「ふ〜!泳いだ泳いだ〜!」
「...もる子さん、水泳得意なんですね」
「運動ならなんでも大好き!江戸鮭ちゃんは泳がないの?」
「...いやその、あまり得意じゃなくて...」
「じゃあ私がレッスンしてあげよっか!」
「いや、それは...」
「蛍先輩っ!あーんですよっ!あーんっ!」
「鍍金。お弁当持ってきてくれるのはありがたいのですけれど、重箱八段はどうかと思いますわ」
「腕によりをかけましたっ!さ、食べて食べてっ!今日はもるちゃんさんと、鮭ちゃんさんも食べると思って異物は混入させてませんからっ!」
「それはありがたいですけれども、炎天下のお弁当に生モノはマジで怖いですわ」
「パイセン。コンビニおにぎり。あげる」
「
「ぐぬぬぬぬぬ...、
「怒らないでくださいまし。大丈夫そうなやつならもらいますから」
「ホントですかっ!?じゃあ卵焼きなんてどうですか!?」
「別のタッパーに分けて入れてるのがクソほど怖いですわよ
「そんなこと無いですよ!何も入れてませんっ!」
「わー!
「あ、もるちゃんさんは重箱の方のやつ食べてください」
「イカれ女」
「
「もらうね」
そんなこんなでお昼を終えて、暫しの食休み。
満腹になった体を横たえて、お喋りもほどほどに心地よい暑さと潮の香りが私たちを包みます。
「
「なんですか、もるちゃんさん...」
「最高だよ〜...プライベートビーチ...」
「喜んでもらえて何よりですっ...」
「こんな平和が毎日続けばいいね〜...」
「あら、もる子さん。ワタクシたちは今でも十分平和でしてよ〜...」
「そうですよもる子さん...」
「まあ、そうだけどさ〜...」
「なにかあるの。もる子」
「うん〜...。部活も作ったし、生徒会選挙の準備とか...かなって」
「あー、そうですわね〜。江戸鮭さんには頑張ってもらわないとですわ〜...」
「えぇ...私ですか...」
「まあまあ、鮭ちゃんさん。そんなに気張らずに...のんびり行きましょう。選挙だってすぐにあるわけじゃないんですからっ...」
「いや...まあ、はい...」
「あ〜、あとあれも心配かも〜...」
「なんですの〜もる子さん」
「ん〜?終業式の日に言ってたやつ...」
「終業式ですの〜...?なにか課題でもありまして〜?」
「そうじゃなくって〜」
もる子さんがそこまで言ったとき、私は重要なことを思い出して身を起こしました。
「そうだ...!そうですよもる子さん!終業式のやつ!」
「江戸鮭さんまでなんですの〜?」
私は勢いのままに立ち上がり、ぐだりと寝転ぶ全員の前に繰り出しました。
「終業式の日に言われたんです...!夏休み中に刺客を送るって...!」
「刺客ですの〜?」
「あれですか、鮭ちゃんさん。また風紀委員会の質候さんが言ってたあれですかっ?」
「無問題」
私の話に耳を傾けない彼女たちに、私は言葉尻を強めます。
「
「もう、心配し過ぎだよ江戸鮭ちゃん!終業式の日に夜久巴ちゃんが言ってたやつでしょ?『夏休み中には第一軽音部が刺客として表れるよ』ってやつ」
「あら、そうなんですわね〜」
「そうですかっ。夏休みの刺客は、」
「第一軽音部」
「...」
「...」
「...」
「「「は?」」」
第二軽音部の面々が声を合わせて起き上がりました。
「え、江戸鮭さん!?それマジですの?」
「はい、うそじゃありませんよ...」
「えーっと、鮭ちゃんさん?誰から聞いたって言いました?」
「第一軽音部の
「マジ?」
「
すると
「どーしてそんな大事なことを先に言わなかったんですの!?」
「す、すみません...」
「
「そうですよっ!?鮭ちゃんさんっ!葵瀞さんといえば学内でも有数のきらら系女子なんですよ!?それに確実にトップクラスのきらら系部活、第一軽音部の副部長ですよ!?」
「そうですわ!トップクラスの部活動はいくつかありますけれども、自由気まますぎて登校さえしないキャンプ部や学園のシステムの一部として組み込まれた第一美術部と双璧を成す存在ですわよ!?」
