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#1

 瀬川がConnect ONE実動部隊TWELVEに入隊してから数日が過ぎた。

 初めこそ学校中の話題になったものの今は少し落ち着いた。

 今まで通りの学校生活に戻りつつあったのである。


「…………」


 しかしその中で一人だけ、今まで通りの日常には戻れないでいる人物がいた。

 それは件の瀬川の親友である創 快。

 一人で黙々と迫る学園祭の準備をしていた。

 視線の先にはクラスメイト達が楽しそうに準備をしている。


「ちょっと飲んでみて、めっちゃ上手く出来た!」


「うわ本当だ、過去一じゃね?」


 快たちのクラスは喫茶店をやる予定だ。

 これなら得意なので快も活躍できると思ったが誰もそんな快の特技を知らない。

 それにまだ快とクラスメイト達には距離がある、そのためやりたいと伝える事も出来ないのだ。


「まだフィルターある?」


「ちょっと少なくなってるな」


「誰か買い出し行けないかな?俺ちょっと手が離せなくてさー」


 そこで委員長が発言をする。

 視線が暇そうな快に集まった。


「じゃあ創さ、買い出し行ってくれる?」


「い、良いけど……」


 そしてお金を受け取り教室を後にした。

 廊下へ出ると丁度教室へ入ろうとしている女子たちに遭遇する。


「あ、通るね」


「ごめん……」


 テンションは低いまま申し訳なさそうに避ける。

 するとその教室に入る女子たちの中に愛里が居るのを目撃した。


「快くん買い出し?」


「そうだね」


「私も行こっかな?」


「本当?」


 恋人である愛里も便乗し来てくれようとするが他の女子たちに引き止められる。


「ちょっと、愛里はやる事あるでしょ?」


「そうだった、ごめんまた後でね」


 そしてそのまま愛里はクラスメイト達との輪に入り楽しそうに談笑しながら作業をしていた。

 その様子を快は寂しそうに眺めている。


「(結局孤独だ……)」


 瀬川という親友が学校から去り、愛里という恋人も自分だけに構ってはいられない。

 学校に快の安定した居場所は今のところ存在していなかった。


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『XenoMessiaN-ゼノメサイアN-』

 第15界 ワタシノツミ






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 近所のスーパーに出向いた快はペーパーフィルターのついでに市販のコーヒー豆を挽いた粉も買うように言われた。

