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友の背中


 トウヤを助けた翌日。リュウトとレンは救護室の外でトウヤの様子を眺めていた。中に入れない理由は、二人がいるとうるさくてまともに検査が出来なかったからだ。


「なぁリュウト」


 ガラス張りの壁からは聴診器を背中に当てられているレンの姿が見える。その姿を見ていたリュウトは自身を呼んだレンの方へ視線を移す。

 レンの顔は何時にもなく真剣なものになっていた。


「どうした?」

「やっぱペンダントの事は先生に言っといた方がいいんじゃねぇかなって思ってよ。魔力が付いてるなら、また狙われる事があるかもって思ったんだ」


 レンの言葉に間違いは無かった。ペンダントの魔力も含め、リュウトの魔剣の魔力も狙ってきた甲殻の悪魔。

 例え魔力以外でも悪魔に狙われれば無事では済まない。リュウトは眉間に小さく皺を寄せながら静かに数回頷いた。


「……そうだな、それは伝えとくか」


 そんな話しをしていると、待っていた二人を呼ぼうと救護室からマナが出てくる。


「ちゃんと待ってたみてぇだな、もう中に――」

「マナ、その前にちょっといい?」


 マナの眉が小さく上がりながら二人を見る。何時にもなく神妙な顔付きをしているからか、マナの表情からも楽観さが徐々に消えていく。


「なんだよ?」

「トウヤの事なんだけど、あいつが持ってるペンダント、リュウトが言うには魔力が付いてるかもしれねぇって」


 レンの言葉にマナの顔付きがより一層険しくなる。その瞳は医師と話すトウヤをガラス越しに見つめ始めた。


「倒したからひとまず安心だろうけど、あの悪魔が魔力を狙ってたんなら、ペンダントの魔力と間違えて俺を襲ってきたのもわかる気がするんだ」

「そう言う事か。って事はまた悪魔に襲われる可能性もあるな」


 視線に気付いたのか医師と話していたトウヤが三人に手を振り始め、リュウト達もすぐに振り返す。だがマナはどこか難しい顔をしていた。


「わかった。ひとまずペンダントの事は滅殺者スレイヤーの方に掛け合う。……実は昨日、トウヤが逃げたっつー施設に連絡を入れたんだ。そしたら出来れば今日中に帰してほしいって言われてな」

「そうか、やっぱ帰らなきゃだよね……」


 もしかしたらここに居れるかもしれない――。そんな小さな期待を片隅に抱いていた二人は、現実を突き付けられ視線を落とす。

 だがそんな姿を見て、マナは二人に視線を合わせて優しく肩に手を置いた。


「そうしょげんなよ。あいつにはちゃんと待っててくれる人も居て、帰る場所があるんだ。そう思えば嬉しい事だろ?」


 マナの言葉に二人は小さく息を吐いた後、納得したように静かに頷く。そんな会話を知らずに、検査を終えたのか、救護室から飛ぶようにトウヤが出てきた。


「レン、リュウト。おれ……今日施設に帰る事になったよ!」

「あぁ、今先生から聞いたぜ。……良かったじゃねえか、もうあんなのから追いかけられる事もねぇしな」


 チラりと視線をマナに向けるレン。何かを察してかマナは大きく頷いた。


「そんじゃ、トウヤを施設まで送ってくか。特別にお前等も連れてってやるよ。鍵渡しとくから先に車に乗ってな、あたしは外出申請してくる」


 リュウトに鍵を渡すと、マナはビルの駐車場へと向かわせる。

 外出に胸を躍らせる子供のような三人の後ろ姿を静かに見つめていた。


「レン、お前は優しい嘘が上手いな。リュウトもいつの間にか心配する側になってやがるし」


 呟いたマナは鼻で笑うと、頬を綻ばせながら三人に背を向けて本部のロビーへと歩みを進めた。


「それにしても外出なんて久しぶりかもなぁ」

「まぁ滅多に出かける事無いからね」

「……ねぇレン、リュウト」


 マナと別れてから数分。駐車場が見えた辺りで突然立ち止まり、思い詰めたような表情になるトウヤ。

「どうしたんだよ? 車までもうすぐだぜ?」

「もし、もしさ。ペンダントの魔力を狙ってまた悪魔が来たら、どうしたら良いんだろう……」


 悪魔に狙われていた時の恐怖心が蘇ったのだろう。ペンダントを両手で握りながら二人へ助けを求めるように見つめる。

 いたたまれなくなったレンが声をかけようとしたその時、リュウトが真剣な表情にも微笑んだ表情にも見える顔付きでトウヤを見つめた。


「その時は、また俺とレンで助けに来るさ」


 リュウトの言葉にレンは大きく頷いてみせる。


「あぁ、何回だって助けてやる! だから安心しろ、おれ達は滅殺者スレイヤーだ!」

「まぁ、まだ候補生だけどなー」

「ばか、うるせぇよ!!」


 悪戯っぽく笑うリュウトと熱くなるレン。

 そんな二人の姿に不安が消えて笑い出すトウヤ。友人と呼べる存在に自然と笑がこぼれたのだ。


「ありがとう、じゃあその時は頼むね」


 トウヤが小さく頭を下げると、二人は頷きながら笑みを浮かべる。

 そんなやり取りをしていると、ロビー側の入り口から来たであろうマナの姿が見えてきた。


「ほれ、何してんだ。さっさと乗れ」


 マナに促されると、三人は解錠された車へと乗り込む。

 後部座席で楽しげに話す三人を後目に、マナは施設へと車を走らせた。


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