瀬川は職員専用の居住施設に案内されそこで寝泊まりする事となった。
荷物は後日運ばれて来るらしい。
翌日から訓練が始まるらしいが全く眠れる気がしない、様々なモヤモヤが常に頭の中を埋め尽くしているからだ。
「訓練始めるよ!!」
そして翌日、瀬川の訓練が始まった。
蘭子の指揮のもと訓練用バーチャル空間で機体を操縦し様々な障害を乗り越えて行くというものである。
「っ……」
頭に脳波を計測する機械を取り付けられダミーのコックピットに座る。
操縦桿を握る手は震えていた。
「早速脳波が乱れてるね」
「手も震えてるみたいだし、やっぱメンタルきつかったかな……?」
別室でモニターから様子を見ている新生長官と時止主任が話をしている。
二人とも昨日の様子を知っているため瀬川を心配していた。
「抗矢くん、そんなに気張らないで良いよ」
マイクに向かって話しかける時止主任。
その声は直接瀬川に届いていた。
「頭に着けた装置が君の脳波を読み取ってある程度動きをサポートしてくれる。本物の機体も同じだ、君の生命とドッキングする事で思ったように動けるから。難しく考えないで」
何とか瀬川の脳波を落ち着かせようと優しく言葉を掛けて行く。
しかしその程度で収まるはずは無かった、瀬川の闇はもっと深い。
「行くよ、スタート!!」
蘭子の合図と共に訓練がスタートする。
瀬川の動かす仮想空間での新機体は何とか動き出した。
「うぅぅぅっ……!!」
揺れなども細かく再現されており実際に操縦している感覚と殆ど変わらない。
「おぉぉあっ……!」
脳波によるサポートのお陰で少しはまともに動かせているがやはりまだ細かい起点はきかない。
障害物に見立てられた仮想ビルに突っ込んでしまいゲームオーバーとなる。
「はい次っ!」
しかし蘭子はスパルタで一切の休息を与える間もなくもう一度訓練をやらせた。
「ぐぅっ⁈」
またもすぐに壁に激突してしまいゲームオーバー。
「ちょっと!距離縮んでるよ!!」
「くっ……」
初回より距離が縮んだ事を指摘する蘭子。
瀬川は歯を食いしばり耐えた。
「今から新人の教育か?せっかく前回いい感じに連携取れたのによぉ……」
一般の職員たちも映像を見ながら呟いている。
大半は文句であるが。
大阪での決戦で死傷者を出しながらもお互いをサポートし合った事で多少は理解できて来たというタイミングでの新メンバー加入だ、せっかくの連携が崩れてしまう恐れを抱くのも無理はない。
「参謀の息子、しかも高校生と来た。親のコネで地球の運命握っていいのか?」
そんな話をしている彼ら。
近くにいたTWELVE隊員である竜司に声を掛ける。
「おい、お前的にはどうなんだ?せっかく部隊として成り立って来た所だろう?」
対する竜司は心配そうに瀬川の動かす仮想空間をモニター越しに見つめている。
「どうなんだろうな、俺たちだって最初はあんなんだったぜ?お前たちの反応も全部……」
かつてTWELVEと職員たちの関係はもっと悪かった。
このようにお互いの意見を求め合う事などなかったのだ。
「だから俺はこれから上手くやること信じるぜ……」
自らの経験を語る竜司。
だが一方で職員たちはその意見には賛同できなかった。
「振り出しに戻ったみたいで俺は面倒だ……」
ポジティブな意見とネガティブな意見が交差するがどちらも決して間違っていない。
経験をしたからこそ言える言葉だったから。
「あぁっ、まただ……っ」
そして瀬川はまた堕ちてしまった。
その体たらくに蘭子もいい加減怒りを露わにする。
「何それ、距離短くなってばっかじゃん!やる気が感じられないんだけど⁈」
墜落するまでの距離がどんどん短くなっている。
完全にやる気が削がれてしまったのが表れていた。
「まだまだやるよっ!」
それでも訓練を止めない蘭子。
「はぁ、はぁ……」
瀬川は息を切らしながら絶望感に包まれていた。
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その日の訓練が終わった後、瀬川は用意された自室に戻って来た。
そこで溜め込んだストレスを全力で放出する。
「っぁぁああああっ……!!」
訓練の間に持ち込まれていた荷物の入ったダンボールに当たり散らす。
着替えや生活必需品などが辺りに散乱した。
「ふーっふーっ……ん?」
