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第6界 スコシズツ

#1

 突如としてゼノメサイアとルシフェルの戦いに乱入してきた軍事組織Connect ONE/コネクトワン。


「遅ぇんだよコラぁぁぁっ!!!」


 飛行型の戦闘機、"ウィング・クロウ"に搭乗するのは"陽・トゥブジー(ヨウトゥブジー)"隊員。

 黒髪の短髪でサングラスを掛けた荒々しい口調が特徴の人物だ。

 アラブ系の血統を持つハーフでもある。

 ルシフェルの攻撃を華麗に避けて背後に周りビーム状の弾丸を命中させる。


「グギャッ……⁈」


「どうだ撃たれる側になる気分はぁ⁈」


 空中で見事なターンを決める。

 そして次は軽量の素早い陸戦兵器。


「ランド・スネーク出陣!!」


 そして陸上を高速で走る車、"ランド・スネーク"に搭乗するのは"早川竜司(ハヤカワリュウジ)"隊員。常に棒キャンディを咥えている。

 長めの茶髪で顔は整っており陽気な性格だ。


「おっと……」


 目の前には瓦礫の山。

 普通ならば通る事は出来ないがこんな時そこランド・スネークの力の見せどころだ。


「蘭子ちゃん、アンチ・グラビティだ!」


 無線機を使い何処かへ話しかけている。

 その通話先はここから少し離れた空からオペレーションをしている母艦"キャリー・マザー"だった。


「分かってるっつーの!指図すんな!」


 SFチックな雰囲気のキャリー・マザーの中で大きなコンピュータの前に座る小柄でショートヘアな女性がいた。

 ドーナツをかじり口いっぱいに頬張りながら高速でタイピングをしている。

 彼女の名は"茜 蘭子(アカネランコ)"。

 オペレーターであり着崩した隊服を身につけている。


「アンチ・グラビティシステム起動!」


 そして力強くエンターキーを押すとランド・スネークのタイヤにエネルギーが伝わる。

 その瞬間機体は重力に少しだけ逆らい壁などを伝って走り始めた。


「ふぅー!絶好調だぜぇー!」


「先行しすぎんな!」


 テンションが高い竜司と怒る蘭子。

 怒りながらもドーナツを食べる手は止めない。


「食らえやっ!」


 そして飛び上がったランド・スネークは機体の先端から大型砲撃を一発放った。

 ルシフェルはそれに対応する。


「食らってばかりいられるかっ!」


 掌から獄炎を放とうとした。

 ランド・スネークは勢いが出過ぎていたため避けられない。


「やべ」


「あ、だから……!」


 言わんこっちゃないと蘭子は一瞬ドーナツを食べる手を止めてしまう。

 竜司は万事休すかと思った。

 その時。


「多連装ミサイル発射っ」


 寡黙で屈強な糸目の男、"名倉雄介(ナグラユウスケ)"という隊長が乗る機体であり巨大な戦車のような出立の"タンク・タイタン"がミサイルポッドから大量の小型ミサイルを放ち見事ルシフェルに命中させる。


