「というわけですわ」
「えと...なにがですか...?」
所変わって、私はもる子さん行きつけの近所のスーパー。その敷地内にちょこんと佇む焼き鳥屋さんの屋台に来ています。
そして丁度良く腰掛けられる花壇の縁に座って、なぜか先程まで死闘を繰り広げていた第二軽音部の面々、ピンクパーマのお姉さん系である蛍日和さんを筆頭に、銀髪ショートで無口系な些細さん、金髪ツインテールの鍍金さんと美味しく焦げ付いたもも肉を頬ばっているのでした。
今はお手洗いに行っていますが、もる子さんも一緒です。
「あら?聞いていませんでしたの?ワタクシたちもアナタ方に加勢いたしますわって話ですわ」
「...どういう訳でそうなったんですか...?」
さも当然、前から友達ですといったように蛍日和さんは語りました。
「ワタクシたちは元々、アナタがたと協力関係を結びたくてやって来ましてよ。それなのにちゃんと話も聞かずに...」
「いやいや...購買で会ったときは敵意剥き出しだったじゃないですか...」
「あのときは、あのときですわ!そこから三日三晩の屋上生活を経てアナタ方を知って、ワタクシたちの夢に近づくために利用...一緒に頑張ろうって思いましたの!」
「今、利用って言いませんでした...?」
「聞き間違いですわ」
「...。でも、あの蛍日和さん、教室でそのお話した時も凄く嫌な感じでしたし...」
「よーく思い出してみてくださいですわ。私は瀧笑薬さん、お逃げになるのって言っただけですわ!勘違いですわ!」
「えぇ...。じゃあ些細さんが襲ってきたのは...?」
「ああ、あれは、アナタ方が生徒会選挙で勝ち上がれる力があるかを試しただけですの」
「言葉足らずにも程があるのでは...?それに戦いとか言ってませんでした...?」
「あら、知りませんの?我が学園の生徒会選挙は各々の学生が特技を披露して現生徒会から地位を奪うんですわよ?」
「知りませんよ...なんですかそれ」
「あ〜、そう言えば転校生でしたわね。いいですわ。ついでに色々説明いたしますわ。鍍金」
「ハイっ!蛍先輩っ!」
鍍金と呼ばれ、蛍日和さんの横に座っていた金髪のツインテールさんが元気な声を上げました。
「ではっ僭越ながら、この
切れ長の目とツンツンした雰囲気、ギャルっぽい見た目とは裏腹になんとも明朗快活、とても接しやすい印象です。
「学園の生徒会選挙はですね、今、蛍先輩が言ったとおりに現在の生徒会役員と立候補者とが特技でぶつかり合って、より優秀だった方が新たな役員になれるというわけなんですっ!」
「は、はあ...」
「生徒会役員の役職につけるのは五人!生徒会長、副会長、会計に書記に監査です!他にもメンバーがいるっちゃいるんですけれどっ、そこは役員からの指名となっていますっ!そこで
「ま、まあ言ってましたけど...」
「それで鮭ちゃんさんに協力を求めたっ。いえ、生徒会長に立候補するように物質さんは求めたんですねっ」
「...!」
そんなことまで知っているのかと私は怖くなりました。
確かにもる子さんは生徒会選挙に出たいと話をしていました。
そして、私に生徒会長になってくれとも。
しかしその話をしたのは数日前のことで、そのころ持鍍金さんを含めた第二軽音部の方々は屋上で私達が来るのを今か今かと待っていたはずです。
下校中のちょっとした会話の中で出た話題なのに、それを知っている持鍍金さんに少しばかり恐怖を覚えました。
「ふふふ、驚きまして?鍍金は何でもやる女でしてよ?ちょっとした話だろうが何だろうが筒抜けですわ〜」
私の隣で、自慢げに蛍日和さんが笑いました。
「はは...はあ...」
