「何だ……?」
地響きはしばらく続いた。
部屋全体に瓦礫がパラパラと降ってくる。
僕は咄嗟にブルーを剣へと収める。
そして重たい身体を引きずり、部屋の隅へと移動した。
「……治まったな」
壁に身を預けて、一息つく。
だが、さっきの地響きで随分と部屋は荒れてしまった。
ビーストとズゥメル。
激しい戦闘を2度も繰り返したことで、かなり脆くなっていたようだ。
降り注いだ瓦礫は散乱し、壁や天井にはヒビが所々に走っている。
「このままじゃ……まずいか」
大きな地響きは治まったが、わずかな揺れは断続的に起こっている。
あと数回、いや一回。
大きな揺れが起これば、崩落を起こすかもしれない。
「ディノ君!」
部屋に響く溌剌な声。
「ランさん!」
入口から入ってきたのはランだった。
その後ろにはゴルドーの姿も見える。
「身体は大丈夫かい?」
「はい……何とか、ですが」
駆け寄ってきた2人に肩を借り、立ち上がる。
「少しですけど、回復しますね」
ランは僕に向かって手をかざす。
「〈
魔力光が僕を包む。
すると、少し身体が軽くなった気がした。
「ありがとう、助かります」
「いえ。私も魔力が少ないので、少しだけですけど」
「それで、ディノ君。あの怪物はどうなったんだ?」
僕はこれまで起こったことを話した。
怪物、ビーストとの戦闘。
そして、その後のズゥメルとの戦闘について。
「ビースト……あの怪物を倒してしまったとは……。君は凄いな」
「はい、それにズゥメルとも戦って追い返すなんて凄いです!」
「いえ……ズゥメルは自分から退いたんです。僕は手加減されていました。もし全力を出されていたら、僕は死んでいたと思います」
脳裏にズゥメルとの戦闘が蘇る。
あの時は夢中でただ目の前の力に抗うだけだった。
改めて冷静に思い返せば、恐ろしい力だ。
「……そうか。ともかく生きていて良かった。こっちは無事に怪我をしていた2人を他のパーティに託すことができた。その他の怪我人も見つけて、同様に保護してもらっている。今頃は反応が生きていたパーティは撤退しているはずだ」
「なら、僕たちも撤退しましょう。さっきの揺れでこの辺りはかなり危険です」
「ああ……そのことなんだが」
ゴルドーは言葉を詰まらせる。
「……私たちはあの地響きの後、退路の確認をしたんです」
「だが、上の階層へと続く階段は
僕はゴルドーの言葉に違和感を覚えた。
地響きで瓦礫が落ち、階段が塞がっているというなら分かる。
しかし、ゴルドーは見当たらなかったと言った。
この階層に降りてきた時、〈
場所を見失うことはないはずだが……。
「どういうことですか?」
「言葉の通りだよ。何度も確認したけど、マッピングされた位置に階段はなかった。それどころか、この階層のどこにもね」
「そんな……」
「詳しく調べてみると、この一帯の空間が断絶していた。先の地響きでダンジョンコアが損傷したか――詳しい理由は分からないけどね」
せっかく生き残ったのに、帰れないなんて。
このままでは、階層の崩落に巻き込まれるのを待つだけだ。
「でも、大丈夫。ランちゃんが〈
「とはいえ〈
〈
自分が意図した場所に転移させるスキルだ。
その精度は上位スキルである〈
詳細な場所を指定できない上、想定通りの転移が成功する確率も良くて半分程度。
実用性に欠けるギャンブル的なスキルであり、取得している人は少ないと聞いていたが……。
「今は出られるだけで十分だ。どこに出たとしても生きてさえいれば、何とかなるさ」
「……そうですね。ゴルドーさんにランさんも一緒ですし」
「ああ……! ランちゃん、準備を頼めるかな」
「はい!」
ランは魔力を高め始める。
「ん……やっぱり行き先は掴めなさそうです。……どこに出ても恨みっ子なしですよ?」
ランはそう言って軽く笑った。
「発動魔力自体は少なくて済むので、もう飛べますよ。私の周りに来てください」
僕とゴルドーはランの近くへ移動する。
さて、どこに飛ぶことになるやら。
今できるのは、祈ることだけだ。
「〈
その瞬間、僕たちは光に包まれた。
まだ見ぬ行き先へとそれぞれが思いを馳せる。
きっと大丈夫。
そう可能性を信じて。