旧校舎の入口にまで来た二人は立ち止まる。
正確には、引っ張っていた流山が止まったから柏も歩くのを止めた。
そして流山は振り返り柏の方を見る。
「流山?」
「……さっきみたいなことは、もうやめてください」
「さっき? ああ……そうだな。お前の前でああいうことはもうしないよ」
「そうじゃないです! 私は柏先輩が暴力をふるうのが嫌なんです!」
「…………」
柏はてっきり、暴力そのものが嫌だと思っていた。
だが、そうではないようだ。
流山の悲痛な叫びを聞いて柏は落ち着いて話す。
「けどな流山。お前は知っているはずだ。俺が本当はどういう人間か」
「……っ! それはあの時のことを言っているのですか?」
「まぁ、そうだな。俺は守りたいもののためなら暴力だって使う男だ」
「でも、あれは!」
「流山。この話はここまでだ。これ以上は平行線だ」
柏が真っ直ぐに流山を見た。
彼女の瞳には、納得いかないと言わんばかりの抵抗があったが柏はそれを無視した。
「ずるいですよ、先輩」
「ああ、そうかもな」
そう言いながら柏は流山を放し、旧校舎へと入っていった。
流山も柏の後ろを付いて行く。
沈黙の中、階段を上がりすぐに部室に辿り着く。
扉己前に立つ柏は一度流山の方を見る。
下を向き落ち込んでいる彼女をこのまま部室に入れていいものかと考える。
しかし、教室の中から聞こえる声を確認すると、柏は扉を開けることにした。
「では、夜になりました。皆さん頭を伏せて寝てください…………村人の数が人狼よりも減ったので、人狼チームの勝利です」
「クソォォォォォォォォォォ! 人狼強すぎんだろ!」
「え、誰が人狼だったんですか?」
「千夏ちゃんと希色ちゃんだね」
「うわぁ、最強コンビじゃん」
「ちょっと狩人、仕事してよ」
「ま、まさかわざと狩人を最後まで残すなんて! さ、さすが希色ちゃんだね!」
「まーね! 私にかかればぁ、こんなの余裕だしぃ!」
「ふははは! 詰めが甘いな一年ども! そして松戸も!」
「そのペアは強すぎんだろ。成田本気出し過ぎだ」
「何を言う! 本気なるから面白いんだろ! 船橋希色を見てみろ! 私がドン引くほどのペテン師だったぞ!」
「演技上手って言ってください!」
人狼ゲームをしていたのだろう。
輪になってあーだこーだと言い合っていた。
柏がもう一度横を見ると、下を向いていた流山の視線がみんなの方へ釘付けだった。
「流山」
「え、はい?」
「お互い、過去色々あるけどさ。とりあえず今は今を楽しもう」
「先輩………そうですね」
流山は柏の言葉に笑顔で答えた。
そして、二人は教室へと入っていく。
「盛り上がってんな」
「あ、柏先輩ぃ! 聞いてくださいよぉ、千夏先輩が酷いんですよぉ!」
「何を言う船橋希色! 褒めているのだぞ!」
「おかえり、凛ちゃん」
「ただいま、玲奈」
「よし! 柏と流山も来たことだし! もう一戦やるぞ!」
「だそうだ木更津」
「当たり前だ! 負けっぱなしに主義じゃねー!」
こうして、今日も部活が始まる。