持鍍金さんは少し自慢げに胸を張りながら続けます。
「現生徒会に取って代わって私達が天下を取る。とってもいい作戦だと思いますっ!ですが障害がないわけではありません」
「と、いうと...?」
「選挙に出る条件ですっ!」
「条件...ですか?」
「はいっ。現生徒会は鮭ちゃんさんも知っての通り学園のルールを変えました。制服登校を原則にしましたし、髪色、髪型、アクセサリーその他諸々の自由を一部生徒の特権としたのですっ。いわば生徒会の言いなりです。それと同時に生徒会選挙に出る方にも制限をかけました。それは一定の支持のあるきらら系っぽい活動をしているということ。つまり、個性を持っている人だけが生徒会に入れると」
「でもそうしたら...」
「はい。髪型や髪色なんていったきらら系のアイデンティティといった部分を根こそぎ奪われてますから、大体の学生は生徒会には入れませんっ。その権利すらないんです。ですがそうしたら余りにも独裁的すぎて声を上げる方々もいることでしょう。ですから、生徒会の息がかかった権力を持つ活動をしている者たちっ。つまり『星みっつ』の学生を生徒会立候補者として立候補させて、現生徒会メンバーと競わせたんです。いわば八百長ですね」
「な、なるほど...」
「『星みっつ』の条件はとても過酷です。今は一部の上位部活動や風紀委員会くらいです。私達、第二軽音部だってやっと星ふたつです。ですからまず私達がすることはっ」
「『星みっつ』...になることですか...?」
「その通りですわ!」
蛍日和さんは立ち上がり、びしっとポーズを決めました。
「ワタクシたちは夢を追い求めるために星みっつになって、学園内できらら系の天下を取るんですわよ!」
私の方に強く強く指を向けてなんともご満悦です。
話を聞く限り、どうすれば生徒会になれるかはわかりました。
ですが一番の問題として私は生徒会に入る気はありませんし、生徒会長なんてもってのほかです。
彼女たちはトントン拍子に話を進めた気でいるのかもしれませんが、私は全くそうでありません。
私はただ平和に毎日毎日たのしくキラキラとした高校生活が送れれば充分なんですから。
「なんか面倒くさいな〜」
私がそんな事を思っていると、花壇の後ろの茂みから声がしました。
もる子さんです。
「あら、もる子さん。いらっしゃいましたの」
「うん。聞いてたけどさ〜。なんか、星がどうたらとか...面倒だな〜って思っちゃった。それに私と江戸鮭ちゃんに敵意剥き出しだったし?そんな人達の話に乗るのもあれだな〜って」
「ですから、それは勘違いですわ」
「じゃあ、私の苗字を呼んだことは?」
「それも勘違いですわ。ワタクシが言いたかったのはアナタがなぜ学園にやってきたかの理由を知っているから協力しようってことでしてよ」
「へ〜、そうなんだ。信じられないけど」
「信じてもらうしかないですわね。それに、これが生徒会長への近道でしてよ?」
「あのさルールとかどうでもいいから真っ向から全員倒せば生徒会になれるじゃん?さっきの蛍日和ちゃんたちみたいに」
二人は冷ややかに睨み合います。
もる子さんは笑顔を崩しませんが、目つきだけはとても鋭く光っていました。
まさに一触即発。
先程の惨劇がまたも繰り広げられるのではと頭をよぎります。
私が二人を交互に見ながらワタワタとしていると、蛍日和さんが口を開きました。
「ですがもる子さん。例え生徒会を全員倒したとて、学生の皆さまが認めなければそれは生徒会とは言えませんですわよ?」
「あ、そっか!じゃあ選挙はでよう!選挙で全員ぶっ飛ばせば大丈夫だね!」
「そうですわ!」