 きちんと言われた通り買ったが豆から挽く工程に美味しさを感じる快はどうしても勿体無いという心に苛まれていた。

 ただ自分はコーヒーを淹れる係ではない、出し物が決まった時点で怖くて立候補できなかったのだ。


『じゃあ誰がコーヒー淹れる?』


『俺やりまーす、接客より楽そうだし!』


 そのような流れでどんどん決まって行ってしまい快は余り物のウェイターになってしまったのだ。

 肝心の愛里だが快はまだ彼女にはコーヒー好きという事を伝えていない。

 なので口を出してくれなかったのだ。


「(本当は俺もコーヒー淹れたいよ、そしてみんなから……)」


 愛されたい。

 美味いコーヒーを淹れればきっと少しはみんなも見直してくれるだろう。

 陸上競技会の時の瀬川のように。

 そんな事を思いながら教室の扉に手をかける。

 すると中から会話が聞こえて来た。


「そいえばさ、創と付き合ってるって本当?」


 クラスメイトの女子の声で今自分が抱えている話題を出されたので驚いた。

 思わず扉を開くのをやめて聞き耳を立ててしまう。


「え、うん付き合ってるよ〜」


 すぐさま否定せずに答える愛里。

 それには胸がホッとする。


「あーゆーのがタイプだったんだね、中学の時も似たような奴にアタックしてなかった?」


 そのクラスメイトは中学の時も同級生だったようだ。

 快も知らぬ愛里の話を耳にして思わず固まってしまう。


「え、タイプっていうか、何だろ……?」


 少し困ったような反応を見せる愛里。

 快はそれが若干引っかかった。


「確かにあのタイプは愛里の優しさで包んであげるのが良いのかもね」


 クラスメイトの言葉でやはり快のような冴えない弱々しい男を指しているのだと分かった。


「てかさ、あの金髪の男どーしたの?デートにも行った仲なんでしょ?」


「あ、純希くん……?」


 そこでクラスメイトが純希の話題を口に出す。


「……!!」


 思わず快も反応してしまう。

 余計に教室へ入る隙が無くなってしまった。


「みんなそっちと付き合うと思ってたからビックリしたよ、お似合いだと思ってたからさ」


「あはは、まぁ仲良くしてくれたからね……」


 少し困ったような表情を見せる愛里。

 快と付き合っているというのに純希の話題を出されている。


「でも愛里が選んだ事ならね、創のこと好きになったんでしょ?」


「え?あぁ、うん……」


 そう言われると愛里は少し考えるように間をあけた。

 そして絞り出すように答える。


「そうだね、そういう事でいいのかな……?」


 少し歯切れの悪い愛里の答え方にクラスメイトは首を傾げながらもそれ以上聞くのはやめた。

 しかし話を聞いていた快は複雑な気持ちになり結局教室の扉を開けずに立ち止まってしまった。


「はぁ、はぁ……」


 久しぶりにパニック発作が訪れてしまい快は一度その場を去った。

 ・

 ・

 ・

 その後、愛里はゴミを捨てるためゴミ捨て場に来ていた。

 するとその場の窓から見える中庭に人影が見えた。

 夕日に照らされる見覚えのある姿、事実上の恋人である快だった。


「快くん?みんな戻ってこないって探してたよ」


 買い出しを頼まれていたので一同は心配していた。


「あぁごめん、ちょっとね……」


 手に持っていた頓服薬を慌てて隠し強がってみせる。

 もしも障碍者だとバレてしまえば嫌われる恐れがあると思ったのだ。


「私も心配したんだよ?なんか事情あるなら相談してくれればいいのに」


「ごめん……ってかもう時間ないよね、せっかく買ってきたけど」


「それは明日にしよっか、今日は一緒に帰ろ?」


 買ったものを使うのは明日にすると決めて快は愛里と共に帰るのだった。


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 快と愛里が帰る道、駅まで向かう間二人は少し緊張していた。

 お互いに秘めた感情があるからだ。


「……っ」


 そしてようやく愛里が口を開く。


「ごめんね、せっかく付き合ったのに一人にすること多くて」


「そんな事はないよっ、歩み寄るのが大事って前に話したし……!」


 愛里の謝罪を否定する快だが彼女自身は罪悪感がありそうせざるを得なかったのだ。


「ううん、ただでさえ瀬川くん居なくなっちゃったのに……」


「心配する事じゃないって、ね?」


 必死に宥めようとする快。

 愛里がこうなっているのは自分に原因があるのではと思っているのだ。


「じゃあさ、何で教室戻って来なかったの?」


「それは……」


「どうしても話せない?」


「……あんまり知られたくないかな」


 このような事でパニック障害になり嫌われたくない。

 なので黙っている事にしたがそれが逆に良くなかったらしい。


「わたし彼女だよ……?何でも受け止める覚悟して付き合ったのに……」


 残念そうに俯いてしまう愛里。

 その様子を見て快はどうしようもない事実に気付く。


「そんなに頼りないかな……?」


 悲しそうな瞳でこちらを見る愛里に胸が痛くなる。

 決してそういった訳ではない、ただ嫌われたくないだけなのだ。


「……違うよ」


 小声で苦し紛れに否定するがその言葉に説得力はなかった。

 そのタイミングで駅に到着する。


「電車来ちゃうよ、じゃあまた明日」


「うん……」


 愛里は手を振り後味の悪いまま快は電車に乗って帰宅するのであった。


 ___________________________________________


 帰宅後、快は不安な気持ちを吐き出すため瀬川に電話をしていた。


「障害の事、知られたら嫌われるかもしれない……」


『ずっと秘密にしてたもんな』


「せっかく成長できたと思ったのにまだ弱い部分があるんじゃ……」


 瀬川は同じなため理解してくれているが定型発達の人が理解してくれるか心配なのだ。


『でも付き合って行くならいずれは話さなきゃいけないと思うぜ?』


「だよね……」


『それに与方さんも力になりたいと思ってくれてんだろ?応えてやらなきゃ障害のこと以前に関係悪くなっちまうぞ』


「それも分かってるけど……」


『ほら、歩み寄るってやつだ』


 瀬川の言葉も一理あると思うが勇気が中々出ない。

 今まで一度も定型発達者に告げた事がないから。


「そりゃいつかは話すつもりだよ、でも今は怖いんだ……」


 脳裏にチラつくのは愛里と純希の姿。

 クラスメイトがお似合いだと言っていたようにまだ純希と並ぶ姿が浮かぶのだ。

 つまりは障害者である自分は見合っていないと思ってしまったのだ。


『快……』


 そんな快の話を瀬川は心配そうに聞いていた。

 TWELVEでの訓練の間に。

 そして電話は切られた。

 本部の休憩室で瀬川は溜息を吐く。


「良いトコばっか見せようとし過ぎだ……」


 ヒーローになりたいという快の気持ちが仇となってしまっている事を考えたのだ。

 ・

 ・

 ・

 一方愛里は帰宅後、自室に向かう途中である部屋の前で立ち止まった。

 その部屋の扉には"ゆうき"といった男の子の名前のようなものが書かれている。


「……っ」


 愛里は震えた手でドアノブに手をかける。

 ゆっくりと扉を開くとそこはカーテンが閉まり真っ暗だった。

 そしてまるで引っ越したての部屋のように段ボールが沢山積まれていた。

 家族の中で一人だけまだこの家には辿り着いていないかのようであった。


「……お兄ちゃんっ」


 何か悔しがるようにそう呟く愛里。


「(また上手くやれない……っ)」


 先程の快とのやり取りが関係しているのだろうか。






 つづく

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