「ホントにムカつくのよ、あいつ。私の渾身の攻撃を受けてまだ動くとか、いったいどんな耐久力してるって言うのよ」
病院の個室。
イライラを解消するためにお見舞いで持ってきたケーキをむさぼり食べる私を眺めながら、ベッドの上に座る凛子は苦笑いを浮かべながら口を開く。
「まぁまぁ、落ち着いて。そんなに急いで食べたら、せっかくの美味しいケーキが台無しだよ」
「むぅ、それは確かに……。でも、腹立つもんは腹立つのよね」
実際、今の私にあのクソ影野郎を倒せるビジョンは全く浮かんでこない。
今までだって何度もそんな風に思うような敵は居たけど、今回のちゃんと対策をした上での敗北はさすがに心に来るものがあった。
「いや、敗北なんかじゃないわ。結局、私はあいつを追い払ったんだから。あの勝負はわたしの勝ちか、悪くても引き分けね」
そう思わないと、とてもじゃないがやってられない。
私は負けてなんかいないんだと何度も自分に言い聞かせていると、やっと頭は少し落ち着きを取り戻してきたような気がする。
そして落ち着いた思考ができるようになると、今度は自然と次の戦いのことへ考えが巡っていく。
「それにしても、あれでダメならどうやって倒せばいいのかしら。やっぱり、物理じゃ無理ゲーってこと?」
「うーん、どうだろう? だけど、まったく効いてない感じじゃなかったんでしょ?」
「まぁ、たぶんね。アイツだって無敵ってわけじゃないだろうし、殴り続けていれば多少はダメージも与えられると思うんだけど……」
だけど、相手がおとなしくそれをさせてくれるはずもない。
有効打を与えようと思えば何度も繰り返し攻撃しなければいけなくて、それを行おうとしてもその前に相手は逃げ出して行方をくらませてしまう。
「となると、逃げられないようにまず足を潰す? それとも、別の手段を考えたほうが早いかしら……」
凛子が戦っていた時の動画を見返したけど、彼女の魔法はちゃんと影にダメージを与えていたと思う。
特に最後の魔法を受けた時は、明らかに反応が違った。
少なくとも、物理よりは魔法のほうが効きやすいのは確かだろう。
「問題は、私が魔法を一切使えないってことよね」
マジでこればっかりは、才能のカケラもないのだ。
前に一度だけ知り合いに教えを乞うたこともあったけど、その時にきっぱりとそう断言されてしまったのだ。
どうやら私には、魔力を魔法に変換する機能が最初から欠落しているんだとか。
そのせいで魔法を扱うことができないとかなんとか、そんな難しい話を聞かされたような記憶がうっすらと残っている。
「まぁ、ほとんど理解できなかったから大半は聞き流したんだけど。ともかくそういう訳で、私は物理で戦うしかないのよね」
「そっか、なら仕方ないね。せめて魔力だけでも外に出せれば、それでなんとかできるかも知れないのに……」
私の言葉に同調するように、残念そうな表情を浮かべて呟く凛子。
だけどどうやら、彼女はひとつ勘違いをしているようだ。
「いや、別に魔力自体を外に出すことはできるわよ」