凛子を無理やりタクシーに乗せた日からしばらく経ち、休日の私は駅前の広場に立っていた。
多くの人が行き交う中で立っていると、駅の方から待ち合わせ相手が走ってきた。
「ごめんっ! 待たせちゃった!!」
慌てた様子でそう言いながら駆け寄ってきた凛子に、私は小さく微笑みを浮かべる。
「ううん、大丈夫よ。それほど待ってないから」
そう答えて、なんだかこれじゃデートの待ち合わせみたいだと少し照れる。
それは凛子も同じ思いだったみたいで、よく見ると彼女の頬が少しだけ赤くなっているような気がする。
「あははっ、なんだかちょっと照れくさいね。……それにしても、私も早めに来たつもりだったけど穂花ちゃんの方が早かったんだね。もしかして私、待ち合わせ時間を間違えてた?」
「時間は間違ってないわ。ただ私が、ちょっと早く到着しちゃっただけだから」
実際、本来の待ち合わせ時間にはまだ少し余裕がある。
そのことを伝えると、凛子は小さく胸を撫でおろした。
「そう? なら良かったぁ。せっかく穂花ちゃんから誘ってくれたのに、遅刻しちゃったら大変だったよ」
そうなのだ。
なにを隠そう、凛子を今日のお出かけに誘ったのはこの私だ。
こういう風に知り合いと出掛けることなんて今まであまりなかったから、つい少し早めに待ち合わせ場所まで来てしまったことは内緒だ。
「それにしても、今日はなにをするの? 普通に遊ぶ感じ?」
「それも魅力的だけど、今日は凛子を連れて行きたいお店があるの。探索者関連のお店だから、きっと凛子も気に入ると思うわ」
「それってもしかして、穂花ちゃんの行きつけのお店?」
「……まぁ、そうなるかしら」
品揃えが良いからけっこう頻繁に通ってるし、店長さんにはいろいろと無理も聞いてもらっている気がする。
あんまりそういう感覚はなかったけど、確かに行きつけのお店と言っても良いのかもしれない。
少し考えてそう答えると、凛子は目に見えて嬉しそうにはしゃぎ始めた。
「Sランク御用達のお店を紹介してもらえるなんて、嬉しいな。きっと、すごいお店なんだよね!」
「うーん……。期待してるところ悪いけど、たぶんあなたが思ってるような感じじゃないと思うわよ」
と言うか、あんまり期待されてしまうとそれを裏切ってしまった時の罪悪感が強くなってしまう。
それを避けるために予防線を張ってみても、凛子の興奮は冷めやらない。
「大丈夫っ! 穂花ちゃんが通ってるなら絶対に良いお店に決まってるよ!」
グッと拳を握りしめて力説する彼女に、私はそれ以上なにも言えなくなってしまった。
「……まぁ、もう一度言うけどあまり期待しないでね。それじゃ、行きましょうか」
「うん! 楽しみだなぁ!」
ルンルンと今にもスキップしそうなテンションの凛子を連れて、私は目的のお店までの道を歩き出した。