「ええ、分かってる。どうやら、ちょうど私たちが居る階層で発生したみたいよ」
焦ったような口調で急いで要件を伝えてくるお姉さんに対して、私はできるだけ冷静な口調を心がけて言葉を返す。
その間にもダンジョンの奥からは、強い気配と刺すようなプレッシャーが私たちを襲ってくる。
チラッと凛子の方を確認すると、彼女は少し表情を曇らせていた。
「大丈夫? 今ならまだ、逃がしてあげられると思うけど」
戦えないというのなら、むしろこの場に残られる方が迷惑だ。
そう考えて声を掛けてみると、一瞬だけ逡巡した凛子は小さく首を振って答える。
「ううん、大丈夫。私だって探索者だもん。自分の身くらいなら守れるよ」
そう言って真剣な瞳でまっすぐ見つめてくる彼女に、私も頷きながら微笑む。
「いいわね。そういうの、好きよ。だけど残るなら、私の指示に従ってもらうわ」
「もちろん! なんでも言いつけてください!」
力強く頷いた彼女は、ふとまだ配信を続けているカメラへと視線を向けた。
「ところで、配信はどうしたらいいかな? 切ったほうがいい?」
「そうね……」
どうしようか悩んでいると、私より先に電話先のお姉さんが答える。
『配信はそのままにしておいてもらえると助かるわ。その方が、こっちでも状況を確認しやすいし』
「なるほど、そっちでも見てるのね。なら、配信はこのままつけっぱなしにしておきましょう」
「りょーかい! というわけで、コメントのみんなも私たちのこと応援してね」
”応援なら任せて!”
”二日連続でイレギュラーなんて、運がなさすぎる……”
”Sランクと一緒の時だったのが不幸中の幸いか”
”むしろ師匠ちゃんがイレギュラーを呼び寄せてる?”
「ちょっと。人を厄女みたいに言わないで。私だって、こんな頻繁にイレギュラーに当たるのは初めてなんだから」
実際、今まで二日連続でイレギュラーが起こることなんてほとんどなかった。
しかもそれが両方とも同じダンジョンだなんて、私の知る限り一度もなかったはずだ。
「ともかく、発生源の方へ向かってみましょう。近くに他の探索者は居ないみたいだけど、いつ誰が巻き込まれるか分からないし」
『二人とも、対処を頼んでる私が言うのもなんだけど気を付けてね。危なそうだったら、すぐに撤退するのよ』
「はいはい、分かってるわ。サクッと終わらせて帰るから、報告書の作成は手伝ってね」
それだけ言って電話を切ると、私と凛子は小さく頷きあって同時に走り出す。
不自然なほどにモンスターの居ない通路を進んでいくと、やがて目の前には少し広い空間が現れる。
「……これは」
「もしかしなくても、これがイレギュラーの原因ってことでいいのかな?」
目の前に広がる空間の中央。
そこではまるで私たちを待ち構えるように無数の岩を