メイスを取り出して今度は油断なく黒影の様子を伺いながら、私は視線だけを巡らせて周囲を確認する。
特に、いきなり突き飛ばしてしまった遠峰はちゃんと無事だろうか。
そう考えて視線を巡らせていると、その姿はすぐに見つかった。
「いきなり突き飛ばすとは、荒っぽいにも程があるな」
私から少し離れた場所で立ち上がった遠峰は、そう言いながら懐から拳銃を取り出す。
その銃口をまっすぐに黒影へと向けると、そのままなんの警告もなくいきなり発砲した。
パンッと響くような銃声とともに発射された銃弾は黒影の身体に直撃するが、しかしそれは黒影の身体を貫くことなくその表面で簡単に受け止められてしまった。
「ちっ……。やっぱりこの程度の銃弾ではまったく効かないか」
「ちょっ!? そんなことしていいの!? 発砲するのって、もっと段取りとか必要なんじゃない?」
いきなりの遠峰の行動に驚き声を上げる私に対して、彼は冷静な口調で言葉を返してくる。
「そんな悠長なことを言っている場合じゃないからな。多少問題になっても、奴を逮捕できれば全て丸く収まるから大丈夫だ」
「それは、大丈夫って言わないでしょ……」
相変わらず法をなんとも思っていない様子の遠峰の発言に、私は思わず呆れたような声を上げる。
そのまま緩んでしまいそうな空気をぶち壊すように、まず最初に動いたのは黒影だった。
その全身から真っ黒い触手を生み出すと、その触手はまるで刃のように私たちの方へと勢いよく伸びてくる。
「くっ、このっ!」
伸びてきた触手は殴っても手ごたえがなく、ただその軌道を曲げることくらいしかできない。
それでも向かってくる触手を全て叩き落とすと、私は遠峰の方へと視線を向ける。
するとそこでは、思っていたよりも軽い動きで触手の猛攻を避ける遠峰の姿があった。
「俺のことは心配するな! 自分の身くらいはなんとかできる! お前は、アレを倒すことだけ考えろ」
どうやら、余計なお世話だったみたいだ。
遠峰から意識を外した私は、改めて黒影へと向き直ると同時に地面を蹴って駆け出す。
なおも迫りくる触手の刃を弾き飛ばしながらその懐まで接近した私は、渾身の力を込めてメイスを振り下ろす。
瞬間、ドゴッと鈍い音を立てながらメイスは黒影の肩口にぶつかりその身体へめり込んでいく。
「やったか!?」
背後から聞こえてくる遠峰の声とは裏腹に、私は眉を潜めて表情を歪ませる。
触手と同じように、身体にめり込んだはずのメイスはまったく手ごたえがなかった。
「くそ、まだ足りないのね……」
小さくそう呟く私に向かって表情のないはずの黒影が笑ったような気がしたその瞬間、音もなく伸びた触手の刃が私の右腕を切り飛ばしていた。