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第15話

 シミュレーターを終えた朝比は麻衣が持ってきた弁当を食べて昼を過ごしていた。


 そこへ朝の浜辺マラソンを終えた南雲健たちも学食を食べ終えてからやってきた。


「なんだよ朝比。パイロットスーツを着たまま食ってんのか?」

「この後もシミュレーターやるから、このままでいいの!」

「へいへい、なら俺も一緒にやる。どうせグレイブ改の調整もするしな」


 言われてみればそうだ。健のグレイブ改は最終調整がまだ終わっていない。それに健が相手なら発作を任意に発動する良い練習になる。それとこれは決して本人には言えないことだが、健が相手だとなぜだか本気でやれる。


 そんな中、隊長である浅利瑪瑙と花上きよこは何やら相談していた。


「隊長、次の出撃の時に健くんと組んでいいですか?」

「それはまたどうして」


 瑪瑙はわざとらしく驚いた表情を見せる。


「何か隠しているような気がするんですよ、彼」


 瑪瑙は大いに悩んだ。なぜならエースであるきよこにはこの中で一番操縦の下手なリンの護衛に付いて欲しいからだ。自分が付こうにも機体の特性上難しいのは目に見えている。それを知っていてわざわざ危険を犯すのは、ただの馬鹿だ。


 朝比もまだ新人ということもあって、実戦慣れしていないところがある。その反面、健は操縦も上手くなぜか実戦慣れしている。その証拠が昨日の朝比対健のシミュレーターだ。


 つまり、きよこが言っているのは上手い者同士が組んで弱い者は先輩に任せる、ということなのだろう。当っているか分からないが、どちらにしろそうなってしまう。


 そんな二人の会話なぞ露知らず、男二人は各々の機構人に乗り込む。


「うし! そんじゃ始めますか」

「うん」


 勢いよく座席に腰を下ろしたその時だった。


 ドゥーンドゥーンドゥーン! と格納庫のスピーカーからサイレンが鳴り響いた。


『出撃命令。第五機動部浅利隊は一時間後にカタパルトに集合せよ』


 アナウンスがそう告げた。


 すでにコックピットに乗り込んだ男二人は顔を見合い、それから瑪瑙へと視線を移す。どうやら指示を待っているようだ。


「お前等は先に行け! メモリーに戻す時間が勿体ない‼」

「「了解‼」」


 二人は命令を受けて電源を入れ、すぐさま各部のチェック終える。そして、機構人の拘束具が全て外されたことを確認してから機体の目前にある大きな鉄の扉を見やる。それは重低音を響かせながら開かれていく。


 二機は迷わず格納庫から外へ出てカタパルトのある港に向かった。


 その間、残りの面々は瑪瑙が運転するバギーに乗って向かった。


☆☆☆☆☆☆


 朝比達がカタパルトに着いてから十分ほどで瑪瑙達が到着した。


 各々の機構人をUSBメモリーの状態から機構人へと姿を変貌させる。


 緑をメインにした瑪瑙の機構人。その姿はどこか鳥人のように見え、各部には姿勢制御用のスラスター以外に機動性を高めるためのものが数十基備えてある。しかし、翼は無い。なぜなら、肩アーマーに装備されたビームシールド発生機が作り出すビーム翼がそれだからである。まさに鳥の獣人のような機体だ。


 赤と青と白の三色をトリコロールしたカラーリングが特徴的なきよこの機体。異名が『小さな切り裂き魔リトルリッパー』なだけあって機体のほとんどの装備が中近戦闘用の物だ。特に目立つのが左右非対称の腕だ。右腕には三本のクナイがマウントされており持たなくても使えるように切っ先を拳の方へ向けている。左腕にはビームシールド発生機を装備している。さらに両足首には『ローラーブースター』が取り付けてある。その名の通り足首にジョイントされたローラー付きのブースターだ。高速移動の他、建造物の間も登ることが可能である。


