「「レン!!」」
場所が病室の廊下なのを気にもせず大声を上げると、人一人分開いてた扉を開け放ちレンの元へ駆け寄る。
未だ体に包帯を巻かれているが、表情からわかる通りいつものレンと大差は無かった。
「レン……よかった。傷は大丈夫なのか?」
「まだ安静にしてなきゃだけどな。リサさんのおかげだよ」
レンがリサの方に視線を向けると、三人の邪魔をしないよう病室の入り口で小さく微笑み返す。
「レン、レン……おれのせいで、ごめん……」
トウヤがレンの右手を握りながら膝をつき、俯くと肩を震わせる。そんな姿にレンは眉を傾げながら口元を緩ませた。
「別に謝る事何かねぇよ。友達を助けるのは当たり前何だから」
トウヤは顔を布団に埋めたまま、小さくくぐもった声で「ありがとう」と呟く。そんな姿を見たレンとリュウトはどちらからとも無く向き合い優しい苦笑いを浮かべた。
「そうだレン、トウヤが正式に候補生になったよ」
唐突な話しに苦笑していたレンは目を見開いて二人を交互に見つめる。
「マジかよ!?でも施設の事は良いのか?」
「それがさ、マナが施設長をボコボコにして権利取ってきたらしい」
マナから聞いた言葉をそのまま話すと、レンは思わず吹き出し声を出して笑いだした。だが力が入ると痛いのか、両手で腹部を抑えようと肩を震わせる。
「そりゃ、痛てっ!先生らしい!よかったぜ……これで三人で
レンの言葉にリュウトは口角を上げながらゆっくりと頷いた。
そんな和やかな三人を病室の扉を閉めながら見守るリサ。
「何だか懐かしいな」
壁に寄り掛かると、三人の姿が自分の記憶と重なりまるで古い映像のように思い出される。当時の仲間に囲まれる今よりずっと幼いユウキやマナ。
そんな暖かい光景と思い出が、レン達の言葉で現実に戻される。
「くっそ……あの悪魔まだ逃げてんのか」
「それでマナも捜索に入ってるから勉強は中止になってるよ」
いつの間にか真剣な表情で悪魔について話している三人。
リサは懐かしい思いを邪魔されたよりも、まだ幼い彼らが戦いの話しをしている事に悲しげな目付きを見せた。
「なるほどな」
「それで俺達も何か出来ないかと思ってさ、トウヤのペンダントの事を調べてたらリサに呼ばれたんだ」
「これが何なのかわかったら、マナさん達の助けにならないかなって」
トウヤが服の中からペンダントを取り出す。その装飾品が視界に入った瞬間、リサの表情が引き攣りトウヤの元へ駆け寄る。
「ちょっと待って、トウヤ君どうしてそのペンダントを持ってるの!?」
今まで見た事の無いリサの剣幕にリュウトやレンも口を開けたまま反射的に体がリサと距離を取ろうとした。凄まれたトウヤは素早く瞬きを繰り返し口篭りながら話す。
「こ、これですか?おお、父さんが母さんにあげたプレゼントで……」
「そう、なんだ」
落ち着きを取り戻すも、未だ真剣な表情のままのリサにリュウトは首を傾げる。
「リサ、これ何か知ってるの?」
「うん。これは
「
リサは頷くと、胸元から自分のペンダントを露わにする。トウヤのペンダントとはデザインが違うものの、装飾品として同じ赤紫色の鉱石が使われていた。
三人はリサのペンダントをまじまじと見つめる。
「本当だ。宝石はトウヤのと同じだ」
「これはね。悪魔が住む世界「魔界」の鉱石なんだよ」
何の気なしに話すリサとは違い、魔界と言う言葉に三人は一斉にリサに視線を移す。その瞳はまるで山積みにされた宿題を見ているような嫌悪感に満ちていた。
「魔界とかあるのかよ……」
レンが呟くと、リサは何かを勘づいたように数回小さく頷いてみせる。
「ああ〜授業だとこれからだもんね。私達が住む世界を人間界、悪魔が住む世界を魔界って呼んでるの。
そう言ってリサは自身のペンダントを外してリュウトに近付ける。すると魔剣の魔力を感知したのか、トウヤのペンダントのように赤紫色に淡く光を発した。
ペンダントの光を見ていた四人だったがリュウトだけが眉に皺を寄せて煮え切らない表情をする。
「まてよ、でもトウヤは魔力を持ってないから
「そう言えば確かにそうね。だとしたらどうしてこれが……」
リサがトウヤのペンダントに触れようと手を伸ばした時だった。
突然部屋の中に眩い閃光が走り、ペンダントを中心にリュウト、レン、リサの三人が病室端に吹き飛ばされる。
「うっ……何が起きたの……?」
「くそ!離せよ!」
「ガアァァァァァァ!!」
チカチカと視界に光の糸がチラつきながらも戻ってきた視力でトウヤの方を見る。そこには甲殻の悪魔と共にいた出来損ないの悪魔がトウヤを右脇で抱え込んでいた。
「痛ってぇ……あの悪魔!」
出来損ないの悪魔はリュウトとレンが起き上がったのを確認し、吹き飛ばされた窓側の壁へ向かい羽根を広げる。逃げられると察したレンは腹部に痛みを覚えながらも今まさに宙へ浮いた出来損ないの悪魔の足に手を伸ばした。
「待ちやがれ!」
「レン!!」
飛び立とうとする出来損ないの悪魔の足にレンがしがみつく。それとほぼ同時に大破した病室の壁から飛び去ってしまった。
リュウトが手を伸ばすも既に遅く、届くことはない。
「くそ!リサ、リサ大丈夫!」
リュウトは掴めなかった右手を睨みつけた後、病室の端で壁に寄りかかりながら倒れているリサに駆け寄る。幸い意識があるものの左側の頭部から僅かに出血していた。
「う、うん……それよりも二人が」
「皆さん大丈夫ですか!?」
病室の異常事態を察してか運転手の
「トウヤ君とレン君が連れていかれたの!私はいいから連絡して捜索をーー」
病室の破壊された窓の方からとてつもない魔力を感じ取り、リサは言葉を止めて視線を向ける。そこには先程まで隣に居たはずのリュウトが今にも飛び降りようと瓦礫の端に立っていた。
右手に魔剣を握りボロボロだった黒い布は、以前の面影など無い程綺麗な姿に変化していた。膝まで丈が伸びマントコートのような形状になっている。
「リュウト、そのコート……」
魔力も布も模擬戦の時に見た物より格段に増幅しており目が離せなくなるリサ。
がむしゃらに漏れ出ていた魔力がリュウトの中を巡り、守るように渦巻いている。
「おれが探してくる!」
「キミ!こころっか……い……ッ!」
慌てた
「あの子は一体何ですか!?」
「事情は後で話すから、まずは連れ去られた子達の捜査を最優先して!」
既に外は看護師や警備員がパニック状態となっている。だがそんな事も気にしていられない程、リサの中で後悔と焦りが入り交じっていた。
「私が触らなければよかった……待っててね、すぐに探すから!」
先に
「もしもし!今どこにいる!悪いけどとにかく急いでビルの近くの病院まで来て!」
通信機の向こうからは「何かわかんねぇがわかった!」と周囲に聞こえる程の大声で叫ぶ女性の声が聞こえていた。