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第49話 上層の再会

 感染獣を兵器として使った戦争。


 そもそもの原因がジェノの父親であるソラの開発した技術だと聞いたジェノは今は上層の一室に軟禁されていた。


 世界の荒廃した原因、上層で行われていた研究、秘密裏に処刑された父親の存在。全ての情報がジェノの中では渦巻いていて、とても自分一人では飲み込めそうも無い。


 相変わらずスカディの真意はわからずじまいのまま、どうすれば現状がより良くなるかの糸口さえ見つからない。まさに八方塞がりの状態だ。


(親父はどうして感染獣を使って……)


 ジェノの穿いているズボンのポケットには、父親から受け継いだ世界地図が今も入っている。いつかは世界にと言っていた父親は、地球の今の有り様を知っていたのだろうか?


 ジェノには父親の思いを聞くことも叶わない。


 だが一つだけわかっていることがある。それは、このまま手をこまねいていれば、黒岩城が何処かの街と資源を求めての戦争状態に入ると言うことだ。


 ロストテクノロジーを使ったかつての武器や、現在開発された戦争の為に調教された感染獣。感染獣由来の異形の力は、おそらく大いに活用されるだろう。


 戦争に勝利すれば、いくらか黒岩城での生活は楽になるかもしれない。だが、その戦争の結果が形の変わってしまった地球だと思えば、やはり戦争は避けなければいけないと思ってしまう。


(それにスカディは……)


 淡々と無表情で世界の有り様を語っていたスカディの姿を思い出す。

 彼女はいつもと調子を変えること無く、感染獣を使って戦争を行う事を愚かな行いだと言っていた。


 真意こそわからないが、スカディはこの戦争に対して、何かしら思うところがあるのだろう。その上で、ソラの息子としてのジェノを守ることにも、彼女は権力を使っているようにも見えた。


(この扉さえ蹴破れば……)


 固く閉ざされたままの扉を見て、ジェノは黙考する。


 もう一度スカディと話をすることができれば、この戦争に対するスカディの思いを聞くことができるかもしれない。


 だが、扉を開けて進むことはジェノにとっては今与えられている安全を捨てるという事に繋がっていた。




 一方でスカディはジェノを軟禁した上で、憲兵団の指揮を執っていた。


 何人もの憲兵がそれぞれ武器を携帯して足早に移動をしている。今回戦争状態に入る対象の街は緑園街。


 今までは対等な交易をしていたシェルターに守られていた土地を、今回の戦争で完全に掌握することが目的であり、そもそも前回スカディが緑園街を訪れたのは、対等な交易関係を利用して、緑園街の現在の警備力や自衛力を測ることが目的だった。


「敵の戦力は大したことはない。感染獣を使えば、数時間で街を陥落することができるだろう」


 上層の楽観的な戦力の比較。


 だがスカディもその戦力差を実感している。可能性として、感染獣由来の異形の力を緑園街に暮らしている人々の中にも流れている可能性は否定できない。


 だがスカディの指揮する憲兵団の持つ異形の力を持った兵士達や、支配下にある感染獣の同時攻撃にいつまでも耐えきれるだけの力は無いだろう。


 後に残されているのは、一方的な制圧と蹂躙であり、緑園街が黒岩城の支配下に置かれることは、誰の目から見ても明らかだった。


(残った人間同士で、終わった世界で争うとは……)


 一軍人であるスカディに上層に意見を言う権利は無い。それでも彼女が思うのは彼女が敬愛していた博士の子の安全だけ。


 表情一つ帰ること無く、彼女は憲兵団に指示を下す。


「都市間列車に感染獣を乗せろ」


 感染獣入りの溶液に満たされたカプセルが都市間列車に積み込まれていく。そして異形の力を持った兵士が同じように列車に乗り込んでいく。


 あと半日もすれば、戦線の火蓋は切って落とされる。


 その中でスカディは剣を腰に、今から始まる戦争に思いを馳せていた。



 ………………。



 上層に辿り着いたアミーナは、姿を消しながら上層を進んでいた。


 だが上層には殆ど憲兵の姿は残っていない。上層に上がるための昇降機にこそ警備は残っていたが、それ以外の警備の姿は殆どおらず、上層は不気味な程に静まりかえっている。


 その気になれば、現在上層が独占してる物資などをいくらでも持ち出せそうな程に、上層の警備は手薄になっていた。


(っといけねぇ……。さっさとジェノを探さないと……)


 ホシマチを片手にジェノのホシマチが何処にあるのかを探る。そしてアミーナが辿り着いたのは、上層に建てられた幾つかの部屋の中でも、特に厳重に守られている部屋。


 扉の入り口には警備の兵士が立っていたが、装備は肩に掛けている火縄銃のみ。この程度ならどうにでもなる……、そう思ってアミーナが強行突破のために異形の力を解放しようとする。


 だが、アミーナが何かをするよりも早く、憲兵が突然現われた何かに足を払われたかと思った瞬間、空中から現われた瓦礫が降り注ぎ、悲鳴を上げていた。


「ジェノ!」


 その光景に何が起こったのかを瞬時に理解したアミーナが彼の名前を呼ぶ。すると、彼女の目の前で光学迷彩のマントが脱げて、そこからは瓦礫を取り出したジェノが気絶してしまった憲兵を見下ろしていた。


「アミーナ? なんでここに?」

「バカ野郎! お前を連れ戻しに来たんだ!」


 再開するなりアミーナがジェノの胸ぐらを掴む。そして彼女はジェノを眼前に言ったのだ。


「もう二度と、アタシに黙ってどこかに行こうと思うな! わかったな」


 その言葉に目を丸くするジェノ。対するアミーナは自分が何を口走っているのかを、ちゃんと理解はしていないようだった。

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