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#1

 瀬川にようやく電話が通じた頃、快は公園のベンチにいた。


「はぁ……」


 正直上手く話せなかった。

 TWELVEに入ったなど言い出してまるで快がかつてゼノメサイアだと言った事への当てつけのようにすら思えたほどだ。


「そんな睨むなよ……」


 そんな現在の快の手には犬用のリードが握られておりその先には大型のシベリアンハスキーが座っていた。


「グルルル……」


 瀬川とのやり取りでの雰囲気を察したのかその犬も機嫌が少し悪くなり快に向かって唸っている。

 何とか宥めようと手を伸ばすが。


「バウッ!」


「うおぅ!」


 思い切り吠えられ拒絶されてしまう。

 そこへその犬の飼い主が戻って来た。


「お待たせー、トイレ結構混んでてさ」


 その飼い主とは愛里だった。

 この日は快との約束で共に散歩に来ていたのだ。

 トイレに行っている間に快が飼い犬であるロンの様子を見ている約束である。

 そして愛里が居ない隙に瀬川に電話したのだ。


「全然待ってないよ」


 そしてリードを愛里に返す。

 するとロンは一目散に快から離れて飼い主である愛里に駆け寄った。


「ハッハッ……」


「大して離れてないでしょっ、ちょっとくすぐったい〜」


 快への態度とはまるで違い愛里にはデレデレのロンに対して快は思う事があった。


「変わりよう凄いな、俺には全然懐かないのに」


「ずっと一緒にいるからね〜」


 戯れる愛里とロンを眺めている快。

 すると快はそこである話題を持ちかける。


「そいえば瀬川と連絡ついたよ」


「え、本当に⁈」


 愛里も心配してくれていたのだ。

 快が相談したからである。


「で、大丈夫だった?」


「うーん……」


 頭を抱えてしまう快。

 正直せっかく愛里と付き合って初めて出掛けているのであまり空気を暗くしたくは無かったが話さないのも悪い気がしたので伝える事にした。


「親父さんとConnect ONEが繋がっててそこのTWELVEに入らされたって……」


 正直に瀬川に言われた事を伝えた。

 当然だが愛里も沈黙してしまう。

 そしてしばらく考えた後、愛里は口を開いた。


「TWELVEって罪獣と戦ってるあの……?」


「うん、戦わされるらしい……」


 そのまま快は思っている事を愛里に話す。


「せっかく心配してやったのに何だよって感じだよ、それとも頭おかしくなっちゃったのか……?」


 そんな事を言うが態度から本当に心配しているという事は十分に伝わって来た。

 しっかりそれを感じ取った上で愛里は快に思った事を伝える。


「快くんなら分かるんじゃない?辛い時訳が分からなくなっちゃったり、それでも誰かに頼りたくなるって気持ち」


 愛里の言葉にハッとさせられる。

 快もかつて辛い時何度も人に頼ろうとした事があった。

 その度に上手く行かず悔しい思いをしたものだ。


「……そうだよね、どの道瀬川が辛い思いしてるってのには変わりないんだ」


 親友を助けるため、ヒーローとして成長するため快は考えを改める。

 そして愛里に宣言した。


「俺、また瀬川に連絡してみるよ。どんな事言われても受け止めてみる、それが歩み寄るって事だと思うから」


 これまでの経験で学んだ事をしっかり活かして瀬川に歩み寄る事を決意。

 この考えが果たしてどのような結果を導くのだろうか。


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『XenoMessiaN-ゼノメサイアN-』

 第14界 コヒツジノユメ






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 翌日、瀬川の訓練はまだ続いていた。

 今回は実機を使った飛行訓練だ。

 新生長官は瀬川をまた格納庫に案内し専用機体の説明を時止主任にさせた。


「悪いね今日も付き合わせちゃって……」


「いえ……」


 昨日の様子から少し心が痛かった時止主任は謝りながらも解説を始めた。

 相変わらず瀬川は無気力で聞き流すようにしている。


「これは“マッハ・ピジョン”、君専用の機体だ」


 格納庫の奥で聳える初公開された新機体であるマッハ・ピジョン。

 陽の乗るウィング・クロウより少し大柄だがスリムで風を切ることに特化したフォルムをしている。

 しかしSF好きな瀬川もこれが父親が自分に求める事であり快が辛そうにしていたのと同じような事だと考えると気が乗らなかった。


「なんと言ってもスピードが特徴でね、エンジンの推進力が凄まじいんだ」


 昨日は楽しそうに解説をしていた時止主任だが瀬川の様子を見て心が痛むためテンションを上げる事が出来なかった。


「準備は良いかい?テストを始めよう」


 時止主任がそう言うと瀬川はどうでも良いと言わんばかりに歩いて機体のコックピットに乗り込む。