「ゥガァッ⁈」


 爆風に呑まれルシフェルはランド・スネークへの攻撃を阻止されてしまった。


「ほぉっ、サンキュー隊長!」


「うむ」


 冷静に頷く名倉隊長。

 しかし無線では蘭子の怒る声が聞こえていた。


「だから言ったじゃん!先行しすぎだって!!」


「ごめんごめん」


 しかし反省している素振りは見せず半笑いで謝る竜司。

 こう言った軽い所も彼の特徴だ。

 するとルシフェルが突然大声を上げる。


「グガァァァァッ!!!」


 辺りに響き渡るその怒号に一同は注目する。


「クソッ、クソォッ!コイツらここで来るのかよっ、何やってんだ全部台無しじゃねーかあの野郎!!」


 そう心の中で叫びながら赤黒い闇を放っていく。


「尻尾巻いて逃げるかぁ⁈」


 そう煽る陽の予感は的中しルシフェルの姿は完全にその場から消えた。


「逃げられた!」


 咥えていた棒キャンディを噛み砕く竜司。


「…………」


 そしてリアクションをしていない名倉隊長は冷静に指示を出した。


「……帰投せよ」


 一言で簡潔に指示を伝えた。

 他の隊員たちは不本意だったがこれ以上ルシフェルを追う方法はないため仕方なく了承した。


「了解っ……」


 その声と同時に上空に現れるキャリー・マザー。


「ほら、迎えに来たよ」


 キャリー・マザーに他の三機は接続され回収。

 そのまま帰投していく。

 そしてゼノメサイアがその場にポツンと残されてしまった。


「(俺一人じゃ何も出来なかった……)」


 そう感じた途端、脳裏にフラッシュバックのような映像が流れてくる。


「っ……⁈」


 その映像の中では今と同じように組織が活躍していた。

 余計に自分の存在意義が分からなくなる。

 ・

 ・

 ・

 そして人間としての創 快の姿に戻る。

 その瞬間力も抜けて膝から崩れ落ちた。


「俺の存在する意味って何だ……?」


 何も出来ずに活躍の場を突然現れたプロのような存在に奪われてしまった。

 ヒーローらしからぬ失態だと感じてしまう。


 その失態と更に愛里や純希を危険な目に遭わせてしまったという失態。

 その二つの絶望感に襲われ快の心は荒んでいた。


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『XenoMessiaN-ゼノメサイアN-』

 第6界 スコシズツ





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 ここは咲希の部屋であり聖杯の聳える真っ暗な空間。


「ルシフェル、アンタ何やってんのさ……!」


 咲希はノコノコと帰って来たルシフェルを咎めていた。


「しゃーねーだろ、こんなに早く組織が動くとは思わなかったんだよ……」


「そうじゃない!アンタよくも愛里を撃ったね……⁈」


 涙目になりながらルシフェルの胸ぐらを掴む。


「乱射を始めた時点で嫌な予感はしてたんだ、でもまさか愛里まで傷付けるなんて……自分でもそれがどう言う意味が分かってるでしょ⁈」


 そしてルシフェルはその胸ぐらを掴む手を払い除けて言い訳をした。


「だからしゃーねーだろ!焦ってたんだ……」


 しかし咲希の怒りは収まらない。


「仕方ないで済ませられる問題じゃないでしょ⁈愛里がアタシ達にとってどれだけ大切なか、愛里がいなけりゃ"ゲート"が開かないじゃない!」


 そして核心に触れる一言を。


「"あの人"を神として迎えられなくなる、そしたらアタシ達も核に……!」


 その神という言葉を聞いてルシフェルは大きく反応した。


「ちっ……」


 舌打ちした後、少し咲希に合わせるかのように言葉を連ねた。


「うるせぇ!とにかく俺は休ませてもらうぜ……!!」


 誤魔化すようにそう言ってソファに座る。


「アンタはいつもそうだ、その時の感情に任せすぎてる……」


「焦ってんだよ……」


「何言ってんの、まだ始まったばかりじゃない?」


 そう言ったやり取りをしているとルシフェルの瞳から輝きが失われる。


「はぁ?全然始まったばかりなんかじゃねーんだよっ!」


 そう意味深な言葉を呟いてルシフェルは貧乏ゆすりを始めた。


「そうだったね、アンタにとっては」


 咲希も意味深なルシフェルの言葉を理解しているかのように答えた。


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 ここはConnect ONE極東本部。

 ルシフェルとの初陣を終えたTWELVEの隊員たちが帰って来た。

 司令室へ向かうため廊下を歩いている。

 廊下ですら非常にメカニックで豪華なデザインをしており、最新鋭の技術で作られている事がそれだけでわかる内装をしていた。


「ふんふ〜ん」


 鼻歌を歌いながら新たな棒キャンディの包みを開ける竜司。

 それに腹が立ったのか蘭子はその脛に蹴りを入れた。


「フンっ!」


「痛って!ほぉぉ〜〜!!」


 オーバー過ぎるリアクションで飛び跳ねる竜司。


「そのオーバーリアクションむかつくんだっつーの!いつも言ってるじゃん!!」


 竜司と比べて非常に小柄な蘭子だが気はかなり強い。


「ひぃっ……」


 一方隣でその様子を見ていた陽は先程までの荒々しい雰囲気とは打って変わって非常に腰の低い人相になっていた。

 常に何かに怯えている雰囲気で着用しているのもサングラスから眼鏡に変わっている。


「アンタ分かってんの?」


「な、何が……っ」


 一方で蘭子と竜司はまだやり取りを続けている。


「あの自分勝手な戦い方何?自分一人で突っ走るんじゃないっつーの、隊長が助けてくれなかったら死んでたじゃん!」


 そう言って注意する蘭子だが竜司は反省の色を全く見せない。


「おぉ、そんなに俺が心配だったか蘭子ちゃん?嬉しいね〜」


 その空気の読めない発言には一同が凍り付いた。


「……フンっ」


 そして呆れた蘭子は今度は竜司の股間を蹴り上げた。


「ぁっ、がぁっ……」


 あまりの衝撃に声も出せずに倒れ込んでしまう。


「竜司くんっ……⁈」


 気弱な陽が心配そうに駆け寄るが当の蘭子は無視して先に進んでしまった。


「一人が勝手な事すると全体に迷惑かかるから言ってんの!誰があんたの心配なんかするか!」


 そう言って進んでいき姿を消す。

 竜司はまだ股間を押さえて倒れていた。


「だ、大丈夫……っ⁈」


 陽はオロオロしながら心配している。


「…………」


 一方無言でその様子を見つめる名倉隊長。


「(今の蘭子の言葉、隊長の俺から言いたかった……)」


 どうやら彼はコミュ障らしい。

 寡黙に見えるのもそのためだ。

 言いたかった事を蘭子に先に言われてしまいコミュ力の差を感じ少し落ち込んだ。






 つづく

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