「それじゃ、お説教は終わりでいいかしら。さっきはふざけて言ったけど、疲れてるのは本当だから」
いくら修復スキルで身体のケガや不調は一瞬で直るとはいえ、体力ばかりはどうしようもない。
体力を消費してしまえば疲れるのは当たり前だし、いくらなんでもそれを修復スキルで元に戻すことはできない。
……いや、いけるのか?
今まで試したことはないけど、やってみたら意外とできたりするんじゃないだろうか。
今度試してみようかとぼんやり考えていると、小春さんが不思議そうな表情を浮かべて首を傾げていた。
「穂花ちゃん、どうかした? なにか、気になることでもあったの?」
「え? あぁ、違うの。ただちょっと考え事をしてただけだから大丈夫よ」
いけない、いけない。
しょうもないことを考えている暇があったら、さっさと帰って休もう。
「じゃあ私は帰るわ。小春さんも、お疲れ様」
「はい、お疲れ様。気を付けて帰るのよ」
そういって手を振る小春さんに手を振り返しながら、私はダンジョンの受付を後にする。
そうして外に出ると、そこで私はまたしても知り合いと遭遇することになった。
「ん? 不知火か。こんな遅い時間まで探索とは、ご苦労なことだな」
外に出た瞬間、入口に併設されている喫煙所でタバコを吸っていた遠峰がそう声をかけてきた。
「あぁ、遠峰か。あなたこそ、どうしてこんな所に居るのかしら? 副業でダンジョン探索でもするつもり?」
「ふざけたことを言わないでくれ。俺はもう、ダンジョン探索なんてやるつもりないからな。今日ここに来たのは、例の事件の捜査のために決まってるだろう」
「ふぅん……。まぁ、そうでしょうね」
こっそり鎌をかけてみたけど、今の口ぶり的に遠峰が元探索者だというのは本当の話みたいだ。
「それで、お前はこれから帰るのか? もうだいぶ遅い時間だが、誰か迎えにでも来るのか?」
「迎え? 来ないわよ、そんなの。凛子は入院中だし、私ってひとり暮らしだから。これから私は、ひとり寂しくご飯でも食べておうちに帰るわ」
「そうか……。少し待っていろ」
言うが早いか、まだ吸いかけのタバコを消して灰皿に投げ捨てた遠峰はこちらへ向かって歩み寄ってくる。
「駅まで送ろう。最近は、この辺りも少し物騒だからな」
「別に大丈夫よ。自分の身くらいは自分で守れるから。こう言っちゃなんだけど、下手な暴漢程度なら簡単にぶっ飛ばせるし」
「それが心配だと言ってるんだ。お前のことだから、やりすぎて相手を再起不能にしてしまいそうだからな」
なんとも失礼な物言いだけど、それを否定しきれない私がいるのも確かだ。
「反論がないのなら、さっさと行くぞ。ついでだから、飯でも奢ってやろう」
「……もしかして、あなたたちの間じゃ人にご飯を奢ろうとするのが流行ってるの?」
「は? なんの話だ?」
「ううん、なんでもないわ。それと、奢ってもらわなくても結構よ」
私の答えを聞いて微妙な表情を浮かべた遠峰は、だけどそれ以上はなにも言わずに歩き出す。
そんな彼の後ろについて歩き出しながら、私はこの前の長谷川との会話を思い出していた。