何が「そうですわ!」なのか私にはわかりません、が何故か先程まであんなに敵対していたのにもる子さんと蛍日和さんは意気投合気味。
現に両手を合わせて笑い合っています。
二秒前の目つきとは真逆に瞳を輝かせて。
「そっか〜!そうだね!うん!全員ぶっ飛ばしても皆に認められなきゃ駄目だもんね〜!さすが蛍日和ちゃん!」
「納得してもらえて良かったですわ〜」
私は彼女のあまりの転身ぶりに眉をひそめます。
「あの...もる子さん、もっとこう、穏便に...」
「だってさ江戸鮭ちゃん!そんなルール守ってたら卒業しちゃうよ私!だからさ、ぐうの音も出ないくらいに全員ぶっ飛ばせば解決じゃん!選挙で、ね!?」
「いや、あの...そうではなくて...もる子さん、さっきまで怒ってたのにいいんですか...?」
「えー?だって江戸鮭ちゃん。生徒会ごと乗っ取るには五人必要でしょ?いち、に、さん、し、ご。ほらぴったり!」
「そうですけど...そうではなくて...」
「江戸鮭ちゃん!いい!?」
彼女は私の顔にぐいっと近づけて言いました。
「私たちの最終目標はこの学園を変えること!生徒会はぶっ飛ばすけど、それは通過点だから!」
私はその勢いに、小さく首を縦に振ることしか出来ませんでした。
「それではよろしくて!ここに新たに生徒会を目指すメンバーが集まりましてよ!改めて自己紹介といきましょうですわ!」
堂々とした蛍日和さんを除いて拍手が沸き起こりました。
私が意見を言う暇もなく、唐突な自己紹介が始まります。
「では、まずはワタクシたち第二軽音部の面々からですわ!まずは部員からですわ!鍍金!」
金髪のツインテールを揺らして鍍金さんが勢いよく立ち上がりました。
「はい!第二軽音部、二年の
再び拍手が沸きます。
続いて持鍍金さんの向こう側で、銀髪のショートカットが揺れました。
「第二軽音部。二年。
些細隣さんが座り切る前、短い拍手の最中に蛍日和さんが立ち上がります。
そして胸を張って自信満々に話し始めました。
「ワタクシが第二軽音部の立役者で部長の
拍手も早々にもる子さんが立ち上がります。
蛍日和さんに負けない勢いと、いつもの満面の笑みが光ります。
「私、
「...ちょっと色々言いたいんで時間もらっていいですか?」
自己紹介を終えた四名は皆一様に「え?」みたいな顔をして私の方を見ました。
「え?」と言いたいのは私の方です。
「江戸鮭さん。どうしたんですの?」
「あのですね...」
「江戸鮭ちゃん!恥ずかしがらずに!」
「いえ、もる子さんそうでなくて...」
「鮭ちゃんさんっ!大丈夫ですよっ!」
「持さんも、ちがくて、」
「鮭。」
「聞いて下さい...!」
私は声を大きくしました。
四人は物珍しいと言ったように私に注目しました。
「...一個ずつ聞きます。いいですか...?」
「いいですわよ」
ツッコミたいところも聞きたいことも山程、ひとりひとり聞いても良いのですが、取り敢えず一番マトモそうな鍍金さんに代表して聞くことにしました。
「じゃあまず持さんに聞きたいんですけど...」
「駄目ですっ!蛍先輩はあげないですよっ!私のものだからっ!絶対だめですっ!」
「まだ何も言ってないんですが...」
「鍍金、必死でキモいですわ。黙って聞けですわ」
「蛍先輩の言うことなら何でも聞きますっ!靴でも靴下でも足でも舐めますっ!」
「マジでキモいから黙れですわ」
鍍金さんが蛍日和さんの前に跪くのを辞めるのを待って、私はもう一度話し始めました。
「...あー。いいですか。
「いいですよ」
「あの、最後に言ってた能力...ってなんですかね?」
「え?
