目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第39話


 アース・ドラゴンを聖剣レヴァンティンで吹き飛ばしてから数日後。


 いくら勇者とはいえ、こっちの世界だと私はただの女子校生。というわけで、政治的やらなんやらの後始末は大人ーズに任せたのだった。


 で。

 ファルさん情報によると、今日この時間にテレビを見ていると後始末の結果が見られるらしい。なので、私の部屋で、ミワと一緒にコタツでテレビと洒落込むことにしたのだった。


 ちなみにアルーはいない。なんかこの数日『うひーんうひーん』嘆いていたのでだいぶ忙しいみたい。そりゃあまぁ絶対安全であるはずの学校ダンジョンに(弱いとはいえ)竜種が出たんだものね。どこから入ってきたのか確かめるため、異世界と繋がるゲートを管理するアルーの部署が忙しいのは必然でしょう。


 ……なので、私がレヴァンティンをぶっ放したせいでは無いと思う。うんうん、そんな気がするけど、気のせい気のせい。


「おっ」


 そんなことを考えているうちに、ニュース画面が中継に切り替わった。画面右端には『国家保安省前から中継』と書かれている。


『あ! 職員の方が出てきました! これから会見が始まる模様です!』


 カメラがズームアップした先にいたのは……アルー。そして、アルーの妹で密入国者のアミーさんだった。


「ほんと、あの女はスーツを着るとまともな人間に見えますわね」


 けっ、という顔をするミワだった。ミワって脅威の胸部装甲のせいでスーツが壊滅的に似合わないからね……。


 ちなみにアルーはネットやマスコミ界隈だと『国家保安庁の美人エルフ!』って感じで有名人らしい。まぁスーツをビシッと決めて、眼鏡を掛けたアルーは『仕事のできる知的美人』って感じだものね。よくもまぁあそこまで擬態を鍛えたものだ。


『えー、まず、今回の大規模魔力嵐についてですが……』


 アルーがPC画面をホワイトボードに映しながら『魔力嵐』とやらについて解説していく。


「魔力嵐って?」


 私の質問にミワがふかーいため息をついた。


「この国を中心とした大規模な魔力の乱れを、そのように定義しました。反省してください」


 私がレバンティンをぶっ放したせいで日本を中心として世界規模で魔力が乱れたらしい。すみません。……いやでも、聖剣を一発ぶっ放したくらいで乱れるこの世界もちょっと軟弱じゃないかな? そう思わない?


「反省してください」


「マジすみませんでした」


 反省しているうちに魔力嵐の概要は説明し終わったようで。カメラが再びアルーにズームした。


『我々は、この魔力嵐が、ドラゴンブレスによって引き起こされたものであると解釈しています』


 途端に会場中がカメラのフラッシュで満たされる。うんうん、明日の新聞一面は決まりだね。ちゃんとスクラップしておこう。


 しかし、


「ドラゴンブレス程度・・で国中の魔力が乱れるって……ちょっと無理があるんじゃない?」


 私だったら片手で防げるよ?


「問題ありませんわ。どうせこの国の人間は魔法に詳しくないのですから」


 そういうところだと思うなー私ー。あまり舐めているといつか痛い目に遭うと思うなー私ー。勇者である私だってこっちの世界出身なんだからー。


 私が呆れの半眼をミワに向けていると、テレビの向こうでアルーがここ一番のドヤ顔を作った。


『我々はドラゴンがこちらの世界に移動してきたことを検知し、即座の対応によって被害を最小限に収めたのです! ――そう! こちらのアミーと協力して!』


 先ほどよりも激しくたかれるフラッシュたち。新聞一面はこっちになっちゃったかな? まぁアルーはシスコンっぽい感じなのでこれはこれで喜びそうだね。


「アミーさんと協力?」


「そういうことにしました」


「しちゃいましたか」


「えぇ。緊急事態だから仕方なく密入国を。こうすればアミーさんも罰せられることはありません。緊急事態ですから」


 大事なことだから二回言いました?


「ミワたちって法律をなんだと思ってるの?」


「しょせん他の世界の法律ですわ」


「郷に入りては郷に従えって言葉があってね?」


「わたしーにほんごーわかりませんわー」


 そういうところだと思うなー私ー。


 それはとにかく。ストーリーとしては『世界を渡ったドラゴン! その兆候を察知したアルーとアミーは協力してドラゴンを討伐! この世界に平和が訪れたのだった!』という感じにしたいらしい。


 もちろん、それで納得するのはアルーくらいのものだ。


 会場にいた記者さんたちが次々に手を上げ、次々に質問していく。


『アルーさん! なぜこの世界にドラゴンが!? ゲート管理部は何をしていたのですか!?』


『現在調査中です。少なくとも、国家保安庁の管理するゲートを通った形跡はありませんでした』


『今後もドラゴンが出現する可能性が!?』


『可能性は否定できません。これはゲートではなく空間の裂け目が原因であるかと』


『アミーさんとは何者ですか!?』


『私の妹で、エルフの里の長老代理を務める者です』


 え? アミーさんってそんな偉かったの? こっちの世界に留まっても大丈夫なの? 結構長期間ストーカーしてたみたいだけど。


「エルフはとろいですからね。一週間二週間くらいのストーキングは誤差なのでしょう」


 とろいって。もうちょっと言い方をね? せめて「寿命が長いからのんびりしている」とかね?


 私がツッコミしている間にもテレビの向こうでは質問が続いていた。


『安全であるはずの学校ダンジョンにドラゴンが出たのをどうお考えですか!?』


『そもそも、ダンジョンを安全だと判断するのが間違っています』


 おぉ、また炎上しそうな受け答えを。たぶんアルーの上司ララートさんは今ごろ頭を抱えているね。


『アルーとアミーさんだけでドラゴンを討伐したのですか!?』


『あとは現地で巻き込まれた学生も結果的に協力していただきました』


『その学生とは!?』


『個人情報ですのでお答えできません』


 え? それってもしかして私のこと?


「いえ、ユリィさんのことですね。どうせドラゴンに襲われて重症を負ったことは隠し通せないのですから、『巻き込まれながらも討伐した協力者』ということにしました」


 雑ぅ。


『ドラゴンの素材はどうなりますか!?』


『国家保安庁が調査のために回収し、出現の原因を調査します』


『その後はオークションに掛けられますか!?』


『何の問題もなければ、そうなるかと。ただし、珍しい現象であった場合は資料として保管される可能性もあります』


 ドラゴンの素材って。レバンティンで跡形もなく消し去ったけど?


「ユリィさんを襲ったアース・ドラゴンの子供の素材はありますからね。それに、いくらアルーとアミーさんでもドラゴンを跡形もなく消し去るのは無理ですから、素材が残っているということにしたのでしょう」


「へー」


 記者会見でわざわざ質問するってことは、こっちの世界じゃレアな素材なのかな? あっちの世界じゃレベリングついでに討伐していたのだけど。


「……優菜さんは自覚ないかもしれないですけどね? ドラゴンって一匹出ただけで国家の戦力を総動員しなきゃいけない『災害』なんですよ?」


 とは言ってもなー。ドラゴンくらいなら時間を掛ければ簡単に倒せるし。……あのときは片足を失った少女を退避させることと、レバンティンを使わないことを優先しちゃったからああなっちゃったけど。


 でも、その判断ミスのせいでユリィさんに大ケガさせてしまったからね。これからは迷うことなく全力でレバンティンを振るっていきましょうか。


「やめてください。ま・じ・で! やめてください!」


 ミワに両肩を掴まれてガクガクと揺さぶられてしまった。大丈夫大丈夫、ちゃんと手加減するから。



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?