一通りの説明を終えた担任が教卓に両手を突いた。
「――説明はここまで。じゃあ明日の朝からダンジョンに向かうから、それまでに『パーティー』を組んでくれ。最低二人。最大五人まで」
え?
「今日はもう授業もないので、申請書類を出したあとはパーティーメンバー間の交流をするように。……もし組めなかった場合は余った人同士でパーティーを組んでもらうから、そのつもりでな」
そんな残酷な宣言をする担任だった。なんだこの『二人組作って~』の上位版。そんなの聞いてないんですけど?
いやたぶん授業中に説明はされていたのだと思う。私が聞き逃したか忘れていただけで。
マジかー。二人組かー。誰かいないかな精華学園に来たけど狩人としての成績に興味なくて一緒にダンジョンで昼寝してくれる人。……いるわけないか。
(なんてことだ……)
この学園には友達なんていないし、当然一緒にパーティーを組んでくれる人に心当たりなんてない。ミワでも引っ張ってくる? いやいやさすがに無理か。いくら学生用ジャージを普段着にしているとはいえ。
(しょうがない。ここは余った人とテキトーにパーティーを組むしかないか……)
私がそんな悲壮な覚悟を決めていると、担任が教室から出て行ってしまい――わっ、と。私の隣席・ユリィさんの元へクラスメイトたちが殺到した。
たぶんユリィさんとパーティを組むのを希望しているのだろうね。『自己攻撃力上昇・S』なんて便利すぎるスキルだし。極論すれば自分に攻撃系スキルがなくても何とかなってしまう。
お邪魔しちゃ悪いから私は図書室にでも退避……できない。人混みが人壁になって脱出不可能。これはもう空気になるしかないか……。まぁ私はごくごく平凡な黒髪少女なので目立たないのは得意だ。たぶん。
「ユリィさん! もうパーティメンバーって決まっていますか!?」
「私たち、あと一名空いてまして!」
「うちに入りませんか!」
「いや私たちと!」
「ちょっと! 今私たちが交渉しているのよ!」
「はぁ!? こっちが先に話をしてたんですけど!?」
何がヤバいって、この学園に通っている生徒はそれぞれ戦闘向きのスキルを持っているということだ。そんな人たちがケンカを始めたらどんな惨劇となることか。
これはちょっと無理をして人混みをかき分けてでも距離を取った方が良さそうな。そう判断した私が立ち上がると――誰かが、私の左腕に抱きついてきた。
渦中の人物、ユリィさんだ。
え? なに? もしかして助けを求められた? いやでもあなたSランクスキル持っているんだから自分で何とかしてくださいよ。
自分でも面倒くさそうな顔をしているな~、とは思う。
そんな私に対して、ユリィさんは予想外のことを口にした。
「――ボク、優菜とパーティーを組む!」
「「「「「はぁ?」」」」」
このとき、私とクラスメイトたちの心は一つになったと思う。つまりは、何言ってんだコイツ?
しかも「優菜、私とパーティーを組まない?」ならまだしも「ボク、優菜とパーティーを組む」である。私の意思は関係なし。なんという暴君。これがSランクスキル持ちか……。
私、そして周りの反応が冷たいことを察したのか、どこか慌てた様子でユリィさんが説明というか弁明してくる。
「ボクのスキルは攻撃力が高すぎるからね! 周りにいる人間は最低でも防御スキルを持っていないと! その意味で言えば優菜は適任! だって自己防御力上昇・Bを持っているからね! ボクも存分に力を振るえるというものだよ!」
中々に筋が通った説明。なにせうちの学年で私と同格かそれ以上の自己防御系スキルを持った人はいないはずだからね。
「あぁ……」
「そういう理由があるなら……」
「確かに。周りを気にして思い切り戦えないと危険ですからね……」
理にかなっているおかげか。実戦の危険性を叩き込まれているせいか。あるいはユリィ本人が私を選んだからか。そういうことならと渋々納得するような雰囲気になる。
そんな空気の中で、私は断言した。
「え? 嫌です」
「「「「「はぁあぁあ!?」」」」」
なぜか敵意を向けてくるクラスメイトの皆さん。
「何考えてるのよ!?」
「ユリィさんがパーティーに誘ってくれたのよ!?」
「神経図太いわね!?」
「五体投地して承認しなさいよ!」
「いやいや、五体投地って。それに私はあまり目立ちたくないというか……」
「十分目立ってるわよ!」
「目立ってないと思ってたの!?」
「そんな美少女顔で目立たないのは無理だから!」
「ユリィさんと一、二を争う美少女なのに!」
「近寄りがたい雰囲気だから近づかないだけで!」
「え? え~?」
そうなの? 私って欠席しても誰にも気づかれない系の影薄少女じゃないの?
自分と周りの認識のギャップに首をかしげていると、私の腕に抱きついたままだったユリィさんがウルウルとした瞳で私を見上げてきた。
「優菜……ダメ?」
「ダメです」
と、私が即答で断ると、
「はぁ!? あんた鬼なの!?」
「あんなに可愛らしくお願いされているのに!」
「人の心ってものがないの!?」
「断るならその位置を私に譲りなさい!」
なにこれこわい。
周囲の人間からの圧力というか殺気というか。尋常じゃない勢いに押し負けた私はついつい承諾してしまったのだった。