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#6

 遂にやって来たゼノメサイア。

 煉獄と化した大阪の街に降臨する。


『ハァァァ……』


 呼吸を整えて拳を構える。

 するとルシフェルは鬱陶しそうにテレパシーで伝えた。


『貴様ぁ、面倒くさいタイミングで来やがって……』


 それに応えるように快も伝える。


『俺に出来る事をやりに来たんだ……』


 その言葉を聞いた途端、ルシフェルはゼノメサイアに向かって走り出す。


『そんなのねぇよ!!』


 勢いよく迫るルシフェル。

 しっかりと重心を立ててゼノメサイアはそれを受け止めた。

 しかし予想以上の威力に後ずさりしてしまう。


『グゥゥ……ッ』


 このままでは押し切られてしまう。

 だがやはり彼らが助けてくれた。


「援護するぞ!多連装ミサイル発射ぁ!!」


 TWELVEも黙っておらず攻撃を仕掛けていく。


「グギャッ……」


 背中に大量の砲撃を受けて力が抜けてしまうルシフェル。

 その隙をゼノメサイアは見逃さなかった。


『オォォリャッ!』


 思い切り押して胸部に蹴りを叩き込む。

 確かな手応えがあった。


「バギャアアッ……!!」


 今の一撃で胸部に大きな亀裂が入ったルシフェル。

 ヒビからマグマが溢れている。


『よしっ……』


 安堵した快はそのまま胸部の亀裂を狙って殴り続ける。

 しかしやられっぱなしのルシフェルではない。


『クソがぁッ!!』


 思い切りゼノメサイアの腕を掴み後方へ投げ飛ばした。


『ウワァァァッ……』


 そのまま地面に叩きつけられてしまう。

 かなりの痛みが背中から全身に伝わった。


『グゥゥ……ッ』


 なかなか立ち上がれないゼノメサイア。

 尚もルシフェルは迫る。


「オォォ……」


 そこへまた彼らが現れた。


「ゼノメサイア、立ってくれ!」


 TWELVEの三機が倒れたゼノメサイアの前に立ちはだかり庇うような姿勢を見せた。


『ッ……⁈』


 驚いてしまうゼノメサイアだが次に聞いたスピーカーから放たれる声で力が湧くのだ。


『困った時はお互い様だ!』


 名倉隊長が大声で伝える。


『君に出来ない事を俺たちがやる、だから俺たちに出来ない事を君はやってくれ!』


 その意味を瞬時に快は理解する。


『俺たちが隙を作る、だから君はヤツを倒せ!!』


 そう言ってTWELVEの三機は一斉に残弾を連射する。

 前方からの雨のような砲撃にルシフェルは動けなくなってしまう。


『があぁ、クッソ!!』


 その文字通り隙を見たゼノメサイアは一気に飛び上がり空を駆ける。

 そしてルシフェルの真上にまで来た。

 しかし。


『このまま終わるかよっ!!』


 再度胸部から熱線を放ちTWELVEの攻撃を止める。


「ぐあっ!」


 そして邪魔者がいなくなった間に上へ目掛けて熱線の角度を変えた。


「ゴアァァァーーーッ!!!」


 息をのむゼノメサイア。


『ーーーッ』


 しかし覚悟は決まっていた。


『ゼリャァァァーーーッ!!!』


 そのまま飛び蹴りの姿勢となり熱線に正面から立ち向かったのだ。


『グゥゥ……ッ!』


 物凄い熱が足の裏から伝わってくる。

 しかしその熱線も胸部の亀裂により威力が下がっていた。


「(凄い、君は……)」


 その光景に見惚れている名倉隊長。


「(やっと分かった……君は我々と同じ、弱き者なんだな)」


 遂に追い求めていたゼノメサイアの正体に気付いた名倉隊長。


「(力を持つ故に期待され完璧だと勘違いされ、しかし実態は同じ人間なのだ……!)」


 覚悟を決めて叫ぶ。


「よぉし!まだまだ援護するぞぉ!!」


 そう言って仲間たちにも援護を促す。


「全弾発射ぁぁーーーっ!!!」


 全機体から残り全ての弾丸が放たれる。

 それらはルシフェルの熱線を止めるには十分だった。


『オオォォォ……ッ!!!』


 TWELVEに感謝しながら押し切る。

