夜の繁華街。
駅まで続く少し薄暗い通りを、私と遠峰は特に会話もなく歩いていた。
時々すれ違う通行人たちはあまり釣り合わない組み合わせの私たちを見て不思議そうな視線を向けてくるけど、どちらもそれほど気にした様子もなかった。
それでもずっと無言で歩いていると、不意に私へ向かって振り返った彼が口を開く。
「ところで、あの子の様子はどうだ? そろそろ、退院できるようだと聞いたが」
「あの子って、凛子のこと? 凛子なら、もう元気いっぱいよ。早く退院して修行を再開したいって、身体を動かしたくてうずうずしてるみたい」
私の修復スキルのおかげで、彼女の身体に後遺症の残るようなケガは全部なくなった。
それどころか身体自体は健康体そのもので、すぐにだって戦えるレベルだ。
それでも入院が長引いているのは、念のための精密検査の他にも彼女の精神的な部分を心配してもことだ。
いくら凛子が気丈にふるまっているように見えても、彼女は一度死の淵を経験した。
それがトラウマになって探索者としての活動はおろか、日常生活にまで影響を及ぼす可能性だってある。
それを危惧しても入院期間だったみたいだけど、どうやらそれは無用な心配だったみたいだ。
「それにしても、えらく凛子のことを気にするのね。もっと血も涙もない奴だと思ってたから、意外だわ」
実際、私なんてこいつから心配されたためしがない。
別に心配してほしいなんて微塵も思ってはいないんだけど、それはそれでなんだか不公平な気分も拭えない。
「別に、そういうわけじゃないさ。ただ、彼女のことは少し気にかかるだけで……」
「もしかして、惚れたとか? 駄目よ、凛子はまだ高校生なんだから」
「馬鹿なことを言うのはよしてくれ。そういうんじゃなく、彼女はあの事件の……」
そこまで言って、不意に言葉を切った遠峰は不審そうな表情を浮かべる。
「今、なにか物音がしなかったか?」
「音? 別になにも……!? 避けてっ!!」
遠峰の言葉に首を傾げていると、不意に全身を襲う殺気に叫びながら彼の身体を突き飛ばす。
その瞬間、さっきまで遠峰が立っていた場所と私に向かって黒い打撃が襲い掛かってくる。
「グッ!?」
遠峰を突き飛ばすことで精いっぱいだった私は、避けることも防御することもできずにその打撃をもろに受けてしまった。
思いっきり吹き飛ばされた私の身体が地面を何度もバウンドし、壁にぶつかって止まる。
壁がひび割れるほどの衝撃に途切れそうなる意識を必死に繋ぎとめると、立ち上がると同時に自らの身体に修復スキルをかける。
「ごほっ……。はぁ、はぁ……。まさか、こんな街中でいきなり襲い掛かってくるとはね。油断したわ」
私の呟きに答えるように路地の奥から現れた黒い影を、私は痛みに顔をしかめながら睨みつけた。