ゼノメサイアに変身した快。
降り立った街は近所だったため緊張が走る。
『大丈夫、いつも通りやるって瀬川とも話したろ……?』
視線の先には禍々しい姿の罪獣。
第拾弐ノ罪獣バシンが黒いオーラを放ちながらこちらを睨んでいた。
「グゥオォォォ……」
全体像は怪獣型のゾンビのような風貌のバシンにゼノメサイアは飛び掛かる。
『ゼェエエヤッ!!』
するとバシンは自身から放たれる黒いオーラを前方に集めまるでバリアのように構えた。
ゼノメサイアは軌道を変えられずそのままバリアに蹴りを入れてしまう。
『ゥグアッ……⁈』
何故かバリアに蹴りをぶつけると同じだけの衝撃がこちらに返って来た。
脚部にダメージを受けてしまったゼノメサイアはそのまま突き飛ばされてしまう。
「ゴォォオオオッ!!」
そのままバシンは黒いオーラをゼノメサイアへ伸ばしその身体を拘束した。
『グッ、アァッ!』
拘束から逃れようともがくがその度に何故か自分に痛みが走ってしまう。
『何だこのモヤモヤ……っ⁈』
全く逃れられる気がしない黒いオーラに疑問を抱きながらもがき続けるがその度に痛みが返って来るのだ。
「あぁっ、快くん!」
愛里もその様子を見て快のピンチに心臓の鼓動を大きくさせるのであった。
『グゥゥゥ……!!』
ゼノメサイアは拘束されたままバシンにオーラを操られる。
そのままバシンは口を大きく開けゼノメサイアを食おうとしているかのような姿勢を見せた。
黒いオーラに操られどんどん口に近づいていくゼノメサイア。
抵抗は何も出来なかった。
「ガパァァァ……」
そして食われそうになったタイミングで助けが。
「離しやがれっ!!」
瀬川の乗ったマッハ・ピジョンが高速で飛んできてバシンの丁度オーラに包まれていない脇腹を攻撃した。
「ゴギャァァァ……ッ!!!」
その衝撃でゼノメサイアは拘束から解放され地面に落ちた。
そしてやってくるTWELVE。
「目標を捕捉、駆逐にあたる!」
名倉隊長はゼノメサイアの方を見て頷きながら部隊に指示をしたのであった。
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お互いの顔を合わせて初の実戦だ。
快の弱さを知ったからかTWELVEの一同はゼノメサイアを守るような陣形を取った。
「ゼノメサイアを守りつつヤツの動きを観察しろ!」
瀬川のマッハ・ピジョンとアモンのウィング・クロウが先行し攻撃を加える。
名倉隊長のタンク・タイタンと竜司のライド・スネークがゼノメサイアを守るようにしていた。
「何だこのモヤ?」
バシンの周囲に漂っている黒いオーラに疑問を抱いたアモンはそこに攻撃してみる事にした。
オーラ目掛けてビーム弾を放つとなんと攻撃が返って来た。
「ぅおう⁈」
まるで鏡の反射のようにビーム弾がそのまま跳ね返ってきたのだ。
慌てて避けるが驚きを隠せない。
「何じゃこりゃ⁈」
「今分析中!」
無線で上空からキャリー・マザーで構える蘭子が伝える。
急いでキーボードを叩き黒いオーラの分析をした。
「おぉ!」
その間も非行型の二機は攻撃を他の部位目掛けて仕掛けていく。
そうして分かったのは黒いオーラ以外には攻撃が通るという事。
しかしそれでも今までの罪獣の中では硬い方である。
「ゼノメサイア、聞こえるか?」
一方で名倉隊長は無線機に向かって話しかける。
するとインカムから快の声が聞こえた。
「あ、はい聞こえます……」
快は支給された無線機をポケットに入れていたのだ。
バーチャル訓練でも使っていたものである。
そこから名倉隊長の声が聞こえたため慌てて装備したのだ。
「蘭子があのモヤについて調べてくれている、分析が完了次第我々も動くぞ!」
「は、はいっ!」
直接会話をしながら戦うのは初めてのため緊張してしまうが愛里や組織の人たちに自分がヒーローだという事を証明するためにはやるしかない。
気合を入れながら快は蘭子の分析が終わるのを待った。
「よし、分析完了!」
蘭子は各機体に分析結果のデータを送る。
快は見る事が出来なかったが蘭子に無線で伝えられた。
「あのモヤは鏡みたいなもん!攻撃すれば同じものが返って来る!」
そして作戦を考える。
「じゃあどうすればいい⁈」
「簡単だよ、あのモヤ自体そんなでかくないから誰かがアレを覆いつくせる程の攻撃をして一身に引き受ける。そしたら他は隙だらけ!」
それが分かったなら決める事は一つ。
「誰がその役を引き受けるかだな……」
当然攻撃が跳ね返って来るオーラを一身に引き受けるのだから危険が伴う。
しかしこの作戦には必要な事だ。
「二人でとかは無理?片方が攻撃して片方が守る的な?」
「それじゃあ火力が足りなくなるよ。守れそうなのってウィング・クロウくらいだけどあの火力は絶対いるし」
「だよなぁ……」
竜司が提案するもすぐに却下されてしまった。
やはり一人でやるしかないのだ。
「~~っ」
一方で快は歯を食いしばっていた。
覚悟を決めていたからである。
「俺がやります……っ!」