「ぼ、何...?洗剤...ですか?」
「え?いやだな〜鮭ちゃんさん、あははっ」
「あはは...え、じゃあ...あの、特技はあの」
「防御関係ですっ」
「あ、はい」
真剣な瞳でこちらを見つめる持鍍金さんに、なんかもう話が通じないと思った私は次にマトモそうな些細隣さんに聞くことにしました。
「えと、些細隣さん」
「なに」
「あの能力ってのは何なんですか...?」
「秘密」
「いや、そういう意味じゃなくって...どういう意味なのか...」
「秘密」
「ですから、能力自体の意味を...」
「秘密だって言ってんだろこのタコ。しつけえんだよ」
「えぇ...」
無口だった些細隣さんが表情はそのまま冷静に、口汚くなったことに動揺を隠せません。
「ゴスロリさん。些細はちょっと人見知りでしてよ〜。初対面の方とお話するのは苦手なので許してくださいまし」
「うっせえぞフラミンゴ。ぶっ飛ばすぞ」
「ね?ですわ。そういうとこも可愛いですわよね」
「黙れよカス。飯にドッグフード食わして発色よくしてやろうか」
何が「ね?」なのかは全くわかりません。
可愛い要素も全くわかりません。
ですが取り敢えず最後にマトモそうな蛍日和さんに聞くことにしました。
「蛍日和さん...」
「なんですの?」
「あの、」
「ワタクシたち第二軽音部は皆一様に楽器は弾けませんわよ!軽音部にかこつけて放課後を貪っているだけでしてよ!」
「そこ、うん、まあそこも聞きたかったですけど、そうじゃなくて...」
「あら、特技の方でして?ワタクシなぜだか無性に勝負事に惹かれますの〜。ナゼでしょうね?昔はそんなことなかったのにですわ〜。鍍金もぜーんぜんそんなことなかったですものね!些細は昔はから血気盛んでしたけど」
「黙れよフラミンゴ」
「......」
「あ、もしかしてキャラクター性でして?ワタクシは部長兼ちょっと頼れるお姉さんで売ってますわ!些細はクールで無口な冷静キャラ!鍍金は素直になれないツンツンな後輩でしてよ!やっぱり見た目にそぐわないキャラクターはいけませんからね!それ相応のキャラクターを」
「だからー!違いますぅ!!」
大声を上げた私に四人は目を丸くしました。
私からこんな大きな声が出るとは思わなかったのでしょう。
私自身もびっくりしています。
ですが怯まずに勢い任せで単語を紡ぎます。
「色々言いたいです...!ききたいです、けど!違うんです!楽器弾けないのとか、もる子さんがピッコロ吹けるとか!なんで全員そんなに戦闘狂なのとか...!鍍金さんも些細さんもなんかキャラ違うとか!蛍日和さんが生徒会目指してるのに三年生だとか...!ききたいです、けど!もっと聞きたいことがあるんです...!の、能力!当たり前のように言ってますけど!能力ってなんですか能力って...!!」
肩で息をしながら私は言い切りました。
顔もとっても熱くなっています。
ですがそんな私とは打って変わって、四人はポカンとしていました。
「ゴスロリさん」
私を落ち着かせるように、蛍日和さんが優しく言いました。
その声に少しばかり冷えた頭で考えを巡らせます。
もしかしたら彼女たちも勢い任せで色々と話してしまったのではないかと。
新たに生徒会へ入るという目標を前に、きっとテンションが上って変なことを話しまったのではないかと。
私は我に返り、もっと顔を赤くしました。
「あ...あ、す、すみません!私、あの、こういう冗談というか、あの慣れてなくて...!えと」
しどろもどろな私の肩に蛍日和さんがポンと手を置きました。
「ゴスロリさん。大丈夫ですわ。落ち着いて」
「ほ、蛍日和さん...」
彼女の穏やかな瞳に私は少しばかり安堵しました。
「転校生ですものね!イチから全部、ちゃんと説明しますわ!」
「え?」
「鍍金!説明してですわ!」
「はい!蛍先輩っ!」
「え?」
呆気にとられ私を無視して持鍍金さんは話し始めます。
