”ところで、実際のところ師匠ちゃんはどれくらい強いの?”
拗ねてしまった凛子を視聴者とともに必死になだめていると、ふとそんなコメントが私の視界に飛び込んできた。
「おっ、いい質問ね。確かに自分の推しが指導を受けるんだから、その相手の実力は気になるわよね」
話題を変えるのにちょうどいいと考えてそのコメントに反応すると、他の視聴者たちもここぞとばかりにその話題に乗っかってくる。
”確かに、気になるな”
”Sランクの戦いなんて、普通に生きてたら見る機会なんてないし”
”リンリンを任せるに足る実力か、俺たちが見定めてやろう”
そのまま勝手に盛り上がり始めたコメントを横目で見て、凛子は呆れたように小さくため息を吐いた。
「はぁ……、もういいや。確かに、私も穂花ちゃんの戦ってるところはもう一度じっくりと見たいと思ってたし」
どうやらやっと機嫌を直してくれたらしい凛子にほっと一安心して、私はさらにその話題を広げていく。
「見られるのはちょっと恥ずかしいけど、さっき見せてもらったお返しはしないとね。とはいえ、戦うのにちょうどいい相手がいるかな?」
私たちが今居るのは、中層の入口あたりだ。
この辺で出てくるモンスターで手強い奴と言えば、キングスネークかロックリザードくらい。
他のモンスターではちょっと弱すぎて、文字通り戦いにすらならないと思う。
「いっそのことイレギュラーでも起きてくれたら、分かりやすいんだけどね」
思わずそんな不謹慎なことを言ってしまい、それを聞いた凛子は苦笑いを浮かべる。
「駄目だよ、そんなこと言っちゃ。イレギュラーって、普通だったら高ランクの探索者が何人も駆り出されるような一大事なんだから。そもそも、そんな頻繁に起こるものじゃないし」
「冗談よ、冗談。実際イレギュラーなんかに遭遇しちゃったら、後が大変だもの。二日連続で報告書を書くなんて、勘弁してほしいわ」
昨日の夜遅くまでかかってしまった書類仕事を思い出して、私は思わず身震いする。
そんな風に多少おふざけを混ぜながらダンジョンを進んでいると、不意にその奥から異質な感覚が襲ってきた。
「っ!? これって、もしかして……」
なんだか覚えのあるその感覚に顔をしかめていると、ポケットにしまっていたスマホが着信を告げた。
”ん? 電話?”
”配信中は電源を切っといたほうがいいんじゃない?”
”ゆうてSランク探索者やぞ。緊急の呼び出しとかもあるから電源オフは無理やろ”
”なんだか嫌な予感がするのは俺だけ?”
”安心しろ、俺もだ”
ざわつくコメントを横目で眺めながら電話に出ると、慌てた様子の
「もしもし、穂花ちゃん。ついさっき空ヶ崎ダンジョンの中層でイレギュラーが発生したわ」