 ここからは無線で蘭子や時止主任が指示を出してくれる。


『緊張するのも無理はないけどドッキングさえ終われば後は思ったように動かせるからね』


 そう言う時止主任だが瀬川は初のドッキングに少し緊張をしていた。


『じゃあ、ドッキング開始っ!』


 その言葉と共に瀬川の身につけたパイロットスーツにコックピットからエネルギーが流れ込んで来る感覚が。

 感じた事もない感覚に思わず驚き苦しんでしまう。


「ぐっ、がぁぁぁっ……!!」


 まるで体の内側を侵食されるような。

 そして更に心に直接干渉をされるような異様な感覚に嫌悪感を覚える。


「(何のためにこんな…….っ!!)」


 父親の事や快の事を思い出してしまう瀬川。

 こんな事をやった所で良い事などありはしないというのに。


「がはっ……」


 そしてドッキングが完了する。

 しかし瀬川は動こうとしなかった。


「はぁっ、はぁ……」


 大きく息切れを起こしてしまう。

 過呼吸にも近い状態になってしまいまともに機体を動かせる状態ではなくなってしまった。


『くっ、仕方ない。一旦今回の訓練は中止しよう!』


 時止主任の声で瀬川は一度苦しみから解放された。

 しかしまだこれから苦しみは続く、一旦休むだけだ。

 そう考えると憂鬱な気分は全く晴れてはくれなかった。


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 その後、休憩室で自販機のコーヒーを片手に俯いている瀬川はここでも居心地の悪さを感じていた。

 初めてここへ来た時と同じ、職員たちの視線が痛かったのである。


「……っ」


 言葉こそよく聞こえなかったものの落胆しているであろう気持ちは非常によく伝わって来た。

 そこへ他のTWELVE隊員たちがやって来る。


「お、コーヒー全然飲んでねーじゃん」


 俯いた瀬川の顔を覗き込むように竜司が言う。

 瀬川は驚きながらも返事をした。


「あんま美味しくなくて……」


 すると竜司は同じく休憩室に来た蘭子に声を掛けた。


「このコーヒー不味く感じるか、蘭子ちゃんと気が合いそうじゃね?」


「一緒にしないで欲しいね、コーヒーには拘りがあって不味いって言ってんだから」


 コーヒーの拘りという話題が出た事で瀬川は快を思い浮かべてしまった。

 酷い事をしてしまったという後から気付いた事実に心がまた痛む。


「親友がコーヒー淹れるの上手いんすよ、またそれが飲みたくなっちゃいました……」


「へぇ、あたしとどっちが上手いかね」


 コーヒーの事にプライドを露にする蘭子だったが瀬川は続けた。


「でも今更俺に淹れてくれる訳ない、酷い事しちゃったんです……」


 頭を抱えながら言う瀬川に竜司はそれが落ち込む主な理由だと察した。


「それで精神に乱れが出たのか……?」


「俺ソイツが辛い時に突き放しちまった、んで今度は俺がここに入れられて辛いのをソイツは信じてくれなかった。そこで同じ事しちまったって気付いたんです、それまで的外れな事ばっか言って……」


 竜司は腕を組みながら頷いている。


「自分が辛いのと罪悪感がいっぺんに来ちまったんだな……」


「ずっと何かしてやれないかって思ってたのに、ソイツは自分で成長してたんです」


 その話を聞いた竜司はある提案をしてみる。


「その親友を守るために戦うのはどうだ?」


 しかし瀬川には全く響かない。


「そーゆーんじゃ無いんですよソイツは。ここで戦う理由なんか俺にはない、親父に無理やり言われただけだし視線も痛いし……!」


 すると竜司は真剣な顔になり瀬川に助言する。


「最初は俺もそうだったよ、周りは嫌な目してるし何で戦わなきゃいけないんだって思ってた」


 瀬川も竜司の顔を見る。


「でもやってみて同じ仲間がいるって気付いたんだ、お互いに歩み寄れて理解し合える仲間が」


「歩み寄るか……」


「そう、だからまずはやってみろよ。そしたら見つかるかも……」


 手応えを感じ笑顔で後押しをしようとする竜司だったがそのタイミングで瀬川が言葉を遮った。


「俺の何が分かるんですか!!」


「っ……」


「快の事だけじゃない、親父との問題だってあるのに……!心がぐちゃぐちゃなんですよ!そんな中で答えなんか見つかる訳がない……!!」


 絶望の表情を浮かべる瀬川。

 竜司と蘭子は複雑な表情をしていた。

 そしてそのタイミングで。


 ヴ―ッ!ヴーッ!


 館内にサイレンが響き渡った。

 これは罪獣が出た合図だ。


「罪獣⁈こんな時に……!」


 竜司と蘭子、二人は立ち上がり格納庫へ向かおうとする。

 しかし瀬川は立てなかった。


「ほら、行くよ!」


 無理やり瀬川の襟を掴み立たせる蘭子。


「くっ……」


 仕方なく付いて行く瀬川の最悪な初陣が幕を開けた。






 つづく

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