「まず私たち第二軽音部は楽器は弾けません!蛍先輩が言ったように、部活動にかこつけてダラダラしている感じのきらら系を目指しています!物質さんがピッコロを吹けるのはお爺さんの趣味に影響されたからですねっ!私たちのキャラが違うってのはちょっと理解しかねますが...。あとは、能力ですね。能力というのはテレビや漫画の登場人物としてきらら系に一歩及ばない私たちのような未熟者が個性を引き立てるために身に着けた特殊技能の総称ですっ!お目々がキラッとしたら発動の合図ですねっ!私の能力は花盛といってキラキラ〜っとしたエフェクトを宙に浮かべたり、お花の幻想を出したりする能力です!お花は物理的に触れますし、ちょっとした事故くらいならへっちゃら、物理的なものならなんでもガードできちゃうんです!これできらら系アニメに出演してる人たちを怪我から守ったりするわけですねっ!」
「あ、あの持さん...」
「あ、汎用能力って言ったのは、この花盛って能力はきらら系では結構一般的でしてっ、最近の作品にはモブキャラ役として一人くらいは絶対この能力者がいるんですよ〜。だからバイトで呼ばれたりとかもあるんですっ!」
「いや、そうじゃなくて...」
「で、私のこの能力にはですねっ、段階ってものがありましてね。全部で五段階っ!まあ五段階目の人なんて見たことないですけれど...。でも、私はそのうちの三段階目!通称、
「...。」
「もちろんさっき戦ったときに散ってたのも花盛の能力ですっ!それと蛍先輩にも
「おい
「まあまあ東北ちゃんっ。名前だけなら大丈夫ですって。それに技名言ったほうがカッコいいですしっ!もしも生徒会の人たちと戦うときにいきなり『易読仮名』!って叫んじゃったら皆びっくりしちゃうかなってっ」
「まず叫ばねえし」
「些細。恥ずかしがってはいけませんわ。作品に出演したいなら技の一個や二個叫べないときらら系にはなれませんんでしてよ」
「うっせーよピンクモーモン。だったらお前も叫べ」
「ワタクシのは使い所がありましてよ〜。安々と使えませんわ〜」
「さっき使おうとしただろバカ」
私はもう、ついていけませんでした。
ボールドとかいう洗剤の名前だけでもいっぱいいっぱいだったのに、なんとかイロハ。
それにまず、さも当然といったように異質な力を宿しているという事実。
確かに先程の一悶着の中でキラキラしたエフェクトや宙を浮かぶお花を目にしていましたから、納得できないことはないのですが、もしも今日説明されたこと全てが学期末のテストで出題されると言われたら、即座に諦めることでしょう。
しかも全員何かしらの戦闘特化と来ていますから、私は本当に国内有数のきらら系学園に転校してきたのかと疑いたくなりました。
「質問!」
第二軽音部の方々の妄想なのか、私の今までの人生観が間違っていたのか何なのかわからないお話に一人ブルーになっていたところ、もる子さんが声を上げました。
「いっぱいあって分かんないよ!」と私の心を察したように代弁してくれればと思いましたが、そうはうまくいきませんでした。
「その能力ってさ。私にもあるの?」
「物質さんにですの?うーん...先程の感じですとあるようには見えませんでしたが...」
「そっか〜...。じゃあどうやって身につけるの!私もカッコいいのやりたい!」
「そうですわねー...努力でどうにかというお話ではないのですわ物質さん。これは学園で生活しているうちにいつの間にか身についているものでしてよ」
「ふ〜ん。じゃあ待つしかないね!生徒会と戦うときまでに身につけばいいな〜。あ、あともういっこ!」
「なんでして?」
「能力ってみんな一緒なの?持鍍金ちゃんは汎用って言ってたけど、些細隣ちゃんのもおんなじ能力があるの?」
「ないとはいい切れませんが、汎用能力というのは結構思ったより数がいるんですわ。ひとクラスの殆どは汎用でしてよ」
「そうなの!?」
「ええ。鍍金の花盛が最も多いですわ。それから撮影時の天候変化担当の『
「へ〜。でもせっかくなら個別のがいいな〜。江戸鮭ちゃんも何かそういうのあるの?ホントは隠してたりして!」
「いや、あるわけないじゃないですか...。さっきも言いましたけど、そういう概念にはじめて触れましたよ...」
「だよね〜。でも身についたら面白そう!もっと色々見てみたいよね!」
「よし。なら見せてやろう」
「...え?」
もる子さんでも、第二軽音部の方々でもない声に私は後を振り向きました。
するとそこには仁王立ちでこちらを見下している、
「こんどこそ私の力を直々に貴様に見せつけてやろう」
