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ep60:ザイル中将

 突如、窓の外が昼間のように明るくなった。


「な、なんだ、この光と音は!!」


 強い光とともに、簡易ハウスを震わせるほどの重低音が響く。玄関へと走るレクトを追い、私たちも外へ出た。


 上空で待っていたのは、燦々と輝く一隻のヴァルザーク艦だった。


「ほほう……ドレイクの言った通りだな。こんなところに隠れていたのか。全員揃っているとは都合が良い」


 ザイル中将の声だ。ロウゲンの時とは違い、ヴェルミラの言葉で話している。地球への宣戦布告など不要という意味なのだろう。


「や、やっぱり裏切ったのか……? エリオンさんは……」


「ま、まさか……僕はまだ、信じたくありません……」


 アレンとリオは、震える声でそう言った。ミレルは祈るような目で、ヴァルザーク艦を見上げている。


「そこに、エリオ……ドレイク大佐はいないのか!?」


 アレンが夜空に向かって大声で叫ぶ。


「フンッ……一兵卒ごときが偉そうに。ドレイクは三号艦に乗っている。しばらくで、二号艦とともに世界各地を爆撃し始める予定でな。——それにしてもまさか、こんな僻地でエルシア人と一戦交えることになるとはな。ハハハ、私たちの腐れ縁は相当なものだ」


「私たちをここまで追い込むのは何故だ!? その船が三隻もあれば、地球征服なんて容易たやすいだろう!!」


「ああ……お前がイレイズを使う女か。私はエルシア人が何より嫌いでな。全世界を灰に出来たとしても、お前たちがどこかで生き残っていると思うと、気持ち悪くて仕方がないんだよ。ここで持久戦に持ち込めば、お前たちに勝ち目はない。降伏なんてさせるつもりはないぞ? 死体になるまでじっと見届けてやる」


 こんな男が時期、最高司令官候補……? ヴァルムートの人間は、ここまでエルシア人を憎んでいたのか……


「……私にひとつ、考えがある」


 ミレルは声を潜めて、そう言った。


「な……なんです? 先生」


「私がアブソルヴェールを張りながら、ゼルクに乗る。一緒に乗るのは操縦がかりのアレンと、イレイズを撃つためのサリアだ。レクトは、リオと二人で入れるシェルターをジェネヴィオンで生成するんだ。とびきり頑丈なやつをな。私たちが攻撃をしている間、そこでじっと耐えて欲しい。――どうだレクト、やれそうか?」


「あ、当たり前だ……もう、それしか残ってないんだろ?」


「良い返事だ。では、10秒後にスタートするよ。10、9、8――」


 ミレルが8まで数えたところで、ヴァルザーク艦内が騒がしくなった。


「ザ、ザイル中将! 二号艦からSOS発信です!! あっ、二号艦消滅しました!! 原因は不明っ!!」


「なっ、なにっ!? どういうことだ!!」


 ザイルが叫んだ次の瞬間、ヴァルザーク艦の真上に、新たなヴァルザーク艦が突如として姿を現した。

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