 リンの機体は健のグレイブ改の色違いなだけでスペックは全く同じである。


 全機はカタパルトに機体を固定させる。


『今回の任務は巡回だけだ。これといった戦闘は無いはずだが、気を抜くなよ。あとコードネームは、花上はアップル2、東雲はアップル3、アオノはアップル4、南雲はアップル5、いいな』

「了解」


 瑪瑙が話し終えると出撃十分前になった。


『全機、武装は学園島から離れてから展開して下さい』


 カタパルトのオペレーターから注意を受けた。


 しかし、全機と言ったが注意されたのはきよことリンだ。間違って武装を展開させてしまったらしい。


『カタパルト! 準備は出来たこのまま行くぞ‼』


 瑪瑙が言うと少し間があってから返答がきた。


『了解しました。進路クリア、ハッチ解放』


 カタパルト前方のハッチがゆっくりと開かれる。


『第五機動部浅利隊発進どうぞ‼』


 お気を付けて、とつけ加えて見送ってくれた。


 カタパルトはリニア式で簡単に言うと超電磁砲と同じ法則になっており、機体は砲弾のように射出される。その余りの加速にベテランである瑪瑙でさえ、顔を歪ませる。


 元々カタパルトは丘の上にあるため、それなりの高さがある。加えて、射出するときは少し上方に向くため孤を描いて海に着水することになる。


「思ったより凄い……」


 朝比は苦痛で顔を歪める。


 耐G性能を持ったパイロットスーツでも流石に辛い。


 着水時は機構人の特徴とも言える海に浮く力で滑り込むようになる。そのため辺りに水しぶきを超えた波が出来てしまう。


 瑪瑙は全機が着水出来ているか確認する。


『よし、お前等上出来だ。本当ならコケてもおかしくねえんだぞ』

「そうなんですか?」

『まあな。それじゃ隊列を組んで滑走する。きよこ、リン、武装解除しろ』


 瑪瑙がまるで子どもをあやすように言うときよこは頬を膨らませる。


「もうやった!」


 武装解除する理由。それは人類の敵――MCが武装した船や飛行機、機構人を比較的多く襲っているからだ。この理由は未だに分かっていない。ただ、襲ってくることしか分かっていない。


 隊列は、瑪瑙が先頭を行き、その後ろに朝比とリンが二列に並び、その後ろに健ときよこが二列になる。一、二、二と言う訳だ。


「リンちょっと遅れてる」

『違う。朝比、速い』

「え?」


 次の瞬間『コラ! アップル3・朝比、少し速度落とせ‼』と瑪瑙の怒号が通信機から吐き出された。


「ひゃっひゃい!」


 焦った朝比の動きがそっくりそのまま白式に現れる。


『やべ、超ウケる!』

『確かに』


 健ときよこが白式の滑稽な姿を見て馬鹿笑いし始める。隊の通信チャンネルが共通のため朝比にもそうだが瑪瑙にも聞こえている。


『テメェ等いい加減にしろ‼』


 またしても瑪瑙の怒号が飛び込んできた。


『朝比』

「ん? どうした?」


 共通チャンネルからリンの声が聞こえた。声のトーンがいつもと同じ調子で何を言い出すか分からない。


『足元、何かいる』

「え? でもセンサーには……」


 と朝比がセンサーを見た瞬間、リンの言う通り自分たちがいる真下に強力な妨害電波を感知した。


 瑪瑙もそれに気付いたらしく『全機散開!』と命令を下す。


 しかし、それが届くよりも早くリンの水色のグレイブ改によって朝比の白式はいち早くその場から離れられた。それに釣られて後方の健ときよこも離れた。結果的に瑪瑙が命令する前に全員離れていた。


 同時に大きな水柱が立ち、海が酷く荒れてコックピット内が少し揺れる。加えて、水柱で舞い上がった海水が雨のように降ってくる。その中で一際目立ついびつな四肢を持った怪獣と、爬虫類特有の鱗を全身に纏い、ヒレのような翼を生やした怪獣の二匹が現れた。


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