「はぁ、やっと解放された……」
あの後、そのままあの部屋で三人一緒にイレギュラー発生に対する報告書を書き終えた私は、管理局を後にして大きく伸びをした。
「初めて報告書なんて書いたけど、あんなに大変なんだね……」
私の後を付いてくるように一緒に出てきた凛子も、そう言って疲れたような笑みを浮かべていた。
「それにしても、本当に良いのかな? 私が、公式配信者だなんて……」
「良いに決まってるじゃない。そもそも私は、あなたと一緒じゃなきゃもう二度と配信なんてやるつもりないわ」
準備から告知から後片付けまで、それを全部ひとりでやっていた凛子を今日一日後ろで見ていて実感した。
私には、とてもじゃないけどそんなことできっこない。
恥ずかしいから絶対に伝えるつもりはないけど、内心で私は配信者としての凛子のことを密かに尊敬さえしていた。
「まぁ、そこまで固く考えることもないでしょ。公式になったからってなにか変わるわけじゃないし、使える肩書が増えてラッキーくらいに思っておけば大丈夫よ」
「さすがに、そこまで気楽には考えられないかなぁ……。でも、ありがとう。おかげでちょっと気持ちが楽になったよ」
さっきまでより明るい表情を浮かべる凛子を見て、私は満足したように微笑みを返す。
「そうそう、それでいいのよ。……それじゃ、そろそろ帰りましょうか。だいぶ遅くなっちゃったから、ご両親も心配してるんじゃない?」
「うん、そうかも。一応、お母さんには遅くなるって連絡しておいたんだけど……」
絶賛ひとり暮らしの私と違って、凛子には帰りを待っている家族がいる。
そもそも、女子高校生をこんな時間まで拘束するなんて管理局はなにを考えているのだろうか。
「この時間なら、電車で帰るよりタクシーを使ったほうが早いわね」
「えぇ!? 大丈夫だよ。今から走れば、次の電車に間に合うし」
「駄目よ。女の子が夜遅くに出歩くのは危険だもの」
「でも、タクシー代がもったいないし……。それに私だって探索者だから、そこまで危なくないし……」
「駄目ったら駄目。お金なら払ってあげるから、おとなしくタクシーで帰りなさい」
なおもグダグダと言っている凛子を完全に無視して、私は慣れた手つきでタクシーを2台呼ぶ。
そうすればすぐにタクシーが配車され、その一台に半ば無理やり凛子の身体を押し込む。
「ほら、観念しなさい。ちゃんと運転手さんに、家の近くまで送ってもらうのよ。お金はこれで足りるでしょ?」
財布からお札を無造作に取り出して凛子のポケットにねじ込むと、まだなにか言いたそうな彼女を乗せてタクシーは走り去っていく。
「ふぅ、これでよしっと」
その姿を見送った私は、やり切った表情とともにもう一台のタクシーへと乗り込むのだった。