冷たさを感じて、マイケルは目を開けた。
体が重く、頭に痛みを感じて眉間にしわを寄せる。
マイケルは横たわっていた。
冷たい床に体が冷やされ、不快感を覚える。
マイケルは頭に手を当てながら、ゆっくりと体を起こした。
目の前にはポスターの貼られた銀色の柱。
周囲は薄暗く、人の気配は無いが、スーパーマーケットの中にいることは間違い無かった。
「ジェシカ?」
呼んでみるが、ジェシカの姿は無い。
柱にも映っていなかった。
マイケルは立ち上がり、ふらふらと歩きだす。
何が自分の身に起きたのか、なぜ店の中がこんなにも薄暗いのか。
分からなかったマイケルは、とにかく店員を探してレジへと向かう。
しかし、レジに行っても誰もいなかった。
「どうなってるんだ」
弱々しく言葉をこぼし、マイケルは店内を見回す。
薄暗いが商品もある、冷凍ショーケースも、正常に機能しているようだった。
「くそ」
吐き捨て、マイケルは出入口に向かう。
もしかしたら、マイケルがいることに気付かず、店が閉められたのかとも考えたが、物陰にいたわけでも無いのに、気付かないわけが無いだろう。
そう考えてマイケルは、違和感を感じながら歩く。
そして、出入口に着いてみると、ガラス張りのドアの向こうが、真っ暗になっていた。
シャッターが閉まっているとか、夜だから暗い、などというレベルではない。
真っ黒なインクでドアを塗ったかのように暗く、外が全く見えなかった。
「何だこれは?」
戸惑いながらマイケルは、ドアを動かそうとするが、ドアは最初から動かない物のように、びくともしない。
「おい! おい、誰か!」
呼び掛けてみるが、誰からの反応も無く、マイケルの声が店内に響くだけだった。
マイケルはドアを壊そうと、思い切りドアを蹴るが、ドアには汚れすらつかない。
明らかにおかしいと感じたマイケルは、今度は監視カメラを確認する。
出入口を見守るように設置された監視カメラは作動しているようで、赤いランプが点いていた。
(誰かいるかも知れない……行ってみるか)
そう思ったマイケルは、警備室を求めてスタッフ用の通路に向かう。
ジェシカの手掛かりを探すために、何度もスタッフ用通路は通った。
そしてスタッフ用通路の先に警備室が有ることは把握していた。
広い店内を歩いていると、マイケルの前方に小さな影が見えた。
その影は、マイケルを見つけるなり、走って向かって来る。
最初は何者かと身構えたマイケルだったが、それが小さな子ども……ジェシカであると認識した瞬間、マイケルは両手を広げてジェシカの方に駆け寄った。
「ジェシカ!」
「ぱぱ!」
駆けてきたジェシカを受け止め、強く抱き締める。
五年間探し続けていたジェシカが腕の中にいるという事が、たまらなく嬉しかった。
ジェシカの温もりが体に伝わり、マイケルは涙を流す。
頭を撫で、額にキスをして、ジェシカの顔に両手で触れる。
「ジェシカ、ジェシカなんだな?」
マイケルが言うと、ジェシカは頷いた。
「ぱぱ、どこにいたの? ぱぱ、ずっと探してたのに」
ジェシカもまた、マイケル同様に泣いている。
ジェシカの言葉に違和感はあったものの、今は再会できた事への幸福感が先行した。
マイケルはジェシカを抱き寄せ、背中を撫でる。
「すまない、ジェシカ、もう一人にはしない」
マイケルが言うと、ジェシカはマイケルにぎゅっとしがみつき。
「うん、約束よ」
と返した。
再会の喜びに浸っていると、突然店内に陽気な音楽が流れ始める。
マイケルが顔を上げると、店の奥からピエロが出てきた。
ピエロは不気味な笑みを浮かべながら、マイケル達を見て、首を傾げる。
その手には、斧が握られていた。
コイツは危ない。
危機感を覚えたマイケルは、とにかくジェシカを抱き上げて走り出す。
ピエロはケラケラと笑い、歩きだした。