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第20話 学園ライフ①


起床のチャイムがジリリリと鳴り響き、学園の朝が始まる。


早起きに慣れないカイはなんとか体を起こすと不満げに首を振った。


「…るせぇな。夢の途中だったのに」


チャイムが鳴り響く中、カイは顔をしかめ、文句を言いながらだらだらと服を着る。


武道クラスの教室は宿舎のすぐ横にあった。


顔を洗い、新しい制服に身を包んだ生徒たちが時間通りに教室に集まる。


「先生はどこだ?」


「どうして先生がいないんだ?」


「初日の授業は、教師が先に教室に出てるのが学園の伝統なのに、どうなってるんだ?」


20人の生徒たちは次々と席に着き、同じ宿舎の仲間同士が自然と隣り合った。教師の不在を確かめると、あちこちで囁き声が生まれ、やがてそれは小さな波のように広がっていった。


「ルーカス、もしや俺たち、学校に『存在しないクラス』として認識されてるんじゃないか?先生すらいねぇ!」


カイは思わず目を大きく開き、ルーカスに向かって声を上げた。


「教師が教室にいるのが伝統だろ。これはおかしい」


「いるはずだけど…」


ルーカスは半ば呆れたように首を振り、


「武道クラスがあるのに教師がいないはずがないさ。


なのに、どこにも見当たらないとか……


おかしいな



と続けた。



「くそっ、初日だってのにやっちまった」


その頃、学校の廊下では、髪は乱れ、無精ひげが伸び放題のシグルドが、焦った様子で足早に歩いていた。


アルティメア魔法学園武道クラスの初の担任を任された彼だったが、昨夜の深酒が祟り、起床チャイムすら夢の一部と化してしまったらしい。


気がつくと、授業の開始時刻はとうに過ぎ、教師の威厳まで寝床に置き忘れてしまったシグルドはなんとか10分遅れで教室へ滑り込んだ。


バン!と扉が開いた瞬間、そこにいた全員から一斉に少し冷たい視線を向けられる。


「この武道クラスの担任、シグルドだ。今から出席を取るぞ。」


シグルドが堂々と教壇に立つと、カイは呆気に取られ、ルーカスにぼそりと漏らした。


「俺たちの先生って……あれのことか? 


どう見ても物乞いだろ。


いや、むしろ物乞いの方がもう少し身なりに気を使ってるぞ?


すると、次の瞬間、


「ぐわっ!」


カイが突然声を上げ、額を両手で押さえた。


ルーカスの目だけが、その異常な動きを追えていた。只者ではないスピードだった、カイの言葉を聞き逃さず、粉チョークを投げるとは……


投擲一つで武人の才が垣間見えたが、その才能で威厳も保ってほしいところだ。


他の生徒たちはシグルドの動きを見逃していたため、カイが叫んだ理由を不思議に思っていた。


「ここでは、私の許可なしに、喋ることは許さん。


これから点呼を始める。


エレオノーラ…


「はい」


一番前の列の女の子が立ち上がると、シグルドは少し頷き、点呼を続けた。


20人分の確認はたちまち終わり、ルーカスは全員の名前を覚えた。


シグルドは生徒名簿をテーブルに滑らせ、気まぐれに一列目の女の子に指を向けた。


「エレオノーラ、お前がこのクラスのリーダーだ」


「ええーっ、私がですか?」


驚きのあまり、エレオノーラの口がぽかんと開いた。


新入生のクラスごとにリーダーが決められるのは、どのクラスでも共通だったが、リーダーになれるのは、成績トップで実力を持ち合わせた者。その上、学園の決まりでは、開学1週間後に生徒たちの投票で決まるのが伝統だ。


教師が一方的に決めるのは違う気が……と生徒たちは考えていた。


「そうだ、お前がこのクラスをまとめるリーダーだ」


シグルドは生徒の困惑を気に留めずに淡々と頷いた。


「不公平だ!リーダーは投票で決めるべきだろ!」


カイが立ち上がって叫んだ――クラス内で最も高い身分を持ち、実力も最強である自分こそがリーダーのポジションにふさわしいと考えていた。そうでなくても、金さえ積めばクラスリーダーの座くらい簡単に手に入ると考えていた。


金髪の女子生徒をリーダーに指定する教師の予想外の行動に、カイは怒りを覚えて抗議に出た瞬間、


「ぐわぁっ、痛ぇ…!」


カイは座り込んで額を押さえていた。


また粉チョークが当たったのだ。

よく見ると、額の2つの目の上に赤い点があり、まるでドラゴンの角のように少し突き出ていた。


「言ったはずだ。この教室で言葉を発するには、まず私の許しを得よ」


冷たく言い放つと、シグルドは視線をエレオノーラに戻した。


「お前がリーダーだ。みんなと教員室から教科書を運んでこい。


今日の授業はお前が担当だ。カリキュラムをみんなに紹介してやってくれ


そう言い残し、シグルドは両手を背に回し、悠然と教室を後にした。


初日の遅刻に飽き足らず、ついには早退まで極める。

武道の境地を悟り開く模範となる前に、破天荒な教師の新境地を切り拓いて見せたシグルドに、生徒たちは呆れていた。


「うわぁー、あれが俺らの先生かよ…」


額を押さえながら、カイは諦めのような声を上げた。


カイに痛みを与えつつも、怪我をさせることはない粉チョークの投げは見事で、その動きから身のこなしの洗練さが伺えた。


「この人、ほんとに教師なんだよな…?」


と疑問を抱きながらも、ルーカスは遅刻教師の腕前を認めていた。


シグルドは只者ではない——その実力は少なくとも5級、6級に匹敵するはず。


——つまり、これまでに出会った中で最も誇り高き武人だ。



とルーカスは敬意を半ば感じながらも、「多分」と心の中で付け加えた。


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