すると溢れた荷物の中にあるものを確認した。
思わず手に取ってしまう瀬川。
それは瀬川がまだ幼い頃、別れる前の両親と撮った家族三人の写真だった。
写真立てに綺麗に仕舞われていたが今の衝撃でガラスに亀裂が入ってしまっていた。
「何でわざわざこんなもん持って来たんだよ……っ」
この頃、確かに感じていた幸せは父親により奪われてしまった。
母親は今どこで何をしているのだろう。
そちら側に着いて行った場合の未来をどうしても考えてしまう。
「〜〜っ」
母親の事を考えていると瀬川は関連するある経験を思い出してしまった。
その光景をハッキリとフラッシュバックのように思い出す。
「あの日に見た夢、まだ忘れられない……っ」
一体どんな日に何の夢を見たと言うのだろう。
その夢による真実から目を背けるようにしていた瀬川だが今まだ思い出してしまう。
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あの日は強い雨だった。
快と学校で喧嘩をしてしまい憂鬱になりながら帰宅した瀬川は力が抜けるように自室のベッドへダイブした。
そのまま後悔の念に駆られながら数時間が過ぎ日が傾きとうとう月が昇る刻。
「(何でこんなになっちまった……)」
仲違いにより別離してしまう様子を目の当たりにして瀬川はある光景を思い出す。
それは両親が別れる姿だ。
『母さん!何で俺を置いて行っちゃうの⁈』
幼い自分の叫びがフラッシュバックしたストレスで体に変に力が入ってしまう。
布団を掴み強く握り締める。
何度もそのような経験があるかのように既に布団はボロボロだった。
「(もう嫌だ、疲れた……)」
そのまま瀬川は眠りに堕ちてしまった。
そこである夢を見た。
あまりにハッキリしていたため見ている間は現実だと思えたほどだ。
その夢の中で瀬川は両親が別れた際に母親に着いて行った。
そして憎き父親の呪縛から解かれ幸せに暮らしていたはずだった。
しかし夢の途中である事に気付く。
母親に着いて行く道を選んでいたら快とは出会わなかったのだ。
父親に引き取られた際に行った転校により出会ったのだから当然である。
この夢の世界、もとい望んだ選択を行えた世界に快の姿は無かった。
そこで瀬川は初めてこれが夢である事に気付いたのだ。
「この世界に快はいない……」
喪失感を極限まで胸に溜め今にもはち切れそうであった。
そのタイミングで世界が晴れる。
そして聞きたかった声が力強く聞こえて来たのだ。
『あのとき俺はお前を好きになった……!俺がなりたかった愛されるような存在、その理想をお前に見たんだ……!!』
親友である快の姿がハッキリと見えた。
そして自分の事を理想だと話している。
『俺はっ!ヒーローになるっ!!!』
そう叫んだ快の姿がみるみる変わって行く。
この世界を守るヒーローのように思えた存在、ゼノメサイアへと親友が姿を変えたのだ。
「(快がゼノメサイア……っ⁈)」
そして彼の周りにTWELVEの機体が集まる。
TVの映像でだけ見ていた存在が目の前にいる。
更に親友がその中心にいるのだ。
そのまま彼らは罪獣を撃破し夢は覚めた。
たかが夢だと思うかも知れない、しかし瀬川は肌で感じていた。
これは現実であると。
つまり快は本当にゼノメサイアであると。
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Connect ONE本部で瀬川は思い出した出来事により感じたものがある。
家族写真を見ながら快の事を想っていた。
「(アイツが本当にゼノメサイアなら……)」
かつて初めてゼノメサイアや罪獣が出た翌日に快と交わした会話を思い出す。
『ヒーローに憧れてるのは分かってるけどさ、嘘はいけねーな』
瀬川はこんな事を快に言ってしまった。
どれだけ悩んでいただろう、苦しかったろう。
今から分かる。
「(同じ事しちまってたんだよな……)」
昨日快に電話でTWELVEに入った事を嘘だと言われた。
本気で悩み苦しんでいる時に理解されない事の辛さを今理解したのだ。
かつて自分も快に同じ事をしてしまったと。
「どうすりゃ良いんだ……っ」
絶え間ない苦痛を終わらせる方法が分からなかった。
これから自分はどうなってしまうのか、完全に心が破壊されるのも秒読みである。
つづく