風紀委員会副委員長の
「え〜、また来たの七並べちゃん」
「質候だ!」
「もういいよ〜。ほぼ毎日毎日あってるし〜」
「それは貴様らが風紀を乱しているからだ!私だって貴様と毎日毎日毎日毎日、面を合わせるのはごめんだ!だが今日こそはそのゴスロリを正してやる!」
「今放課後だよ〜。今日はもういいじゃ〜ん」
「駄目だ!制服姿で登校すると約束するまで私は追い続ける!それにだ。いくら放課後とは言え学園近隣のスーパーの駐車場で青春を浪費する貴様らのその行動も罪だ!」
「え〜。でもこれが私の楽しみだし」
「場所も行動もきらら系の風上にもおけん!もっとおしゃれなカフェにいけ!」
「好きなものは好きなんだから良いじゃん!食べなよ焼き鳥!」
もる子さんと質候さんが堂々巡りの論争をしている中、仰け反りながらズリズリと引き下がった私のもとに蛍日和さんがやってきました。
「ゴスロリさん。風紀委員に目をつけられてるとは聞いてましたけど、いつもこんなことしていまして?」
「え...ええ。毎日...」
「そうですのね〜。まあ
「にに...?」
「あのコの呼び名ですわ。
「...でもそれにしてはきらら系というか、なんというか...」
「ですわよねえ。ちょっと周囲に理想を押し付けすぎて自分自身がかけ離れすぎておりますわ。もっとワタクシみたいにユルユルふわふわすればいいのにですわ!」
「...、...そうですね」
「ああ!まどろっこしい!」
蛍日和さんとの会話が一段落したところで、言い合っている二人の意見は予想通りに決別したようでした。
「貴様、今日という今日こそは地面に這いつくばらせてやる!かかってくるがいい!」
「七並べちゃん。きらら系は這いつくばらせるとか言わないよ」
「そうですわよ
「煩い!それに蛍日和!貴様!第二軽音部ともあろうものがこんなところで何をしている!」
「ふふふ、ワタクシたちは物質さんと協力することにしたんですわ!これからはワタクシたちもきらら系アウトロー、アウトロー系きらら?どっちでも良いですわ!とにかく、アナタがたの敵でしてよ!」
「何バカなことを言っている!」
「バカなことではありませんでしてよ!ワタクシたちの目的は元々、天下を取ることでしてよ!利用...目的が合致していれば何でもしますわ!おほほ!」
「ふざけたことを言うな!」
利用と言いかけた事は気になりましたが、それどころではありません。
蛍日和さんの高笑いに堪忍袋の緒が切れたか、質候さんは文字通りのツッコミを入れながら、眼前に映えるピンク色へと文字通り一直線に突っ込みます。
いつものように全くきらら系とは思えない戦闘の開幕です。
そしていつの間にか質候さんの右手には竹刀が握られていました。
しかしながら蛍日和さんは動きません。
まさにツッコミを入れるかのように蛍日和さんの頭部に竹刀が振り下ろされました。
私は目をつぶりました。
シタンと鋭い音が駐車場に響きます。
私は痛みが自分を襲ったように歯を食いしばりながらゆっくりと目を開きました。
「きかない」
そこには蛍日和さんの頭スレスレで竹刀を受け止める些細隣さんの姿がありました。
「第二軽音部二年の
「わたし、」
些細隣さんが言い終える間もなく、次の一手が彼女の脇腹を襲います。
ですがそれも難なく受け止めます。
「些細隣。貴様に三文字以上話しをさせるわけにはいかないな。私は生徒会下部組織の風紀委員だぞ?お前たちの能力を知らないわけがない」
「...。」
「貴様の能力は『四文字で口にされた言葉を自分に付与する』だ。貴様が有効な四文字を話す間もなく、私が勝利すればいいだけだ」
「そうだね」
「ふはは!それが貴様の最後の言葉だ!」
質候さんは言葉通りに、些細隣さんが言葉を発する暇もないような連撃を浴びせます。
些細隣さんが何かを言おうとしても、それを遮るようにして質候さんは「無駄だぞ!」なんて叫んでいます。
突きからの流れるような薙ぎ払い、頭部を狙った一撃、時には蛍日和さんを狙うような素振りも見せて、言葉を紡げない些細隣さんは防戦一方でした。
ですが蛍日和さんどころか、持鍍金さんも加勢するような様子は見せません。
私は呑気に座っている持鍍金さんへと駆け寄ります。
「て...
