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#2

 またも無理やり格納庫に連れられて来た瀬川。

 そこには大嫌いな父親がいた。


「抗矢、選ばれし者としての使命を全うしろ」


「うるさい……っ」


 そのまま機体のコックピットに乗り込むTWELVEの一同。

 瀬川以外は慣れたように座る。


『ドッキング開始』


 オペレーターの声と同時にパイロット達の機体へのドッキングが始まる。

 瀬川は相変わらず苦しそうだ。


「ぐぅぅうううっ……!」


 しかし先程とは違い何とか乗り越えた。

 出撃準備が完了する。


「はぁ、はぁ……ッ」


 そしてすべての機体が蘭子の乗るキャリー・マザーより引き上げられカタパルトへ向かう。


『ゲートオープン、発射までのカウントダウンを開始します』


『スリー、ツー、ワン、発射』


 キャリー・マザーは発射され外へ出てきた。

 猛スピードで現場へと向かっていく。


「(最悪だ……)」


 初の出撃に絶望が止まらない瀬川だった。


 ___________________________________________


 現場では既に罪獣とゼノメサイアによる戦闘が繰り広げられていた。


『デアッ!』


「キュィィイイイッ!!」


 今回の罪獣はベルゼブブ。

 まるで巨大なハエのような姿をしていた。

 不快な羽音を響かせながら飛び回っている。


「目標補足、固定ギミック解除!」


 そこへ到着したTWELVE。

 キャリー・マザーから機体を切り離し戦闘態勢に入った。


「瀬川、無理はするなよ……!」


 名倉隊長が初陣の瀬川に向かって優しい声をかける。

 しかし瀬川の思考は既に他のものに支配されていた。


『(一機増えてる……?)』


 ゼノメサイアの中身である快は機体がいつもより多い事に気付く。


『(まさか本当に瀬川?いや、それは無い……)』


 まだ瀬川の言う事は信じられない。

 しかし味方が一機増えた事は心強い、なので一気に畳み掛ける事を狙った。


『デヤァッ!』


 飛び回るベルゼブブを思い切り両手で鷲掴みにして地面に叩きつける。


「ナイスだ!」


 わざわざチャンスを作ってくれたゼノメサイアに感謝しながら竜司たちは倒れたベルゼブブに攻撃を仕掛けて行く。


「ギュォォオオッ……⁈」


 一方で瀬川はやはり動けない。

 その様子をゼノメサイアも不思議そうに見る中、蘭子から無線が。


『何してるの動け!せっかくのチャンスなんだから!!』


 蘭子に急かされハッとする。

 ボーッとしてしまっていた瀬川は意識を取り戻しコックピットからベルゼブブを睨んだ。


「照準合わせて……っ」


 一筋の汗が頭部を伝う。

 操縦桿を握る手は震えていた。


『(何してるんだ新しい機体は?)』


 ゼノメサイアの中で快もそう感じてしまうほど瀬川は追い込まれていた。

 心臓の鼓動が止まらない、まるでゼノメサイアになったばかりの快のような感覚に瀬川は陥っていた。


「ギュィィイイッ!!」


 するとベルゼブブがやられてばかりじゃいられないと言わんばかりにTWELVEを振り切って再び空へ羽ばたいた。


「逃げた!嫌な音響かせやがって……っ」


 アモンと化した陽が追いかけようとウィング・クロウを飛ばしたがベルゼブブは追って来る者全てを拒んだ。


「ブシュウッ!!」


 なんとその口から謎の粘液を吐き出したのだ。

 一同は本能的に危険な液体だと察知し避けた。


「うわ危ねっ……」


 そしてその粘液が当たったビルや地面は物凄いスピードで溶け始めた。

 強酸性の溶解液らしい。


「これは厄介だな、なるべく遠距離攻撃で行くぞ!」


