その後、部活終わりまで二年生は我孫子に説教をされた。
そして一年生たちが帰った後、二年生と三年生は部室に残っていた。
「まったく。成田は仕方ないにしても松戸と柏まで何をしているの」
「まぁまぁ夕陽ちゃん。説教はもうそれぐらいで―」
「雫は甘いのよ」
「そうかなー?」
「そうよ…………で、バカ三人組は何か言い訳はある?」
「「「ありません」」」
正座をさせられている三人は、我孫子の言葉に揃って答えた。
(おい浩介! 何とかしろ! 僕の足はもう限界だ!)
(柏! 俺も限界! 頼むから我孫子先輩のご機嫌取ってぇ!)
(お前ら! こういう時だけ!)
三人は足が痺れて限界だった。
柏は仕方なく、話しかける。
「あ、我孫子先輩」
「なに、バカ一号」
「ば、いや、その先輩たちから見て一年生たちどうですか?」
「どう、とは?」
「先輩たちも気づいているでしょう。俺達が配役に迷っていることに」
「…………立ちなさい柏」
「はい」
柏が立ち上がる。
成田と松戸も流れで足を崩そうとする。しかし我孫子はそれを制しする。
「バカ二号と三号はまだ正座」
「「え」」
固まる二人を無視して我孫子は柏を見る。
「言ったはずよ柏。私たちのことは気にせず春大会はあなたたちの好きにしなさいと」
「それは、分かっているんですけど…………」
歯切れの悪い柏。
我孫子と旭は顔を見合わせて、肩をすくめた。
どうしたものか。
悩んだ末に旭が柏へ優しく聞く。
「柏くんは、何に迷っているの?」
「それは……」
「もし、もし私たちのことを少しでも気にしているなら大丈夫だよ。私と夕陽ちゃんはもう十分思い出を貰ったから」
「旭先輩……」
「ま、待ってくれ旭雫先輩! 僕は納得しないぞ!」
異議を唱えたのは成田だった。
足が痺れて少し前かがみになりながら柏の方を見る。
「先輩たちにとっては最後の大会なんだぞ! 一緒に劇をできる最後なんだぞ! それを浩介は次の秋大会がどうのって! そんなの僕は納得しないぞ!」
「バカ二号……」
「そうですよ先輩たち! 俺も納得できません!」
「バカ三号……」
「その呼び方止めません!?」
成田と同じように少し前かがみになりながら松戸が突っ込む。
二人の足はもう限界を超えていた。
痺れすぎて、少し動くだけでも痛みが感じるほどだった。
「とにかくだ! 浩介がどう思おうと! 僕は先輩たちと一緒に劇をしたいし! 浩介は役者として出るべきだ!」
「千夏ちゃんの言い分は嬉しいけど……」
旭が困った様子で我孫子の方を向く。
「だとしても私たちは既に決断したわ」
我孫子は部長として断言した。
私達はもう決めたのだと、後はお前たちで判断しろと。
「な、我孫子夕陽先輩、それはズルいぞ! 先輩たちだって!」
「成田。人間ってズルいものよ?」
「っ! 浩介! お前は本当にそれでいいのか!?」
「なぁ千夏。俺やっぱり勝ちたいんだ。今度の秋大会で全国に行きたいんだ」
「お前はバカだ! 先輩たちもバカだ!」
柏の答えに成田は憤慨した。
目標を持ち、勝とうとすることは決して悪いことではない。
しかし成田には今の柏が迷い、戸惑いながら言っているようにしか聞こえなかった。
「それで後悔するのはお前なんだぞ!」
「それは……」
柏は成田の言葉に反論できなかった。
自分の中に、思うところがないわけではなかった。
その様子を見て、我孫子は溜息をついた。
なるほど、これは配役決めどころではない。
「まったく。あなたたちはどこまでも不器用ね」
「我孫子先輩……?」
「分かったわ。こうしましょ。明後日の土曜日までに柏が決断しなかったら私と雫の独断と偏見で配役を決めるわ」
「! それって……」
「もちろん。そのときは私たちも役者として数に入れるわ。それならいいでしょ成田」
「……分かりました」
「それじゃあ、方向性も決まったところで帰りましょうかー」
場の雰囲気に似合わないゆるふわボイスで旭先輩が解散を指示した。
ちなみに、成田と松戸は足が痺れてしばらく立てなかった。