右腕が切り飛ばされると同時に、複数の触手が私の身体を貫く。
「ごぼっ……」
内臓が傷ついたせいで、せき込むと同時に真っ赤な血が口から溢れ出る。
そのまままるで戦利品を見せびらかすように触手で持ち上げられると、さらに触手が全身に食い込み激痛が走る。
そして、黒影の口元が不気味に割れた。
「やった、やった……。殺したぞぉ……。ついに、殺してやったぞぉ……!」
まるでうわ言のようにブツブツと呟きながら、触手を躍らせて私の身体を揺さぶりおどける黒影。
そんな黒影に向かって、横合いから銃声が鳴り響いた。
「おい、そいつを解放しろ。さもないと、大変なことになるぞ」
打ち込まれた銃弾を意にも介さず、声をかけてきた遠峰を見て黒影はヘラヘラと笑う。
「次は、お前だ……。お前も殺して、俺はもっと強くなる……」
「殺して、強く? いったいお前はなにを言ってるんだ?」
「殺して、食って、力は全部俺のもんだ。それで俺は、最強になるんだ……!」
「まるで意味が分からんな。話すつもりがないのか、そもそも話す知能すら低下しているのか。ともかく、こいつから情報を抜くのは難しそうだな」
支離滅裂な言葉を発し続ける黒影に眉を顰めた遠峰の言葉に、私も宙ぶらりんの状態なまま頷いた。
「確かに、そうみたいね。死んだふりをして損したわ」
「ッ!?」
死んだと思っていた私が急に喋りだしたことで、黒影は驚いたような表情を浮かべながらこちらへ顔を向ける。
というか、よく観察してみるとこいつの顔って意外と表情豊かなのね。
なんてどうでもいいことを考えながら、私は動くたびに全身を襲う激痛を無視して身体をひねるとその頭に全力の回し蹴りをお見舞いする。
「グガッ!?」
くぐもった悲鳴とともに触手が緩み、その隙を見計らって蹴りの勢いのままに黒影から距離を取る。
その間も絶え間なく襲ってくる激痛に受け身をとることもできず、私は地面を転がるようにしながら遠峰のすぐそばまでなんとかたどり着いた。
「大丈夫か? ケガが、だいぶ酷いようだが」
「心配ご無用。ほら、これで元通り」
その言葉を発した時にはすでに修復は終わっていて、私の身体は傷ひとつない綺麗な状態にまで戻っていた。
「さて、これで振出しに戻ったわけだけど。どうする? まだ続けるかしら?」
再びメイスを握って臨戦態勢をとる私に、たじろいたようにその場から一歩後退る黒影。
「くそっ……、また失敗だ……。もっと食って、力をつけないと……」
そんな言葉だけを残して、黒影は現れた時と同じように路地の影に紛れるようにして姿を消した。
そうして完全にその気配が消えたことを確認して、私は思わずへたり込むようにして地面に崩れ落ちた。
「はぁー! つっかれたぁー!! なによ、あいつ。ふざけんじゃないわよ……!!」
静まり返った夜の路地に、ただ私の叫び声だけがむなしく響き渡った。