 名倉隊長の指示で一同は遠距離からの射撃で応戦する作戦に切り替えた。


「ギュゥゥルルルッ……」


 砲撃を食らい、更に煙幕で周囲が見えないベルゼブブに対しゼノメサイアが背後から接近する。


『オォッ!』


 空中で構えるベルゼブブを羽交締めにするような形で押さえ込む。

 しかしベルゼブブはかなりの怪力でジタバタと暴れ回った。


「ギュォォオオッ!!」


『グゥゥッ……⁈』


 まるで空中でロデオをしているかのように振り回されるゼノメサイア。

 その間もベルゼブブは溶解液を放ち続ける。


『オワッ……!』


 背後から押さえ付けているため溶解液が直接届く事はないが飛び散った水滴が肩に当たってしまった。

 とてつもない熱を感じるが諦めずにしがみついている。


「(快っ、そこまでしてヒーローに……)」


 その様子を何も出来ずに見ていた瀬川。

 ただゼノメサイアの正体が快だという事は知っている。

 弱々しいイメージだった快がダメージを受けて尚ヒーローとして戦おうとしている。


「(あぁっ、まただ……)」


 また頭の中がごちゃごちゃになってしまう。

 父親に反抗したい事、そして快のサポートをしたかったというのに傷付けてしまった事。

 その他の重圧など様々な重荷が心にのしかかっている。


『グオッ……』


 その間に振り落とされてしまうゼノメサイア。

 ベルゼブブは地面に落下した対象に狙いを定めている。


「ギュゥゥルルル……ッ」


 今にもゼノメサイア目掛けて強酸性の液体を放とうとしていた。

 いくら超人でもあれを食らえばただでは済まないだろう。


「(快っ……!!)」


 そこで咄嗟に瀬川が取った行動は。


「うわぁぁぁああああっ!!!」


 気がつくと思い切り機体を発進させベルゼブブへ猛スピードで突っ込んでいた。

 マッハ・ピジョンの先端が思い切り敵の腹部に突き刺さる。


「ギョエエエッ……!」


 地面に落下していくベルゼブブ。

 何とかゼノメサイアを助ける事が出来た瀬川に一同は少し関心した。

 先程激励をした竜司も当然喜んでいる。


「おぉっ、やるじゃねぇかアイツ!」


 ゼノメサイアの中の快も驚いていた。


『(助かった……っ!)』


 そして起き上がるベルゼブブだがかなり弱っていた。

 後は猛攻撃を仕掛ければ確実に倒せるだろう。


「よし、このまま一斉攻撃だ!」


 名倉隊長の発言で一同は気合いを入れる。

 だがしかし。


「はぁ、はぁ……」


 瀬川の様子が少しおかしかった。


「おい瀬川?一旦下がって一緒に攻撃を……」


 竜司が声を掛けたのも束の間。

 瀬川に声は届いていなかった。


「あぁぁぁっ!!!」


 気がつくと瀬川は叫びながらベルゼブブに照準を合わせ弾丸を連射していた。


「おい落ち着け!」


「何やってんの!射線上にいるから援護出来ない!」


 誰も援護する事が出来ない状況で瀬川はひたすらベルゼブブを撃ちまくった。


「(何だ、何やってんだ俺⁈止められない……!)」


 瀬川も頭では何も考えられなかったのだ。

 度重なる重圧が心を爆発させてしまい止められなくなってしまった。


「ギュゥゥルルル……ゥッ」


 段々と狙いが定まらなくなっていくマッハ・ピジョンの攻撃を耐えられるようになって来たベルゼブブ。

 何とか隙を見つけようとしている、そして。


「ギュィィイイッ!!」


 思い切り走り出しマッハ・ピジョンへ突進した。


「っ……⁈」


 絶対絶命の瀬川。

 そこへ駆けつけたのは。


「危ねぇ!!」


 なんと竜司の乗るライド・スネークだった。

 アンチグラビティシステムを起動し瀬川を庇った。

 そのままベルゼブブの突進をモロに食らってしまう。


「ぐぁぁぁっ!!」


 突き飛ばされて機体は横転。