なんと快が挙手したのだ。
「はぁ?何であんたが!」
まだ快を信じ切れていない蘭子は怒るが名倉隊長は理由を聞いた。
「何故立候補するんだ……?」
快は本心を答える。
その言葉はやはり覚悟で満ちていた。
「ヒーローに、ならなきゃいけないんです。自分の存在意義を証明するために」
「ほう……」
「みんなの信頼を得るためにも、大切な人に心配かけないためにも。俺はここでしっかり活躍しなきゃいけないんです!」
一歩前に出てバシンを睨む。
「そうしたら皆んなに愛されるヒーローになれる……!!」
覚悟に満ちたその言葉を聞いた名倉隊長はやはり自分の過去と快を重ねた。
自分も抱いている讃えられたいという感情、それは快の愛されたいと本質は一緒だろう。
「よし、頼んだぞ」
「……はいっ!」
こうして作戦が動き出したのだ。
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まずは黒いオーラを一点に集中させるため役割を引き受けたゼノメサイアが先行する。
勢いよく走りだしバシンと取っ組み合いのような体勢になる。
『ぐっ、流石にこの攻撃はモヤ使うまでもないか……!!』
ただのタックルは黒いオーラを使うまでもなく肉体で防がれてしまう。
そしてゼノメサイアは両腕をガッシリと掴まれてしまった。
「ガパァァァ……」
そのまま大きな口を開けるバシン。
丸ごと飲み込む気だろうか。
「快ぃぃーーーっ!!!」
そこへ瀬川のマッハ・ピジョンが突撃してきて隙のある部位を攻撃する。
それに便乗し他の機体たちも一気に攻撃を始めた。
「言ったろ、お前の夢のために力貸すってよ……!」
集まった四機たちの攻撃により流石のバシンもダメージを喰らってしまいゼノメサイアを手放す。
「アガァッ……」
解放されたゼノメサイアは何とか黒いオーラを一点に集中させられる攻撃を考えていた。
『(普通の攻撃じゃダメだ、耐えられないような攻撃にしないと……!)』
今の感覚だと先程の勢いをつけた飛び蹴りでようやく使ってくれるといったようだ。
しかしあんな勢いをつけた攻撃を連続で長い間繰り出し続ける事などできない。
『だったら……!』
ゼノメサイアは一度バシンから距離を取る。
その不審な様子に瀬川は疑問を抱いた。
「何する気だアイツ……?」
何やら構えを取るゼノメサイアを見ていると突然全身のエネルギーを右手に集中させ始めた。
『オォォォッ……!!』
あの体勢はまさか。
「おい快っ、あの雷撃使うんじゃねーだろうな⁈」
無線で快に呼びかける。
『もうこれしかないんだっ!』
「でも跳ね返って来たらお前……!」
『何とかするっ!』
「でも……っ!」
快はもう聞かなかった。
とにかく今は自分の功績で敵を倒しヒーローとしての素質を示さねばならない。
『よぉし、喰らえっ』
そのまま右手を前に突き出し思い切り雷撃光線を放った。
『ライトニング・レイ!!!』
一直線に進み雷撃光線はバシンを捉えた。
皆が見守る中、快は覚悟を決める。
そして。
「ォゴオオオッ!!!」
バシンは思惑通り黒いオーラを一点に集中させ雷撃光線を防ぐ。
『今だぁぁぁっ!!!』
無線に向かって快は叫ぶ。
その瞬間、反射した雷撃光線が本来の雷撃光線とぶつかり合いとてつもない衝撃がゼノメサイアを襲う。
『ウァアアアアーーーッ……!!!』
全力で踏ん張り耐えているゼノメサイア。
苦しみから解放するためにも一同は全力で応える。
「最大火力だ、合体するぞ!!」
「「「応っ!!!」」」
そしてTWELVEの機体は合体し人型のゴッド・オービスとなった。
「快っ、今助けるぞ!!」
隙だらけの位置に最大火力のエネルギーを放とうと構える。
そして放たれようとしたその時だった。
「ライフ・ブラス……ぁがっ⁈」
なんと突然バシンが全身から衝撃波を放ち周囲のものを吹き飛ばしたのだ。
黒いオーラも例外ではなくゼノメサイアは結果的に解放されたと言えるだろう。
しかしその様子は異常だった。
「何だっ⁈」
『ガァァッ……⁈』
解放されたゼノメサイアだったがダメージはかなり入ってしまったようで苦しんでいる。
「ォゴロロロ……」
一方のバシンは異常な様子でその姿を変えていった。
更に禍々しさを増していく様子に少し既視感があった。
「様子が変だ、蘭子ちゃん!」
竜司は蘭子に分析を求める。
「もうやってるっつーの!」
分析を開始した蘭子。
それにより明かされたデータを見た彼女は驚きの声を上げた。
「え、嘘でしょ……」
絶望的な声を出す蘭子を竜司は急かす。
「何なんだ⁈」
そして蘭子がその正体を答えると同時に変化したバシンも正体を表した。
「コイツたった今、ルシフェルに憑依された……!」
その蘭子の言葉通り、バシンはルシフェルと混じったような姿となりこちらを睨んだ。
その眼光は自らの勝利のために進む戦士のようであった。
『うぉぉぉっ!邪魔させてもらうぜぇ!!』
バシンの能力を得たルシフェル。
"ルシフェル・バシン"が誕生した瞬間だった。
つづく