夜も更けて人通りの少なくなった深夜の繁華街。
街の明かりも少なくなり少し薄暗いそんな通りを、ふたりの男がフラフラと歩いていた。
「……クソッ!ふざけやがって! なんで俺たちが管理局から注意されなきゃならねぇんだよっ!」
「マジでそれな。俺たちはただ、楽しく配信してただけだっての」
天童兄弟という名義で配信活動をしているふたりの男は、昨日の配信中のイレギュラーの件で連日にわたり管理局より厳重注意を受けていた。
「次に違反したら探索者免許はく奪とか、冗談じゃないっ! できるもんならやってみろってんだ!」
「そもそも、俺たちがどんな違反をしたって言うんだよ!」
お互いに大声を上げて文句を垂れ流しながら、男たちは酒臭い息を吐く。
事情を知っている者が見れば、きっと眉を潜めることだろう。
そもそも彼らはイレギュラー発生時に指示に従わず、あまつさえSランク探索者に対して証拠もなくランク詐称を疑い責め立てた。
あまつさえその光景を配信に映して全世界に公開した行為は、ランクを認定している管理局に対してその業務を妨害したと言っても過言ではないだろう。
さらに彼らは、天童兄弟として活動するなかで他の探索者や配信者に対してもいくつもの迷惑行為を働いていた過去がある。
そんな状況を重く見た上での管理局のこの対応だったが、当の本人たちにその自覚は全くなかった。
そのせいで、彼らにとって今回の管理局の対応は理不尽この上ないものに感じ、酒の勢いも相まってその不満は爆発寸前まで膨れ上がっていた。
「それもこれも、あの時いきなり現れたSランク女のせいだ。あいつさえ居なけりゃ、こんなことにはならなかったのに」
「リンリンとかっていう女もだぜ。せっかく俺たちが声を掛けてやってるのに、お高くとまりやがって」
彼らの怒りは、徐々に穂花や凛子の方へと向かっていく。
イライラが募った男がゴミ箱を蹴とばし、中のゴミが道にまき散らされる光景を見てさらにイライラが膨らんでくる。
「次に会った時には、女だからって絶対に許さねぇ。ボコボコにして、目の前で土下座させてやる」
「それだけじゃ足らねぇよ。その後で、女に生まれたことを後悔させてやらなきゃ気が済まねぇぜ」
相手が自分たちよりも遥かに格上であることなどすっかり忘れてしまっている男たちは、頭に浮かんでくるどす黒い情欲に表情を下品に歪ませて笑う。
そんな彼らの背後から、ひとつの人影が現れる。
「……いいねぇ、最高に最低な奴らだ。それでこそ、依り代にふさわしい」
口元だけで微笑んだ人影の呟きに、天童兄弟は驚き振り返る。
「なんだ、お前? 俺たちになにか用か?」
「今は気が立ってんだよ。しょうもないことだったらぶっ飛ばすぞ!」
いきなり現れた人影に不審そうな表情を浮かべ喧嘩腰に声を荒らげる彼らとは正反対に、人影は相変わらず口元だけを歪ませて笑っていた。
「なぁに、すぐに終わるよ。私はただ、お前らの望みを叶えてやろうと思っただけさ」
その言葉は、彼らに最後まで届くことはなかった。
するりと天童兄弟の懐まで潜り込んだ人影は、彼らの胸に種を植え付ける。
それが一瞬で彼らの身体に同化すると、同時にふたりは意識を失った。
「さぁ、これで終わり。欲望を喰らって、大きく育てよ」
胸元の種を一瞬だけ愛おしそうに見つめた人影は、そのまま現れた時と同じように音もなく消えていく。
そこには、意識を失い路地に倒れるふたりの男だけが残されていた。