「そ、そんなに...?」
「はい。生徒会役員に次ぐレベルの強キャラですよっ!現生徒会メンバーを除けば
「ファンクラブ...」
「あー!もう、せっかく有意義な日でしたのに〜!」
「す、すみません...」
珍しく一致団結して興奮冷めやらぬ第二軽音部の皆さんを尻目に、まだまだごろ寝を辞める気はなさそうなもる子さんが口を挟みます。
「蛍日和ちゃんも、
「もる子さん!わかって言ってまして!?相手は第一軽音部ですわよ!?ワタクシたち第二軽音部と格が違いましてよ!?」
「そんなこと言ったてさ〜蛍日和ちゃん。
「え...もるちゃんさん、なんて?」
「
「...江戸鮭さん。マジですの?」
今度は疑いの顔で、蛍日和さんと持さんが詰め寄ります。
「え、ええ...一応、は...」
「言ったでしょ蛍日和ちゃん。勝ったって」
「も、もる子さんがやったんですの...?」
その質問に、もる子さんはゴロリと姿勢を変えてうつ伏せになりました。
「そうっちゃそうだけど...私だけじゃないよ。江戸鮭ちゃんがいなかったら負けてた。あと臨ヶ浜ちゃんにも勝ったよ!」
「臨ヶ
もる子さんの受け答えに、蛍日和さんと持さんは狼狽えるのと一緒に、喜びが混ざった複雑な顔をしました。
「ど、どうしましょう
「どうしましょうか、蛍先輩っ...」
「勝ったってことは、ワタクシたちが第一...?ですの?いえ、でも勝ったのはもる子さんたちですし...」
「でも蛍先輩っ、私たちは今はきらら部ですしっ...。いやでも勝ちは勝ちですしっ...」
「それはそうなのですが...ど、どうしますの江戸鮭さん?」
「え、私ですか...」
「鮭ちゃんさんっ!どうするんですか!?」
「え、えぇ〜...」
私が答えあぐねていると、些細さんが珍しく自分から声を上げました。
「パイセン、あと
「なんですの些細...?」
「どうするもこうするもない。ウチ等が嫌でも第一軽音部はやってくる。だったら倒してくしかない」
「そうですけれども...」
「弱気になってんじゃねーよピンク。第二軽音部の部長は今でもお前なんだよ。胸張ってろ」
「......そうですわね」
蛍日和さんは些細さんに感謝を述べると、いつもの彼女らしく振る舞いました。
「そうですわ!ワタクシたちは腐っても合併しても第二軽音部ですわ!!第一軽音部がなんぼのもんじゃいでしてよ!副部長の
自信を取り戻した彼女の高笑いが波一緒に響きました。
持さんもその笑いにつられたようで、希望を含んだ瞳で蛍日和さんの周りをぴょんぴょんと飛び回っています。
些細さんは腕を組んで、そんな彼女たちを少し遠くから見ていました。
私もそれを見ていたら、少しばかり勇気をもらえたような気がしました。
でも、問題は決して解決していません。
私ともる子さんだけでは解決できないものはこれからもたくさんあることでしょう。
ですが彼女たち第二軽音部の皆さんがいれば、少しばかり肩の荷が下りるような気がしました。
「聞いてたけどサ〜。雑魚は酷くナ〜い?」
もる子さんでも、蛍日和さんでもない。ましてや
声の出所に目をやると、そこは私達がさっきまで寝転んでいたパラソルの下。
もる子さんの横に頭の後ろに手を組んで、足を組んで、サングラスをかけた女のコが、ひとり。
「臨ヶ
全員の目線が彼女に集まります。
蛍日和さんよりも薄いピンク色の髪。
透き通るかのようなパステルカラーのそれは、まるで柔らかな氷菓の上から桃のシロップを掛けたように、毛先に向かうにつれて色が薄くなっていて、サイドテールの先端は白い絵の具をつけたよう。
所々に入った銀色のメッシュは、派手と言わざるをえません。
髪色と同じカラーの水着にも派手さが垣間見えます。
白々とした肢体はきっとあまり日に照らされることがないことの裏返し。
右耳にかかるピアスには、キーボードの装飾がされていました。
太陽よりも強い光が宿った瞳はサングラス越しでも煌々としています。
そんな彼女の出で立ちはきっと自信の表れなのでしょう。
「第一軽音部だったら、この