それは本来であれば下層のさらに奥、深層にのみ出現するレアモンスターだ。
3メートル以上ある体表には無数の宝石が散りばめられていて、その全てが魔力を帯びている影響で怪しく光り輝いている。
ダイアやルビー、サファイアを思わせるその宝石は非常に純度が高く、コレクターの間では高額で取引されているらしい。
宝石自体の硬度とトカゲ本体の凶暴さ、そしてそもそもの出現率の低さも相まって討伐は困難を極め、市場にはほとんど出回らないのも高額の理由だと言われている。
目の前にいる個体の大きさを考えれば、全て回収することができればそれだけで数千万以上の価値があるはずだ。
そんな希少なジュエルリザードが2匹も居る光景は、なかなかお目にかかれないだろう。
”すごい綺麗なトカゲだな”
”デカくなかったらそのまま家で飼いたいくらいだわ”
”あの宝石、1個いくらになるんだろ? それが大量にあるとか、一匹倒すだけで大金持ちじゃね?”
”倒せたらな。ジュエルリザードってめっちゃ強いんだろ”
”しかも周りには大量のロックリザードとか、普通に死ねるだろ”
興奮と絶望が入り交ざるコメントたちを横目で見ながら、私はゆっくりと凛子に向き直る。
「どうする? 引き返すなら、今が最後のチャンスだけど?」
「……冗談じゃない。私だって覚悟を決めてここに居るんだよ」
心配する私の気持ちを吹き飛ばすように、はっきりとした口調で答えた凛子はまっすぐに私を見つめる。
「さぁ、指示をちょうだい。私は、なにをすればいいかな?」
その表情に恐怖はなく、むしろ気合いに満ち溢れた瞳に見つめられれば私の心も奮い立たせられる。
「気合入ってていいわね。それじゃ、周りのロックリザードたちの相手はお願いしていいかしら? ジュエルリザード2匹を相手しながらじゃ、さすがに手が回りそうにないから。数が多いけどいける?」
「オッケー、任せて! ロックリザードなら、私と相性ばっちりだから!」
自信満々にそう言う凛子に頷きを返すと、私は改めてモンスターたちへと視線を戻す。
「それじゃ、さっさと始めましょうか。コメントのみんなも、私たちの戦いを楽しんでね」
”オッケー! 応援してる!”
”図らずもSランク探索者にとって申し分ない相手だな”
”見せてもらおうか。Sランク探索者の実力とやらを”
”どっかの赤い大佐がおるな”
盛り上がるコメントたちを横目に促せば、凛子は軽く頷きながら魔力を迸らせる。
一気に膨れ上がった魔力にジュエルリザードがこちらを睨むが、もう遅い。
すでに準備を終えていた凛子は、快活な笑みを浮かべながら叫んだ。
「まずは一発、景気づけにいくよっ! アイスクラッシュッ!!」
その言葉に答えるように、凛子の周りに冷気とともに無数の氷の礫が現れた。