「なにがですか?」
この光景を目にしながらも彼女はのほほんとしていました。
「なにがですか...って、些細さん、些細さんあれ!あれですよあれ!」
「ああ、大丈夫ですよ。というか加勢は禁物ですっ」
「え、ええ...」
「いいですか鮭さん。きらら系の競い合いにおいては一対一が原則ですっ。今もし
「...いやでも」
「それに東北ちゃんだって中々強いんですよ。レアキャラなんですよ力比べが得意なきらら系って。だから安心してくださいっ!」
「いや、そうじゃなくて...」
「?なんです」
「えと...もる子さんと戦ったときは三対一だった気がするんですけど...」
「......私はガードしか張ってませんから。それにほら、あれはギリギリ一対一の三連戦なんで」
「えぇ...」
べちん
私が二人の戦いに背を向けていると、鈍い音が聞こえました。
音の正体は勿論、質候さんの竹刀の音。
そしてそれが些細隣さんの頭に直撃した音でした。
叩かれた彼女は頭を押さえながら、崩れるように地面に膝をつきました。
質候さんは切っ先を些細隣さんの目の前に突き立てて高笑いをします。
「ははは!見たか些細隣!これで一本だぞ!」
些細隣さんは痛みに耐えながら、質候さんを睨みつけるように見上げます。
そして、
「ごめんなさい」
と、ちいさく頭を下げて質候さんに謝罪をしました。
「わかれば良い!さて次は部長こと蛍日和!貴様の番だ」
「あらら、些細、頭痛くないですの?」
「持のガードあったから。だいじょうぶ」
「よしよしですわ〜」
「聞け!阿呆ども!」
蛍日和さんは些細隣さんを撫でる手を止めると質候さんに体を向けました。
私からは表情は見えませんが、彼女の背中からはどこか決意をまとったような雰囲気が漂っていました。
ですがそれどころではないくらい、私の真横から鬼気迫るといったレベルを超えた怨嗟が渦巻いています。
「東北ちゃんだけズルい、撫でられてズルいっ!花盛切っとけばよかった...」
隣でガジガジ指先を齧るツインテールは置いておきまして、今は蛍日和さん。
彼女がどう仕掛けるのかに注目です。
「部員が一本取られてしまっては、私が出るしかありませんわね」
「はっはっは!やってみろ蛍日和。お前の能力だってこちらはわかっているんだぞ」
「そうですのね。じゃあ、遠慮なく...やらせていただきますわ」
蛍日和さんがスカートのポケットから小さなホワイトボードを取り出します。
同時に質候さんが間合いを詰めます。
そして些細隣さんが、持鍍金さんが叫びます。
「「「だめ!」」ずぅわ!」
蛍日和さんが後方へすっ飛びます。
いえ、蛍日和さんがというよりは、すっ飛んできた質候さんに巻き込まれて。
二人はしばし宙に浮いてから、団子になってアスファルトで身を削りました。
質候さんも蛍日和さんもピクリとも動きません。
「長い!!!」
そう叫んだのはもる子さん。
勿論質候さんを吹き飛ばしたのも彼女でした。
自分にかかってくると思った質候さんが先に蛍日和さんを襲い、それを守った些細隣さんと戦って、自分だけ置いてけぼりにされたもる子さんは業を煮やしに煮やし、イライラを発散するかのごとく質候さんの背後から強烈な一撃を加えたようでした。
ドン引きする私を余所目に、既に質候さんから興味を失ったもる子さんは次なる獲物を求めて焼き鳥屋さんへと駆けていました。
今日もまた風紀委員の目的は果たされないまま放課後は過ぎていくのです。
「おじさん!焼き鳥!もも!十本!」
─────────