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第12話 入試④


入試の第三項目は魔法による攻撃力の測定だ。

広大な部屋には、銀白色に輝き、淡い白光を放つテスト用のダミーが設置されていた。

ダミーは上級強化魔法で補強された白鋼で作られており、禁呪級に満たないあらゆる攻撃魔法に耐えることができ、破壊力に応じてダミーの色が変化するため、その威力を評価できる仕様となっている。


列を作って新入生たちが、破壊力テストを順番待ちに並ぶ。

その中に、腰まで届く黒髪と赤い宝石のように輝く双眸を持つ冷たい雰囲気の少女がいた。彼女は敵意をむき出しにした目でジュリアの後ろに立った。


「割り込みするなんて……」

ジュリアの後ろに並んでいた新入生が不満げに言った。


黒髪の少女は冷ややかな視線を送り、その目に妖しく赤い光を一瞬宿した。すると、先ほどまで抗議していた新入生はまるで麻痺したかのように口を閉ざし、それ以上何も言えなくなった。


まるで<金縛り>をかけられたように、大人しくその場に立ち尽くした。


「あなたが、精霊の親和度テストで9.6を取ったジュリアね?」


黒髪の少女の予期せぬ敵意に、天真爛漫なジュリアは困惑した表情を浮かべた。そして、彼女は前に立つルーカスの腕を引っ張り、口を尖らせながら言った。

「お兄ちゃん、このお姉ちゃん、怖い……」


その言葉を聞いたルーカスは、瞬時に眉をひそめた。

(俺ですらジュリアに怒ったことがないのに、赤の他人を許すわけもない)


「お前は誰だ?」


冷たい眼差しを向けるルーカスに、黒髪の少女は鼻で笑いながら応えた。

誇らしげに顎を上げ、その白く細い首筋を見せながら言った。


「私はミランダ・エヴァ」


「ミランダ公爵の孫娘よ。あなたこそ、何者?」


「ミランダ」という姓を聞いて、ルーカスは一瞬戸惑った。ダクト城においてこの姓を持つのは北の三大貴族の一つであるミランダ家だけだ。

そこは、ルーカスの母方の家系でもあった。現当主であるミランダ公爵——ミランダ・ソールは、血筋上ルーカスとジュリアの実の祖父にあたる。


突然明かされた少女の正体に驚いたルーカスだったが、すぐにその口元には茶化すような笑みが浮かんだ。

「エヴァ、お前、何歳だ?」

「12歳よ」

「月は?」

「12月よ……」エヴァは不機嫌そうに眉をひそめた。


「俺が誰か知りたいんだろう?」

ルーカスは淡い笑みを浮かべたまま言った。


「ミランダ・セイン……それがお前の父親だろ」


「どうして知っているの?」

エヴァは眉をひそめ、不審そうに尋ねた。


「簡単な話さ。俺のことを兄さんと呼べばいい。それから、ジュリアはお前の妹だ」


エヴァは思わず拳を握りしめた。この少年、無害そうな見た目をよそに、どうにも腹立たしい。

エヴァは自分の紅玉のような瞳に妖しい輝きを宿した。


これは彼女が得意とする精神系魔法、<真紅の魔眼>——生まれつきの才能がなければ使いこなせない、選ばれし者だけが扱える天賦の魔法だ。


(大勢の前で恥をかかせてやるわ。例えば、上着を脱いで踊らせるとか…)


エヴァは自信満々だった。この魔法のおかげで、彼女はさっきも列に割り込むことができたのだ。だが、どんなに魔力を込めても、ルーカスに効いている様子がまったく見られなかった。


ルーカスの笑みがさらに深まる。

「初対面で兄に精神系魔法を使うなんて、それはミランダ家の堂々とした所作らしくないな」


実はルーカスには、武神から授かった加護があった。

そのおかげで、禁呪級を除くほとんどの精神系魔法を無効化できるのだ。


「あなた、くっ……」

すぐに不思議そうにしているジュリアへ鋭い視線を向けた。


「入学試験、総合1位は私のものよ」


その言葉に、ルーカスは彼女がジュリアに敵意を向けた理由を理解した。

試験会場に設置された魔水晶スクリーンには、入学試験のスコアボードが表示されていた。

そこに映る1位の名前はジュリア、そして2位はエヴァだった。その差はわずか0.2…


(なるほどな……まあ、妹ということで甘く見てやるか。母さんにも迷惑がかからないようにしないとな…だけど、ジュリアの1位は譲らないぞ)


(将来俺を守るジュリアには、大魔導士コースを歩んでもらうんだ!)


僅 差 きんさだしな…念のため、あれを使っておくか…)


(それに、俺も兄として一つくらいはテストで一位を取るとしよう…全て0点ってのは、いくらなんでもみっともない)


ルーカスはジュリアの手を握り、懐から一粒の小さな飴玉を取り出して彼女に渡した。

「ジュリア、このアメを食べて」


ジュリアは嬉しそうにアメを口にしたが、すぐに鼻をしかめて言った。

「お兄ちゃん、このアメ…苦い…」


ルーカスは彼女の耳元で優しく囁いた。

「これはただのキャンディじゃないんだ。お兄ちゃんが貴重材料で作った魔法アメなんだ。あとでその良さが分かるさ」


ルーカスを信じて止まない妹は、何とかアメを飲み込んだ。

そうして、ルーカスのテスト順が回ってきた。


計測係が説明する。

「最も破壊力の高い魔法を使って、全力でダミーを攻撃してください。それが攻撃力テストの成績になります」


ルーカスは頷いて答えた後、周囲をざわめかせる質問を投げかけた。

「ですが、魔法が使えません。拳で殴ってもいいですか?」



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