 熱線を破ったゼノメサイアは改めてルシフェルの顔面を殴り動きを止めた。


『歩み寄りに応えればゼノメサイアとしても、ヒーローとして成長できるんだ……っ!!』


 泥臭いかも知れない、イメージしていたカッコいいヒーローとは違うかも知れない。

 しかしこれも一つのヒーローとしての在り方なのだ。

 ゼノメサイアはそう言ったヒーローになる。


「ゴバァ……ッ⁈」


 そして右拳を思い切り胸部の亀裂に押し当てる。


『そうだ、英美さんでも純希でも瀬川でもない俺にこそ出来る事がある!』


 全身のエネルギーを右拳に集中させた。


『きっと両親もそれが言いたかったんだと思うから……!』


 最期に両親が言いたかったであろう事も分かった気がする。



『俺は!ここに!在るっ!!!』



 そのまま右拳からエネルギーを一気に放った。


『ライトニング・レイ!!!』


 ゼロ距離の雷は亀裂からルシフェルの体内に入り込みその全てを貫いた。


「ガッ……ゴバッ……!」


 そして大爆発を起こしルシフェルの新たな体は消滅。

 勝利を決めたのである。

 爆炎が晴れると誇らしげにゼノメサイアは立っていた。


『オォォォ……』


 ゆっくりと振り返りTWELVEの方を向く。

 お互い信頼の眼差しで見つめ合っていた。


「お……?」


 するとTWELVEの隊員たちは気付いた。

 ゼノメサイアの背後から朝日が昇っている事に。

 朝日に照らされたその姿は非常に神秘的だった。


 面識は無いと言えど信頼関係を結ぶ事が出来た両者。

 これからどのような戦いを行なって行くのだろうか。


 ______________________________________________


 朝日に照らされた大阪。

 ようやく惨劇は終わった。

 快たち学生も急いで帰る必要は無くなり次に取れる飛行機までゆっくり大阪内で待つつもりだ。


「もしもし無事⁈よかったぁー!」


 同じ班員の女子生徒も離れた所にいた友人と無事に連絡が取れて安堵している。

 その様子を愛里は微笑ましそうに見ていた。

 そしてある事に気付く。


「(あれ、快くんは?)」


 気が付くと快の姿が見えなくなっていたため探しに歩く事にした。

 ・

 ・

 ・

 一方で快は朝日に照らされる大阪の公園で空を眺めていた。

 両親と見た星空とは違う温かい明るさに少し心を奪われていたのだ。


「快くんいたっ」


 そこへ愛里がやって来る。

 少し快を探したようで息切れしていた。


「どうしたの……?」


「ううん、ただ居なかったから心配で……」


 まだ心配してくれているという彼女に対して快は笑顔を見せた。


「もう大丈夫だよ、心配かけてごめん」


 そう伝えると愛里は笑顔になった。

 そのまま二人でベンチに座る。


「ゼノメサイアとConnect ONEが協力して上手くやってくれたんだね」


 一部が焼け野原にはなってしまったが平和を取り戻した大阪の街を見て快は呟く。


「彼らも歩み寄ったって事だね」


 共に同じ方向を見つめながら愛里は答えた。


「私たちも見習ってもっと歩み寄って行かないと!」


 そして快の顔を見て笑顔になる。


「っ……!!」


 美しくも愛らしい彼女の笑顔。

 今それが自分に向けられていると実感し少し感動していた。


「……俺が歩み寄れたのは瀬川とか色々な人のお陰だけど、その中に与方さんもいるよ」


「そっか」


「あの日は夕焼けだったけどさ、こんな感じでベンチに座って話したよね。その時にヒーローって夢を肯定してくれて凄い励みになったんだ」


 初めてゼノメサイアになり誰も理解してくれなかった頃に掛けてくれた言葉のお陰で今があると言っても過言ではない。


「だからこんな俺でも少しずつだけど先に進めてる、そしていつか自分にだけ出来る事で最高のヒーローになるんだ!」


 そして快も愛里の方を向いて告げた。


「感謝してるし応援してて欲しい!」


 二人はお互い笑顔で見つめ合っていた。

