いて、電子ケトルを沸かす。米は炊いてあるのでそのまま盛りつけた。目玉焼きとレタス、白米、インスタント味噌汁。典型的な朝食である。これが一番しっくりくる。


「いただきます」


 やるべきことは決まっている。

 自分にコントロールできることに注力するのだ。

 正直言えば、アオイさんたちのことは心配である。悪いことをしたという罪悪感もあるし、なんとかしたいという思いもある。ただ、彼女たちがこれからもおれを師事するかは彼女たちが決めることなのだ。キミさんがなんとかするとは言っていたが。


 だから、おれはおれのやるべきことをやろう。


 そのためにも準備を整えるしかない。


「ん?」


 スマホから通知音。

 画面には、ヌマさんからのメッセージが入っていた。



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