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第4話 二週目の日常

「ご飯できたわよ~」

「「は~い。頂きます」」


 生活の全てを修行に捧げる! などと豪語してみたものの、実際問題そんなことは不可能だ。


小学二年生の俺には小学二年生としての生活がある。授業はクソだが(最近は全て魔流の修行に当てている)それ以外は割と悪くないことに気が付いた。


 どうやらこの頃の俺は、登校中から下校中、放課後から夕飯まで、殆どの時間を双葉と共に過ごしていたらしい。


 それもそのはず。


 俺の母親である結城召子と双葉の母は親友同士なのだ。


 どのくらい親友かというと、結婚してそれぞれ家庭を持ったにも関わらず隣同士の家を買ってしまうくらいの仲良しだ。


 一週目ではなんとも思わなかったが、今思うと結構ヤバいな。両旦那側の器量が大きすぎる。


 とまあそんな具合で家が隣同士。

 さらに母親同士が親友。

 そして、父親はどちらも魔法使いで魔物関連の仕事をしていてほとんど家にいないことが重なって、こうして毎日のように夕飯を一緒に食べていたのだ。


 互いの家で夕飯なのだが、双葉の家でご馳走になるときは若干オシャレなメニューが出てくるので、楽しみだったことを憶えている。


「おいしね一果」モギュモギュ

「だな」モギュモギュ


 このように、小学校低学年の頃はまるで兄妹のように育てられていた。


「双葉。食べ終わった食器、運んじゃっていいか?」

「うん。お願い」

「あら。一果くんお手伝いできて偉いわねー」

「褒めないでよ~。双葉ちゃんの前だから格好付けてるだけよ」


 母さんうるせー余計なこと言うな!


 とはいえ、この空気感も懐かしい。


 残さないように頑張って食べている双葉も。それを優しく見守る双葉のお母さんも。バラティを見てぎゃははと笑うお母さんも。


 確か、小学校高学年になるころにはこういった形で集まることは減っていったはずだ。


 誰かが悪いとかそういったものではなく。自然と。そうなっていった。


 だからこそ、遠い昔を懐かしみつつ、今だけのこの瞬間を目に焼き付ける。失うばかりだと思っていた俺の人生にも、こんな穏やかな時があったのだと。


「ごちそうさまー!」

「はい。よく完食できました。偉いわ双葉」

「えへへ~」

「じゃあ二人とも。お風呂入ろうか」

「は~い」

「は?」


 風呂? 二人とも? ふぁ?