 しばらく沈黙になるが気まずさは感じない、寧ろ心地良かった。


「よし!じゃあそろそろ戻ろっか、みんな心配するだろうし!」


 スクッとベンチから立ち上がる愛里。

 皆の待つ地下へ戻ろうと歩き出すが快は何処か寂しさを感じた。


「(もっと与方さんと二人でいたい……)」


 愛里と皆んなが歩み寄れたという事は前のように戻ってしまうという事。

 つまり愛里と今回のように話す機会が少なくなってしまうのだ。


「(そんなの嫌だ……)」


 皆んなと歩み寄りたい、しかし愛里との関係を終わらせたく無い。

 そして快も立ち上がり愛里を呼び止めた。


「待って!」


 呼び止められた愛里は不思議そうに振り返る。

 視線の先にはモジモジした快が立っていた。


「なに?」


 一生懸命自分の想いを伝えようとする。


「えっと……与方さんには悪いかもだけど俺さ、最近しばらく二人で話せたから少しは皆んなと離れて良かったと思ってるって言うか……」


「?」


「与方さんと二人だけで話してたのが楽しかったからさ、皆んなで歩み寄れるのは良いけどちょっと寂しいっていうか……」


 まだ不思議そうに首を傾げる愛里だが嫌では無さそうだ。


「うん……?」


「あのっ、君と踏み出せた一歩を大切にして俺はみんなのヒーローになりたいんだ……」


 そのまま少し黙ってしまう快。

 しかしそんな何か言いたげな快の言葉を引き出すため、ある言葉をかけた。



「君は大丈夫だよ!」



 その言葉を愛里の口から聞いた快は驚く。

 まるでかつて聞いた幻聴が言っていた言葉のようだったから。


「怖がらないで伝えて?」


「……そうだね」


 深呼吸して勇気を振り絞る。

 きっと大丈夫だろう、自分にもきっと存在意義はあるのだから。


「すぅぅぅ、よし」


 そして右手を前に差し伸べて、胸に秘めていた想いを正直に伝えた。



「好きです、付き合って下さい」



 愛の告白を口にしたのだった。

 愛里は驚いている。


「え……」


 まさか愛の告白だとは思わなかったのだ。

 しかし何故か胸に温かいものが込み上げている。

 そして。


「……はい」


 気が付くと無意識に了承していた。

 差し伸べられた快の手を取り顔を赤くしながら強く握ったのだ。


 ______________________________________________


 そして修学旅行も終わり無事に一同は帰宅。

 咲希はあれから愛里とは話さず一人で黙って帰宅した。


「あ、おかえり咲希ちゃん……」


 叔母が帰りを迎えてくれるが無視して咲希は自室に入る。


「はぁー!」


 そのまま真っ暗な空間の中に置かれたソファに座った。


「ごめんね愛里っ、しばらくアンタとは仲良く出来そうにない……でも必ず計画を成功させるから!」


 そして空間の中央に聳える巨大な聖杯を見つめた。


「二人だけの新世界に成る……そしたら永遠に一緒だよ」


 すると背後に背の高い男の影が。


「(クソクソッ、このままじゃ俺の夢が……っ!!)」


 それは人間態のルシフェルだった。

 ゼノメサイアにまた負けて苛立っているが咲希を見つめる目は冷静で意味深だった。


「(コイツはもう用済みかもね……)」


 しかし咲希はルシフェルを捨てたように見ていた。


「(さっさとコイツらを出し抜いて俺が先に神になる……っ!!)」


 対するルシフェルもまるで彼女とは違う方向を見ているよう。

 しかしその様子も咲希は気にしていない。


「これから一旦愛里と離れるのは辛いけど希望を信じて……」


 快と愛里が付き合った事を考慮し新たな作戦を立てる。


「鍵と救世主、二人の関係をより発展させる。第二段階に移行するよ」


 これからどのような戦いが待っているのだろう。

 更に激化して行く事には違いない。


「……チッ」


 そしてルシフェルは小さく舌打ちをした。






 つづく

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