 コックピットの竜司は血を流しながら意識が飛んでしまった。


「え……?」


 状況が理解できない瀬川。

 そんな彼へ尚もベルゼブブの攻撃は迫っている。


「ギュゥオオッ!!」


 しかしそこで間一髪。


『ゼェヤッ!!』


 立ち上がったゼノメサイアがベルゼブブに飛び蹴りを喰らわせ吹き飛ばした。

 その際にコックピットの中が見える。


『え、瀬川……?』


 そこには親友である瀬川が乗っていた。

 あの電話での話は本当だったのかと知ってしまう。


「ギュオオォッ!!」


 しかしベルゼブブが立ち上がった事でそれを気にしている場合では無くなった。


『終わらせるっ!』


 そしてエネルギーを溜めるゼノメサイア。

 義の右手から放たれる神の雷。



『ライトニング・レイ!!!』



 一直線に進んだ雷は見事にベルゼブブに命中し撃破。

 死体を"その場に残したまま"倒れたのだった。


『ハァ、ハァ……』


 コックピットの瀬川を見つめながら膝から崩れ落ちるゼノメサイア。

 一方で瀬川は何も考えられなかった。


「ちょっと、竜司⁈」


 そこで蘭子の無線が聞こえる。

 どうやら竜司を呼んでいるようだが返事がない。


「え…………」


 そこで瀬川は自分のしてしまった事の重大さに気付くのだった。


 ___________________________________________


 帰投した後、TWELVEの一同は集中治療室の前にいた。

 名倉隊長と陽は窓ガラスから意識不明の竜司の延命をしている様子を心配そうに眺めており瀬川は一人ベンチで項垂れていた。


「はぁ、あんたねぇ……」


 そこへ水筒にコーヒーを淹れて来た蘭子がやって来る。

 思い切り瀬川のスネを蹴ろうとしたが踏みとどまった。


「あんたみたいなやつ、蹴る価値もないよ……っ」


 そう言いながら竜司の様子を見てコーヒーを口にする。


「……何かいつもより薄い」


 豆やお湯の分量など間違えていないはずだが何故か味が薄く感じた。

 それに対して陽が口を開く。


「何だかんだ言って竜司くんが心配なんだね」


「は⁈そんな訳ないし……っ!!」


「さっき初めて名前呼んでたじゃん」


「あれは生存確認で……っ」


 この話題も陽が何とかこの暗い空気を明るくしようと試みたから発せられたものである。

 そのお陰でようやく名倉隊長も口を開く事が出来た。


「命に別状はないと聞いている、だから気負うな瀬川」


 彼なりに瀬川を気遣う発言をしたつもりだった。

 しかし当人には全く響いていない、項垂れるばかりである。


「せっかく隊長が慰めてくれてんだよ、何か言いなさいよ」


 ピリピリしている蘭子からは必死に怒りを抑えているのが伝わる。


「……俺のせいですよ、全部」


 すると瀬川は一番相応しくない言葉を放ってしまう。

 せっかく気負うなと言ってもらったというのに、しかし今の瀬川に他人の慰めを素直に受け取る余裕は無かった。


「反省も感謝も見えないし!また別の方向で面倒なヤツ入ってきたぁ……!!」


 更に苛立ちを募らせる蘭子。

 そしてその言葉を遮るように瀬川は立ち上がりその場を去ろうとした。


「……やっぱ俺、無理です」


 竜司の状態も確認せずに去っていく。


「あっ、待てっつーの!!」


 追いかけようとする蘭子だが名倉隊長がその肩を掴み阻止した。


「何やってんの……!!」


「今は一人で考える時間が必要だ……っ」


 そう言った名倉隊長の表情は強張っており蘭子の肩を掴む手の力も強く震えていた。

 その様子を察知した蘭子は瀬川を追うのをやめ感情を押し殺すのだった。






 つづく

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