「おかえりなさい、穂花ちゃん」
「ただいま、小春さん」
ダンジョンから帰ってきた私を見つけた小春さんに声をかけられ、私は思わず表情を綻ばせながら彼女のもとへと駆け寄る。
「配信見てたわよ。今日も凄かったわね」
「あぁ、見てたんですか。……仕事中なのに、いいんですか?」
「あら。公式配信者の配信内容を確認するのも、管理局職員の立派な仕事よ。それより……」
そこで言葉を切った小春さんはにっこりと微笑むけど、その笑顔はどうにも笑っているようには見えなかった。
その表情に、なんだか背筋がゾクッと震える。
「えぇっと……。なんだか今日は戦いすぎてちょっと疲れちゃったから、そろそろ帰ろうかなぁ……」
「ふふっ、駄目よ。まだお話の途中なんだから」
どうにかこの場を去ろうとしてみたけど、どうやらそこまで甘くはなかったみたいだ。
ガシッと肩を掴まれて引き留められた私に、小春さんはさっきと同じ笑顔を浮かべたまま詰め寄ってくる。
「配信を見てたんだけど、あれはなにかな? あんな格好で全世界に配信をして、いいと思ってるの?」
「いや、だって……。別に見られても減るものじゃないでしょ。それで視聴者たちも喜んでくれるなら、それでいいかなぁって」
「いいわけないでしょっ!! 女の子なんだから、もっと自分の身体を大切にしなさい!」
今まで聞いたことのないくらいの大声で怒鳴った小春さんは、すぐにハッとした表情を浮かべて周囲を見渡す。
遅い時間だけあって他に人は少なかったけど、とはいえゼロというわけではない。
不審そうな表情で私たちを眺める周囲の視線に、少しだけ気まずそうな表情を浮かべた小春さんは声のトーンを落としながら言葉を続ける。
「……ともかく、あんな姿を配信に映しちゃ駄目よ。こんな時代なんだから、もっとコンプライアンスとかを意識しなさい」
あぁ、確かにそうかもしれない。
私は気にしなくても、管理局的には問題になる可能性だってある。
それが原因で公式配信者の肩書を剥奪されるようなことがあれば、それは凛子に申し訳ない。
「まぁ、私としては穂花ちゃん自身にもっと羞恥心とかを持ってほしいんだけど。どうせこの子にはそんなことを言っても分からないだろうしねぇ……」
なんだかまだブツブツと呟いていた小春さんだったけど、すぐに切り替えたように顔を上げて私を見つめる。
「それじゃ、約束ね。これからはもっと気を付けて、配信で過度に肌を晒さないこと。それとこれは言ってもしょうがないかもだけど、あんまり危険な戦い方をするのも控えてほしいわ。傷が残ったりしないことは分かってるけど、見ている方からしたらやっぱり心配だから」
「……分かった、気を付けるわ。だけど、戦い方に関しては無理かも。あれが私の戦闘スタイルだし、私はあれ以外の戦い方を知らないから。そっちの方は、慣れてもらうしかないわね」
そう答えた私に、小春さんは呆れたようにため息を吐いた。