「え、俺も?」


「そうよ。今日はおばさんが一緒に入るからね」


「じゃあ行こ、一果」

「いやいやいや」


 思い出した。確かこの頃はまだ、俺と双葉は一緒に風呂に入っていたんだった。

 俺のお母さんか双葉のお母さん、どっちかが交代で俺たちを同時に風呂に入れてくれていた。


 それはとても懐かしいのだが、一緒に入るのはふつうにまずい。


 いくら好きだった子とは言っても、今さら8歳の女児の体に性的興奮は抱かない。中身は18歳だからな。

 でも双葉のお母さんは……まだ30歳かそこそこだったはずだ。


 一週目8歳だった時の俺からすればふつうにおばさんって感覚だったが、一度18歳を経由した俺からすると、普通に女性として意識してしまう。


うちの母親と違って双葉のお母さんは見た目はメッチャ若いし、美人だしグラマラスだし。


「俺はちょっと……一人で入りたいっていうか」

「え? どうしたの急に。一昨日まで一緒に入ってたじゃない」

「そ、そうだっけ……」

「そうだよ!」

「一果くん……もしかしてクラスの男子に何か言われたの?」

「違うけど……」

「じゃあ、もしかして私のこと嫌いになった?」


 ぶわっと涙目になる双葉。ああそんな顔されると辛い。


「う、嘘だよ嘘。一緒に入ろう」

「うん! ほら行こう! 新しいバスボム買ったんだ! サメが出てくるヤツ!」

「へ、へぇ……楽しみだな!」


 双葉、そして双葉母に連れられ脱衣所に入る。


 れれれれ冷静になれ。大丈夫だ。ようは二人の裸を見なければいいんだ。

 大丈夫。俺は大丈夫だぜ。大人の余裕で腰にタオルを巻くぜ。


「タオルを巻くのはルール違反よ。忘れたの?」


 タオルを取り上げられてしまい、まだ完全体とはほど遠い幼年期のソレを晒すことになってしまった。

 恥ずかしい。


 俺はまだ服を脱いでいる二人より先に浴室に入り、シャワーで全身のよごれを落とし、速攻で湯船に浸かる。もしもの時に備えて、念のためだ。



「あれ~一果。もうお湯に入ってる!」

「あらあら本当。ちょっと寒かった」

「お……っき」


 お気になさらず。そう言おうと思ったのだが、目の前の光景に言葉を失った。


 美女と美少女が二人、生まれたままの姿でいるこの光景に、俺は思わず目を奪われた。

 特に双葉のお母さん。すごく……大きいです。


「どうしたの一果?」

「顔が真っ赤よ? 風邪かしら?」

「ふんぬ!!」

「「一果!?」」


 俺は咄嗟にシャンプーボトルを手に取ると、自分の眼球に向かって発射した。

 シャンプーをブチ込んだことで激痛が走り、目を開けていることが困難になる


「きゃああ!? いきなり何するの一果!?」

「それじゃあ目が見えないわよ」


「新しい修行!」

「何言ってるの? 目のダメージが頭にいっちゃったのかな?」

「あらあら。それじゃあ自分で体を洗えないんじゃない? 大丈夫? おばさんが洗ってあげようか?」

「いや、心配無用!」


 俺は精神を統一し、魔流を使う。双葉はキョトンとしたが、双葉のお母さんは俺が魔力を操作していることに気が付いたようだ。


「驚いた。一果くん、もう魔流フローを完璧に使えるのね?」

「何? 何? ふろー?」

「そう。10歳になってからでいいと思っていたけれど。双葉にも教えてあげようかしら」

「魔流だけじゃないですよ。魔視ビジョンも使えます」

「なるほど。じゃあお手並み拝見と行こうかしら?」


 うふふと笑いながら「なんのことなんのこと?」と騒ぐ双葉を制する双葉母。


 どうやら試されいるな。ここはひとつ、かっこいいところを見せてみよう。



 魔視ビジョンは魔流の応用技術だ。自分の魔力を一定の周波で周りに解き放つ。そうすることで、周囲の状況を把握することができる。


 例えば建物の構造だったり、その中に居る人や魔物、さらには置いてある物の形までも正確に把握することができる。さながら3Dスキャンするような感じだ。


 魔法使いとしての才能は並だった俺だが、この魔視を極めまくったことで、戦闘を優位に進めることができた得意の技術である。


「――はっ!」


 体内に留めていた魔力を小さな波のように、風呂場をスキャンするようにゆっくり放つ。

 俺の魔力が触れ、感じ取った情報が、脳内に流れ込んでくる。


 風呂場の壁の形、材質、触感。さらには置いてあるイスや容器。張ってある湯船のお湯の揺れ。そして、そこにいる人間の姿形……姿形……すが……かたち……あ。


「一果!? どうしたの一果!?」

「一果くん!?」


 図らずも俺は……美少女と美女の……一糸まとわぬ肉体の情報を……感じ取ってしまった。


 白く透き通った肌。若くツヤハリのある肌。丸みを帯びた未成熟な四肢。純真な肉体。

 時が経っても失われないきめ細やかな肌。実るような胸部と尻。熟練の肉体。


 その情報が高精度で脳内に流れ込む。


「殺してくれ……」


 とんでもない罪悪感から、俺はそう呟くと意識を失った。


「えええ!? 一果が!? 一果が鼻血出して倒れちゃったよ!?」

「あらあら。若いっていいわね」


 その後、俺は自宅のソファーで目を覚ました。

 そしてニヤニヤした母親から「エロ息子」と罵られるのだった。




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